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魔族の将、二度目の人生を自由に生きます  作者: 灰銀朔太郎
第九章『漆身呑炭・権謀術数』

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第105話



 森の中、離れた場所に停めていた馬車からルキアがサニティアと共に出て来た。

 どうやらルキアの治療が終わった様だ。

 ちなみに肩を貸しているのはルキアの方、サニティアは足がもつれるほど疲れ切っていた。


「な、なな…なっ…!?」


 ルキアを指差しまるで幽霊でも見たかの様にライチャスが口をパクパクしている。


「もう元通りか?ルキア」

「はい、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。サニティアさんもありがとうございます」


 ルキアの礼にサニティアが疲れた笑顔で『お役に立てて良かったです』と返している。

 今の今まで、彼女はルキアへと聖女の力で人間が扱えるトップレベルの治癒魔法を掛け続けていてくれたのだ。


「どういう事だゼノっ!何故彼女が生きているっ!?」

「声が大きいぞ、ライチャス」

「す、すまない…」

「魔道具だよ、そういう魔道具があるんだ」

「あんな状態から復活出来るような物が…!?」

「あるんだよ、不思議だよな。この事は秘密だぞ」


 そんな馬鹿なと言った顔でライチャスがルキアとオレの顔を何度も見比べる。


「ルキア殿、本当に?本当に治ったのですか…?」

「えぇ、ライチャス様にもご心配をおかけしました」

「いや…、こちらこそ助かった。礼を言う。ルキア殿のおかげであの怪物を撃退する事が出来たのだ」


 ライチャスが立ち上がって綺麗なお辞儀をしてみせる。

 へっぽことはいえ流石は公爵家の長男だ、様になっている。


「随分時間がかかったな、ルキア」

「申し訳ございません。千切れた部位がもっと残っていれば完治も早かったのですが…。流石に体積の半分近くを失うとすぐという訳には行きませんでした…」

「申し訳ありませんゼノ様…、私にもっと魔力があれば…」


 ルキアとサニティアが申し訳なさそうにしていたので慌てて訂正する。


「いや、責めている訳じゃ無い。あのくらいのダメージでこのくらいの治療時間がかかるという事が分かったのは貴重なデータが得られた。サニティアもよく頑張ってくれた、ありがとな」 


 治療を手伝ってくれたサニティアに労いの言葉をかける。


 彼女はフォルクヴァングでの戦闘に参加していない。

 ルキアの下半身と上半身の残骸を馬車に持ち込んだ時、彼女はルキアの持つアーティファクトの効果を知らなかったので相当驚いていた。

 

  潰れた眼球や千切れた腕を繋げるレベルの治療というのは聖女の最高クラスの治癒魔法か、若しくは製法も分からない希少なエリクシルという回復薬くらいしか無い。ちなみに希少過ぎて王族ですらおいそれとは使えないし、俺は見た事すら無い。


