第12話
「んぁー?どこだここ…」
あー…昨日はマグナスのジジイと飯食って、店の2階に部屋を取ったんだったか。
サイドテーブルには昨日の食べ残しステーキをパンで挟んだ分厚いサンドイッチがある。
水差しの水をコップに注ぎながら昨夜の事を思い出す。
「えーっと今日は俺の生活用品、服とか靴とかか、それと武器とか買ってあのジジイの家に行くんだったか…」
そういや何時にどこで待ち合わせとかの話してないな。
サンドイッチをもぐもぐ食べながらのんびりと考える。
ていうか今何時だ?
2か月ぶり、というかこの時代に来てまともな寝床で寝たのは初である、熟睡してしまった。
太陽の高さを見ようと部屋の窓を開ける。
凄い数の人間だな。
店の前の樽に自称師匠が腰かけてサンドイッチを食べていた。
ジジイはいつからあそこに居るんだろう。
マグナスに昨夜貰った外套を羽織り部屋を後にした。
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1階へ降りるともう客で賑わっていた。
チェックアウトを済ませ外へ出ると上から見た時よりも人の多さに驚いた。
流石は王都だな。
「遅いぞバカ弟子が」
「何時にどこで待ち合わせるか約束しておくべきだったな、老人の早起きに付き合い切れるかよ」
「別に俺は早起きではない、さぁ行くぞ」
マグナスが立ち上がり、鉄板の様な剣を手にする。
無骨なただの鎖を襷掛けしただけの物に断山剣を差している。
「まずは服と靴、子供は成長が早いからな、調度な物と少し大きな物と2足買おう。その後は武器屋へ行くぞ」
「金ねーぞ」
ここにはな。
「昨夜の代金も俺が支払っただろう?それくらいは師匠の役目だ、甘えろ」
なんかはしゃいでるなこのジジイ、孫と買い物に来た爺さんか何かか?
「オレは左手に大剣、じゃなくてもいいか、長剣。それに右手に片手剣、腰に鉈の3本使うぞ?」
「ん?腰?あぁ!尻尾で握るのか!!アリオスはよくお前を捕らえられたな?どうせ死角から尾で掴んだ剣で不意打ちもしたんだろう?」
「したよ、絶対に取ったと思ったらあの変な盾の口が剣先を噛んで止めやがったんだよ」
「あの盾は生きているからな、所有者を認めていれば自己判断でそういう事もする」
「あの盾生きてんのかよ…」
喋るのか?肉とか食うんだろうか?糞は?
そう考えながらマグナスの後ろを付いていく。
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途中でマグナスは自分用の『走鳥』があるといい厩舎へ寄った。
走鳥とは翼が退化し足が発達した鳥である。
馬ほど力が無い為キャビンを牽く事は出来ないが、荷車程度なら牽引する事が出来る。
人によく懐き人の歴史と共にあると言っても過言ではない。
ちなみに魔族は大型の魔物を使役して乗る為走鳥はあまり使わない。
「こいつが俺の走鳥だ、どうだ美しいだろう?」
他の個体より一回り大きく真っ白い走鳥を撫でながらマグナスが言う。
おぉ、こんな良い走鳥は初めて見た。
「オレの走鳥も買ってくれるのか?」
「いや、お前は荷車に腰かけろ」
ちぇっ。
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靴と服を買い、武器屋についた。
前世の戦闘スタイル的に大剣が欲しかったのだが今は体が子供だ。
長剣でも充分大剣である。
店に入り暇そうに埃をはたいてるおっさんに
「片手剣と鉈と長剣を1本ずつ欲しい。片手剣はなんでもいい、鉈は出来るだけ刀身の分厚い奴、ロングソードは幅広で長い目の奴が良い」
店主の太ったおっさんにそう告げると、なんとおっさんは俺の押しのけた。
「おぉぉ!マグナス様っ!!このような武器屋に今日はどのような御用でしょうかっ!!?」
と、慌てて媚びを売り始める。
殺す
一瞬で頭に血が登る。
両の拳に闘気を集め、このおっさんを、今、この場で、ぶち殺す!!!
「やめんかバカ弟子が。こいつを殺して一時の憂さを晴らして、それでどうする」
「そこどけジジイ…、そのおっさんを俺は殺す、そう決めた」
ようやく俺の殺気に気付いたおっさんが『ひぃぃ』っと情けなく鳴いて尻餅をついた。
「駆け付けた衛兵も殺すか?阻むもの全てを殺すのか?いつかは俺や他の七星も出てくるぞ?」
「オレは転生した時に好き勝手に生きると決めた」
「残念だったな、お前は俺の弟子になった。好き勝手はさせん。それとも今から破棄するか?」
破棄したらジジイは俺と敵対するだろう。
殺されはしないだろうが、城の地下で呪いの魔法具でもってガチガチに縛られて、幽閉されるのが目に見えている。
冷静になってきた。
「・・・チッ、おっさん。このジジイに感謝しろよ?許してやる。おら、立て」
「今日はこの子の買い物に来たんだ」
マグナスがそう告げるとおっさんは立ち上がりこちらに謝罪して来た。
「も、申し訳ございませんでしたっ!七星が、剣聖様が来店された事で舞い上がってしまい大変な失礼を…」
「もーいいよ、長剣と片手剣と鉈を1本ずつくれ。長剣は幅広で、鉈は刀身が厚いやつ、片手剣はなんでもいい。長剣と片手剣は片刃の方がいいな」
「はい、はい…!少々お待ちください!!」
キビキビと見繕い始めたおっさんを眺めながらマグナスに話しかける。
「『こういうのも修行の内に入ってる』そうなんだろ?気に入らねぇがな」
「ああ、わかってるじゃないか、フフ」
剣聖は何故か嬉しそうだった。
「フンッ…」
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「いやぁ、焦った…。2つの意味で」
先ほど2人の師弟を見送った店主はようやく一息ついていた。
剣聖マグナスが来店した事とその弟子に殺されそうになったからである。
「おーい、今出てったのって剣聖様だよなー?」
「ん?あぁ向かいの防具屋か、実はな」
しがない武器屋に現れた剣聖が弟子を連れていたらしい。
この噂は瞬く間に王都に広まった。