第103話
遺跡の入り口がある山の裾、森の中。
目を離さず警戒していたというのに蠅人間ベルゼの姿が音も無く忽然と消えた直後、オレの右太腿が『ボッ』と爆ぜた。
「ゼノ様っ!?」
一瞬血煙を噴いて爆ぜた患部を右手で押さえ、ルキアに大丈夫だと左手の槍を軽く掲げて安心させる。
傷は深くは無い。魔族の自然治癒能力、しかも上級魔族ならばこの程度何とも無い。
問題はそこじゃなかった、視えなかった事だ。
『じゅぞぞ…』という音の発生源へと目をやると先ほどとは全く違う場所に立つベルゼが、血の付いた銀の杖をその変な口で舐めていた。
「美味いか?オレの血は」
「やはりおかしいですねぇ、貴方からはルキアさんと違い人間の味すらしません」
だろうな、ルキアは人と魔族のハーフだがオレは違う。
「少しだけルキアさんと味は似ていますが、貴方の血はまた別物です」
えっ…?違うのか…?
純粋魔族だからとかじゃなくて…?オレって何かの混血だったりするのか…?
衝撃の事実は頭の片隅に追いやろう、目下の問題は目の前のハエ人間だ。
全く視えなかった。
前世も合わせてこんな事は初めてだ。
視えないと言う事は当てられないし躱せないという事に他ならない、非情に不味い。
「私と違うのは理解出来るのです、私は作られたモノですので。しかし貴方達二人は同じ種族でしょう?何故血の味が全く違うのですか?」
「さぁな…、気にした事は無かったが、もしかすると雌雄で体液の味が違うのかもな?」
「ふむ、私の攻撃を何故躱さなかったのですか?反応出来ませんでした?」
「視えなかったからな、躱せなかった」
「ほぉほぉ…、視えなかったですか…。やはり造られた新人類たる私と自然進化した貴方達では見た目こそ似ていてもその能力は段違いと言う事なのですかねぇ…」
顎に爪を添え、まるで人間様に首を傾げて訝しんでいる。
「『自然に進化を遂げた貴方達とは見た目は似ていても別物。』ベルゼ、アンタが言った事だぜ」
「そうでしたね、そうでした」
「早く我が家とやらに招待してくれよ、日が暮れそうだ」
「はい。疑って申し訳ございませんでした」
何とか追及を逃れたか…?
「ですが、一応人間の味方では無いという証拠を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「…どうしろってんだ?」
「そうですねぇ…。そこの人間の腕、肘の辺りで斬り落として、その肉をゼノさんかルキアさんが食べて頂いてもよろしいでしょうか?」
とんでもない事を言い出した。
「腕を斬り落とすだけではダメか?今腹は減って無いんだ」
「ルキアさんもですか?」
「えぇ、そうですね…」
「しょうがありませんねぇ。では食べなくとも構いませんよ、斬り落とした腕は私が頂きますので」
蠅人間ベルゼが人間のようにやれやれとゆっくり首を振るのと対照的に、ライチャスがブンブンと音を立てそうなほど髪を振り乱して顔を横に振っていた。
「そういう事だ、悪いなライチャス。腕を斬らせてもらうぞ?良いな?」
「良い訳ないだろっ!!」
「ガタガタ言うんじゃない、男の子だろう?腕の一本くらいが何だってんだ」
ライチャスを抱きしめて耳元で囁く。
「(斬り落とした腕は後で何とかしてやるから耐えろ)」
「何とかったって…」
『正気かお前…』と絶望した表情でオレを見るライチャスがその場にへたり込んでしまったのを見て、後でルキアのアーティファクトを借りればいいやと思っていたオレにも流石に少し憐憫の情が湧いた。
このハエ野郎を欺く為だけに腕を斬るのは流石に可哀想か…。
そうだ、良い事を思い付いたぞ!