 勿論『カリタスモニーレ』の時間遡行じみた回復性能のおかげもあるが、サニティアが馬車の中で行ったルキアへの治療は充分奇跡と言えた。流石は聖女である。




「さて、作戦会議だ。ルキア、どうしてああなった?食らってみて何か分かった事はあるか?」


 ルキアが爆散したカラクリを解明しない事には、無策で挑んでもまた同じ轍を踏む事となってしまう。

 ルキアならば復活できるがオレは勿論、サニティアやライチャスなど一溜まりもないだろう。


「多分…、恐らくですが…、魔力です」

「魔力…?」

「はい、膨大な魔力を流し込まれて内側から弾け飛んだ、のだと思います」


 魔力とはほとんどの生物が有しており、少なくなると眩暈や鼻血が出て立てなくなるのだが…。そうか、流し込まれて破裂させられたか。


 同じ事がオレにも出来ない訳では無い、と思う…。

 直接触れた相手に加減せず一気に魔力を流し込むなんて事を前世でもした事がないのでよく分からない。

 普通はそんな事をせずに自身の魔力で攻撃魔法を撃った方が遥かに効率が良いからだ。 


 ミラで作られたあの化物がどういう能力かは知らないが、蟻人などの虫の魔物は身体能力は高いが魔力を持たないとされている。

 実際あのベルゼと名乗った蠅人間からも魔力は感じなかった。


「ハエ野郎からは一切魔力を感じなかったし、あの杖がアーティファクトなんだろうな」


 思い当たるのはルキアの腹を貫いたあの銀色の杖だけだった。


「あの、ゼノ様。あの怪物は魔力を持たないんですよね?」

「ん?あぁ、多分な」


 サニティアに疑問に相槌を打つ。


「魔力を持たない者でもアーティファクトって使用出来るのですか?」

「出来るぞ。分かりやすい例えなら魔力灯だな。あれは魔光石に蓄えられた魔力をエネルギーにして光っている。魔力の無い者が、と言ってもそんな奴はほとんど存在しないんだが、魔力の持たない者が魔力灯を使用しても普通に光らせる事が出来るぞ」

「なるほど…」


 まぁレスティアスに籠ってたサニティアには魔力の無い生き物なんて見た事が無いから分からなくとも仕方ない。

 というより魔力を持たない生物というのがこの世界には本当に一握りしか存在しないのだ。


「あ、ルキア。もう一つ聞きたい事があるんだが」

「はい、何でしょう?」

「あのハエ野郎が最初にライチャスを狙った時、そしてオレに目を潰された後、二度も連続で奇襲に対応してみせたな?一体どうやったんだ?」


 反射神経でオレに劣るルキアは二度とも完璧に防いでみせた。

 もしオレがその方法を真似する事が出来るのなら、カウンターで勝てる。


「あ、それはですね…。雷魔法です」

「雷魔法?」

「はい。目的の遺跡に近づいていたので極薄の雷魔法を周囲半径3mほどに展開しておりました」

「あー…、なるほどな…?」


 何と無くだが納得した。それなら敵が高速で接近しても察知出来るか…?

 しかしそれは凄まじく高度な魔力操作で伸ばした雷魔法の網と、その網の魔力の流れ、少しの揺らぎも見逃さない熟練を要するはずだ。


「オレには無理だな…、マネできない芸当だ」

「えっ、そうなんですか?」


 何も知らないサニティアがオレとルキアを見比べる。


「確かにオレは魔力容量だけは馬鹿ほどある。ルキアよりもな。だが大出力でぶっ放す事は出来てもそんな細かい事は出来ない」


 いまいちピンと着て無い顔をしている。


「どう例えたら良いんだろうなぁ…。子供なら蟻を潰さずに摘まめるが、大人には出来ない、という感覚に近いか?」

「そうですね、ゼノ様のその例えが正しいです。実際には子供と大人所か、人間とオーガほどの差がありますが」


 ルキアが苦笑いしながらフォローしてくれる。


「追撃戦はルキアとオレで遺跡に突入するって事で良いか?」


 未だにルキアが蘇った事を信じられていなさそうなライチャスへと水を向ける。

 ライチャスは足手纏いだし、サニティアは人間だから暗視出来ないしな。突入するなら自然とオレとルキアの二人になる。

 まぁ、ルキアを二人の護衛に残して行ってもいいんだが。


「え!?あ、あぁ。すまないゼノ、あんな化物が相手では僕何の役にも立てそうにない…」

「気にするな。最初から『オレに任せとけ』って言ってたろ?ライチャスはここでサニティアと留守番でもしててくれ」

「あぁ、わかった」

「あー、それから…」


 これも伝えておかねばならない。


「もしオレとルキアが夜明けまでにどちらも戻って来なかった場合は、オレ達二人が死んだ物としてサニティアと共にルマロスに戻ってくれ」

「う…、わかった」


 万が一の場合があるからな…。

 もし()()なった時、ライチャスやサニティアが遺跡に探しに入って来ても被害が増えるだけだ。


「それじゃあルキア、そろそろ行くかぁ」


 腰かけていた地面に半分埋まる石から尻を払いながら立ち上がる。


「ゼノ、朝まで待ってから突入した方が良いのではないか?」

「どうせ中は真っ暗、若しくは施設が生きてて魔力灯が点いてるから昼も夜も変わんねぇよ。オレの足の傷はとっくに癒えているし、ルキアも全快だ。オレ達二人は魔族だから暗所でも見えるしな。夜明けまで待つ意味が無い」


