第10話
「迷惑をかけたな、アリオス」
全く悪びれていない風に謝るマグナスに壊れた留置所を見渡し『ホントですよ…』と返すアリオス。
「ほら、出て来い」
「出ろったって、魔族がぶらついてて良い様な街なのか?王都は」
「こいつを着ろ」
そういってマグナスは白いフード付きの外套を渡してくる。
「なんで白なんだよ、汚れ目立つじゃねーか。おいアリオス、俺の元着てたローブ返せよ」
「いやーやめといた方が良いと思うぞ?あれは魔族崇拝してるっつー噂の邪教団の制服みたいなもんだ」
「マジかよ」
どうりでガキの背丈の俺に行商がビビってた訳だ。
魔族を信奉する人間なんているんだな。何百年も経てば仕方ないか。
てか俺を買おうとした魔法使い、薬の材料にするってのは奴隷商に嘘ついてたのか…。
魔族の保護目的か?
数集めて蜂起とかするんじゃないだろうな?
まぁ俺の知った事ではない。
「外套に俺と揃いのオーロン家の紋章が入っている、よほどの馬鹿相手じゃなきゃ面倒に巻き込まれないはずだ。」
そういって白い外套を押し付けてくるマグナス。
知ってるぞ、『おいガキなんだそのマントは』とか言って争いに巻き込まれるんだろう。
やれやれ。
「さて今後の話合いに飯でも食べに行くか、腹減っただろう、捕らえられてもう10時間以上経つんだろう?」
「もう夜更けだぞ?こんな時間に開いてる飯屋があるのか?」
「むしろこの時間でいい頃合いだ。夕暮れに帰って来た冒険者共も数時間飲み食いしてちょうどいい具合に酔っぱらっている。誰も俺たちを気に留めんだろう」
「ふーん」
白い外套を羽織ってフードを目深に被りマグナスの後を付いていく。
本当にでかい剣だな、まるで鉄板の戸板が歩いているようだ。
これもアーティファクトだろうな、ただ大きいだけの剣にあの威力はあり得ん。
「アリオス!留置所は捕らえた魔族が暴れたと報告しておいてくれ!」
「おいふざけんなジジイ」
「フハハハ!」
こちとらたださえ危うい立場なんだ、罪を増やさないでくれ。
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夜の街を2人で歩く、もう日付も変わる頃だろう。
誰も歩いていない道を歩き大通りに出るとさすがにチラホラ人が散見出来た。
昼の王都の顔を知らないから夜との対比が出来ないな…。
少し進むとそこだけ煌々と篝火の灯った両開きのスイングドアの店に着いた。
「さぁ着いたぞ、ここが王都で一番大きな酒場『ヴァルハラ・ガーデン』だ」
人族の信じる戦死者の魂が行くと云われる、死後の世界、だったか?
なるほど、近づくと店の入り口で死んだように酔いつぶれている冒険者が2,3人いる。
きっと彼らは今楽園に居るのだろう。
死んだように眠る冒険者を一瞥もせず、肩で風を切ってズンズンと歩きマグナスはバーンとドアを開け、入り口を潜る。
大剣が店の入り口ギリギリだ。
店の中には魔力で光る魔光石が至る所に設置されておりまるで昼間の様に明るい。
忙しなく働いている給仕を呼び止め「席を用意してくれ」と言うといつもの事なのだろう。
「マグナス様!よくおいでくださいました、今用意致しますね?」
そう言うと店の奥の方、机に突っ伏していた冒険者をずるずると外に運び出し。
「こちらへどうぞ!」
と明るく言う。
少し化粧が濃いがかわいい娘だな。
そういえば俺はまだ10歳くらいのガキの体なんだった。
胸や尻を触っても許されるかもしれん、いや魔族だとバレたら違う悲鳴を上げられそうだ。
「フフ、体は子供でも心は雄なのだな?どうやら前世の記憶はあるらしい」
「・・・。」
観察してんじゃねぇよジジイ。