「ベルゼ、悪いがこの人間の後ろから肩と手首を水平になる様に支えて貰っていいか?」
「はい、良いですよ」
ベルゼが今度は見える速さで普通に歩いてライチャスの背後に移動し、しゃがんで彼の左肩を掴んで支え、左手首を掴み、ぐいっと腕を伸ばした。
「ひぃぃっ!こいつ掌に毛が生えてる!!きっ気持ち悪いぃっ!!!」
「さぁ、ズバっと行っちゃって下さい、ズバっと!!」
ジタバタするライチャスだったが彼を掴んだベルゼがしっかりと捕まえており、逃れる事が出来ない様だ。
オレはライチャスの前に立ってクリヴァールの柄の中ほどを握り、槍の穂先の腹でライチャスの肘関節をぺちぺちと叩いて距離を確認する。
「大体このくらいだな…、行くぞッ!!」
しっかりとリーチを確認してクリヴァールを片手で大上段に構える。
そして振り下ろす直前、オレは振り上げた槍を持つ握りを頭で隠して投擲用に変え、全力で正面へと向けて振り抜いた!
振り下ろした掌の中をクリヴァールの柄が走り、高速で射出される!!
飛び出した赤槍はライチャスの肘の上を通過し、その切っ先がベルゼの左目を貫いて止まった。
「どういう、おつもりですか…?」
「悪い、勢い余ってすっぽ抜けた」
「その言い訳を、信用しろと…?」
クリヴァールに左目を貫かれたベルゼだったが槍は頭部を貫通していなかった。
何と振り下ろされた赤槍が、ライチャスの腕を断たずに己へと真っすぐ放たれたと気付いたベルゼは超反応で柄を掴んで止めてみせたのだ。
「よく止められたな、眼は大丈夫か?」
「大丈夫な訳が無いでしょう、視界の三分の一ほどが失われましたよ」
「もう一度チャンスをくれ、次はしっかりと両手で握るから、な?」
「…。」
オレは石突の付近を握ったクリヴァールを引こうとするが、ベルゼがまだ自分の目に突き刺さる槍の柄を掴んで離さない。
「離してくれないか?」
「いいえ、離しません」
「そうか。じゃあ絶対に離すなよ?」
オレは石突を握った手に魔力を流した。
「灼け」
クリヴァールの柄が紅くぼんやりと光り、未だにその切っ先をベルゼの複眼に埋めた槍の先端から熱線を放つ!
『ジュッ!!』と短い音が鳴った瞬間、ライチャスの斜め後ろにしゃがんでいたベルゼの姿が一瞬にして消え、奴の頭部があった先の地面をクリヴァールの極細の熱線が灼いた。
今までの瞬間移動の距離的にそれほど遠くへは行っていないはずだと判断し、オレは急いで周囲に視線を巡らせる。
読み通りに木の幹を盾にして半身を隠した奴を発見した。
「やってくれましたね…。私に嘘を吐いたのですね…?」
恨めしそうに木の裏から潰れていない片目を覗かせて話しかけて来る。
「そんな所に隠れてどうした、ベルゼ。出て来いよ、遊ぼうぜ」
「その槍は魔道具ですね?私が調べた資料に虫型の魔物は皆魔法が使えず、また魔力を有しないと記されていましたが…、どうやらこの時代でもそれは変わっていないようですねぇ…」
こちらの呼びかけにベルゼは答えず、一方的に分析を喋り始める。
会話をする気は無く、自分の頭に浮かんだ言葉をそのまま垂れ流している様だった。
「つまりゼノさんとルキアさんは何らかの方法、魔道具などで姿を偽っている、と…。なるほど、なるほど…」
「正解だ、ベルゼ。虫の癖に中々聡いじゃないか」
「よくも…、よくも私を騙したな…、私の希望を踏みにじってくれたな…」
おぉ…、怒り始めた…。
「同じ種族?繁殖したいからルキアと交尾させてくれ?その辺の虫同士で勝手にヤってろよ、気色の悪いハエ野郎が」
「このままでは腹の虫が治まらぬ…」
「ははは、虫だけにか?お前蠅だもんなぁ」
「五月蠅いッ!!」
お、ようやくこちらの声に反応したぞ。
「ほっ、ほっほっほっ…、虚仮にして頂いたお礼に、貴方には最上の絶望と後悔を送らせて頂きましょうか…」
直後、ベルゼの姿が木の陰から消えた。
何度か見せられてようやくオレはこいつの速さの秘訣を理解した。
生物は動きの起点から動作に移るまでに予備動作があるのだ。
殴る時は拳を握って腕を曲げたり、肘や肩を引くだろう。歩く時は膝を上げるし、飛び出す時は足を撓めるだろう。
しかしこいつには無い、動き始めた時が最高速度なのだ。
ライチャスは地面に伏せて、脅威の嵐がすぎるのを待っている。正直邪魔でしか無いので有り難い。
ルキアは左手に魔力を集め、右手には魔導力変換剣の柄を握りしめていた。
オレはクリヴァールを構え直して奇襲に備える。
魔力が無くとも、せめて闘気を纏ってくれれば位置がわかるというのにそれすらも感じない。
どこだ?どこから来る…?