 ライチャスの疑問に丁寧に回答してやると『え…?』と声を漏らしてルキアの方を見ていた。

 あぁ、そういやルキアが魔族のハーフだって知らなかったんだったな。 


「もしかして、君も…?」


 ライチャスがサニティアに疑いの目を向けていたが面白そうなので黙っておこうかな、と考えていたらサニティアが両手を突き出して顔を横に振り『わ、私は人間ですよ!』とすぐに否定していた


「っと…、忘れない様にアレも持って行かないと…」

 

 馬車の後部、荷物置き場に積んでおいた『吸生蛮刀サングイス』を取り出す。


 出発前日、街で支度をした際にわざわざシェクルト支部に顔を出し、クイネに預けていたサングイスを取りに行っておいたのだ。


 これで手足が千切れようと、内臓が零れようと、最悪ルキアを切ってでも傷を治す事が出来る。


 魔王ジズ・コルニクス戦後、マグナスの形見だった断山剣ラピスガドルをミリア女王に没収されてしまったが、引き換えにこいつを褒美で貰っておいて本当に良かった。


 正直強敵と戦うのならクリヴァールよりも頼りになるかもしれない。

 あっちは槍の形をした魔力を燃料に放つ火炎放射砲台みたいなモンだしな…。




 ───────────────────────────────────




 ライチャスとサニティアを馬車に残し、ルキアと共に山の斜面にある遺跡入り口を目指して登る。


 岩肌が剥き出しの小さな山を進むとその中腹、大きな岩の陰に隠れるようにしてその入り口はあった。


「これ、は…」


 材質の分からない灰色をした金属質の扉が、内側から遺跡の内側から力づくでこじ開けられていた。

 その扉の厚みは優に30cmを越えている。


「中で目覚めたあの怪物が無理矢理開いた、のでしょうか?」

「いや、あのハエ野郎にはそんな腕力は無いと思う」


 あいつが優れているのはその反応速度と移動速度だ。

 とてもこの扉を内側から(ひしゃ)げさせたとは考えられない。


「考えられるのは三つ。一つはあの杖の能力。二つ目はオレ達が知らない兵器が中に存在する、そして三つ目は化物が他にも存在する、だな」

「新手の化物が存在する、というのは考えたくないですねぇ…」

「だな、最悪撤退もありえる」


 片腕と片目を失ったハエ野郎が遺跡の中に逃げた時点で、奴の長所の移動速度は活かせなくなると踏んで勝ちを確信していたのだが…、他にもミラ製の化物が存在するとなると話が変わって来る。


「とりあえず進むか…」

「はい」


 壊れた扉の内側へ入ると中は魔力灯が灯っていた。


「これ、まだ遺跡の機構が一部生きているのか…?」 

「完全には動いていなさそうですけどね」


 階段を降ると長い廊下が真っすぐ伸びており、左右には反応のしない取っ手の無い扉が並んでいた。


「まぁ、完全に生きてたら正面の扉をあんな開き方する必要もない、か」


 一概にはそうとも言い切れないんだけどな。

 あいつや、存在するかもしれない仲間が虫型の化物なら魔力で動くミラの施設の機能を使いこなせるとは思わないからだ。


 特に敵に出くわす事も無く一番奥の突き当りに辿り着くと、そこには少しだけ開いた大きな白い扉があった。

 


 二人で無言で目配せをし、中へと入る。


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