「そこですっ!!」
とてつもなく長く、そして短い静寂はルキアが空中に放った雷魔法『ライトニングボルト』によって引き裂かれた。
暗い森の木々をルキアのライトニングボルトが青白く明滅して照らす。
彼女の放った雷魔法の先、空中で雷撃に打たれたベルゼは一切ダメージを負わず銀色の杖でその雷撃を受け止めていた。
ライトニングボルトの直撃を杖で受けたベルゼがルキアの前へと降り立ち、凄まじい速さで右手の杖をルキアの脇腹に突き刺すと同時に、ルキアがカウンターで下から振り上げた魔導力変換剣が奴の左腕を斬り飛ばして切断されたベルゼの左前腕が宙を舞う。
「ほほほ…、よく私が貴女を狙うと分かりましたねぇ!!」
「確信していましたよ、私に来ると!」
腹を杖で貫かれたルキアが痛みに顔を顰めながらも無理矢理笑みを作る。
「ほぉ…?答え合わせをしましょうか。何故そう思ったのか最期に理由をお聞かせ頂けますかな?」
「一つはゼノ様に仕返しするのにゼノ様を殺しては悔しがらせる事が出来ない、そして二つ目は私が貴方と同じ種の雌では無いのでもう生かしておく理由が無い」
ルキアの解を聞いたベルゼが一瞬黙る。
「正解です…、聡明ですねぇ。私の眼には貴女がこんなにも魅力的な雌に見えているというのに…、非常に残念です…」
表情は変わらないベルゼだったが声が本当に残念そうだった。
「もう勝ったおつもりですか…?」
首を落とされない限りどんな傷でも癒えるアーティファクトを持つルキアがベルゼを煽る。
「いいえ、もう終わりました」
ベルゼがゆっくりとルキアの腹を貫いていた銀の杖を引き抜いた。
「『光子剣ソルケイン』の威力、とくとご覧あれ…」
そう言い残してベルゼがルキアの前から姿を消した。
彼女の持つアーティファクトを知らぬライチャスが腹を貫かれたルキアを見て青い顔をしている。
だがあの程度の傷、ルキアならば『カリタスモニーレ』の効果で瞬時に治るだろう。
蠅人間の目をオレが潰し、ルキアが左腕を切った。大きなアドバンテージを稼げたと言える。
楽観視していたら突然ルキアがよろめいた。
ありとあらゆる怪我が再生する魔道具を持つ筈のあのルキアが、苦悶の表情で貫かれた脇腹を手で押さえ、よろよろと蹈鞴を踏んで後ずさる。
彼女が手で押さえる指の隙間、脇腹の傷口からは血では無く青白い粒子が火花の様に吹き出していた。
「ルキア?大丈夫かッ!?」
「ゼノ…、様っ…!!」
ルキアがオレへと手を伸ばした直後、彼女が下半身だけをその場に残して爆散した。
とっさに腕を上げて目を庇ったオレの腕や服には勿論、辺りの地面や木の幹にも飛び散った肉片がへばり付き、枝には内臓が引っかかり、見事に木端微塵。
数秒遅れて血と肉の雨がオレの頭上へバラバラと降り注いだ。
『ほっほっほっ…、良い表情ですね。その顔が見たかった!私の後を追うというのなら覚悟しなさい、ゼノ。次にこうなるのは貴方だ…』
日が落ちて真っ暗となった森の中にどこからともなくベルゼの声が響き、そしてルキアを殺して満足したのかその気配が完全に消えた。
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ルマロス城の外れ、かつて皇帝や大臣のお気に入りが収容されていた地下牢が存在する。
クレア王国領となる前は多くの獣人女性が囚われていたこの地下牢も、今は街で犯罪を犯した者がたまに拘留される程度にしか使われていない。
当然収容される者のほとんどは獣人女性では無く、専ら娼婦相手や同業者相手にトラブルを起こした冒険者稼業の人間の男ばかりであった。
そんな地下牢へと続く階段をキョーノスが険しい顔で降りて行く。
階段を降り切った先は牢屋番の詰め所となっており、そこには衛兵三人が酒を飲みながら小さなテーブルを囲んで遊んでいた。
「おい、お前達。アトラを知らないか?」
「へッ!?」
突然声かけられた衛兵達は一瞬で酔いが覚めたのか慌てて立ち上がり姿勢を正そうとする。
「キョ、キョーノス様っ!?もう就寝なされたのではっ!?」
「こんな夜分にこんな場所へ、一体何の御用でっ!!?」
立ち上がりかけたキョーノスへと背を向けていた兵の肩を、キョーノスが後ろから掴んで椅子に座り直させる。
「よい、座ったままで構わん。アトラはどこだ?知っているか?」
「ア、アトラですか!?えーっと…」
兵達が顔を見合わせる。
「兄上が不在の間、アトラは僕専属の侍女となっている事は知っているな?居場所を知らぬのかどうなのかを聞いている、答えよ」
「あ、あの~…。私共は、その、ブロム様の許可を頂いて…」
キョーノスに両肩を掴まれて背を向けている兵が震える声で言い訳を始めるのを見て、キョーノスは腰の剣を抜き、その兵の首に刀身を当てた。
「アトラがどこへ行ったか知らぬのか、と聞いている」
「こ、この先の…、使われていない、牢屋…、そのどこかに居ります…」
「さっさとそう答えぬか」
首に宛がっていた剣を降ろしたキョーノスがもう用はないと踵を返し、詰め所を出て暗い廊下へと歩いて行く。抜き身の剣を携えたまま。
「こ、殺されるかと思った…」
「おいっ!何でキョーノス様がここに来るんだよ!?寝たんじゃ無かったのかよ!?」
「知るかよ…、どうせ部屋に連れ込もうと思ったんだろ…」
「ふざけんなよ、次の順番は俺だったんだぞ」
「良かったぁ、俺の番の時じゃなくって…」
「声を掛けられて付いて来たのはアトラだぞ、俺達何か罰を受けるんじゃないだろうなッ!?」
「大丈夫だろ、多分…」
「無理矢理連れて来た訳じゃないもんな…?ブロム様からの許可も頂いているし…」
「「「…。」」」
詰め所に残された三人の兵士はカードで遊ぶ気にもなれず、酒を口に運ぶ気にもなれず、今お楽しみ中の同僚を置いて去る訳にも行かず、処刑を持つ囚人の様な面持ちでテーブルを囲み、仲間の無事を祈り待つ羽目となった。
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「すまなかった、ゼノ…。なんと声をかければいいのか…」
蒼褪めた顔をしていたライチャスへと視線を向けると頭を深く下げていた。
「何がだ?」
「ルキアさんの事だ…。まさかこんな事になるとは…、本当にすまなかった…」
オレはクリヴァールの先に火を灯し、松明代わりにして周囲を見渡す。
「あの、ゼノ…?何を…?」
「何を?ルキアを探してるに決まってんだろ。ほら、お前の眼でも見える様に照らしてやってるんだからライチャスも手伝え」
「あ、あぁ…、そうか…。遺体を、持ち帰らないと…、そうだったね…」
ハッとしたライチャスが何か勘違いをしている。
まぁいいや。
「何言ってんだ、ルキアは死んでねぇぞ?絶対とは言い切れないが」
「何を言ってるんだゼノ…!!あまりに凄惨な光景に頭がおかしくなってしまったのかいっ!?しっかりしてくれっ!ルキアさんは死んだんだ!!あそこに下半身が転がっているのが見えないのかっ!!?」
どうやらオレの気が触れたと思われているようだ…。
「死んでねぇって…。お!あっちじゃねぇか?」
ルキアの微かな魔力を感じ、ガサガサと茂みを掻き分けるとそこにルキアがいた。
残っているのは右腕の上腕と右肩、右胸から上、幸い首は繋がっており頭は一度割れている様だったがすでに塞がっており、中身も零れていない。
変な杖を刺された左脇腹側は、鎖骨の辺りまで腕も肩も肋骨も何もかもが喪失していた。
右胸の下、肋骨の内部は伽藍堂、臓器は全て吹き飛んでいる。
「ルキア、生きてるか?」
ルキアの残骸へと恐る恐る声を掛けてみる。
頼む、生きていてくれ。
彼女の虚ろな目をじっと見つめていると、ルキアの瞳がゆっくりと瞬きをした。
ルキアの首には神製のアーティファクト『カリタスモニーレ』がクリヴァールの炎に照らされてしっかりと輝いている。
よくよく見るとルキアは今この瞬間にも凄まじい速度で回復していた。
見つけた時は上腕までしかなかった右腕はすでに手首の辺りまで骨が伸び、肉が包み始めていた。
この様子なら直に血管が這い、皮膚が覆うだろう。まるで時間が巻き戻っているかのようだ。
「おっと、こうしちゃいられない…」
ルキアを抱きかかえて立ち上がる。
「サニティアの所へ戻るぞライチャス」
「へ…?あぁ、そうだね…」
爆心地にはルキアの下半身が残っている、繋げれば回復も速まるだろう。
あっちには治癒魔法が使えるサニティアもいるしな。
サニティアの元へ戻る途中、ルキアの左手首から先を見つけ『投影鏡環スペキオム』をしっかり回収しておいた。
これは女王からの借り物だからな、無くしたら代わりに何を求められるか分からない。
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地下の檻の中に一組の男女が居た。
一心不乱に夢中で腰を振る男の方は、幸運にも三人の同僚相手にカード勝負で一番手を勝ち取ったこの城の衛兵。
女の方は長い黒髪の美しい獣人アトラで、目を閉じて壁に手を付きロングスカートを腰までたくし上げて尻を突き出し事が終わるのを待っていた。
こんな事はここルマロスではよくある事だ、それはクレア王国領となった今も昔も変わらない。
牢屋の外まで鳴り響いていた肉を打つ音がふいに止み、アトラに腰を密着させたまま男の動きが止まって痙攣した。
「ん…、終わりましたか…?」
ようやく一人目が終わったか。という溜息を飲み込んでアトラが受け止めていると、彼女の後ろの兵がしつこく腰をぐいぐいと押し付けて来た。
「あの、ちょっと…、後がつかえていますので…」
このまま抜かずに続けられては堪らない、まだ後三人も相手をしなくてはならないのだ。
迷惑そうにアトラが振り返ると、彼女に腰を押し付けていた兵士はすでに絶命していた。
突然自分の胸から生えた剣に驚愕で目を見開いた表情で固まっている。
兵士がゆっくりと崩れる様にして床に横倒しで倒れ、その姿をぽかんと口を開けて見ていたアトラの口元が無意識にニィっと笑みに変わる。
死んだ兵の後ろから現れた、剣を引き抜いた少年の瞳に嫉妬と怒りの炎が宿っていたから。




