表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

夕暮れ時の出会い

屋敷への帰り道。ラウルの店に長居したため、日が傾き、通りの人もまばらになっていた。


(急いで帰らないと、お母様が心配して、官憲(かんけん)に捜索依頼を出してしまうかもしれないわ!)


そんな事になったら大事である。


マリンとアルバが何やら立ち話をしているので、声を掛けると、マリンが困り顔で振り返った。


「アルバ様に顧客から、急な呼び出しが入ってしまったようでございます。ですが、私一人でお嬢様を屋敷まで安全にお連れするのは難しいと、話していたのです」


皇都といえど、女性二人だけで、薄暗い夜道を歩くのは危険である。メリーナも顎に手を当てて思案する。


「ご令嬢申し訳ございません。辻馬車を手配させていただきますので、どうかご容赦ください」


「それなら安心ね。私たちは大丈夫だから、気にしないで。今日はありがとう。また屋敷でお会いしましょう」


難しい顔をしながらアルバが言うので、メリーナは鷹揚(おうよう)に頷いた。


◆◆◆


辻馬車に乗って、夕闇の街を見つめる。


衣装店や、雑貨屋、昼間に営業していた店には、閉店の看板が掛けられていたが、酒場や飲食店には、人が集まっていて賑やかだ。


(私もアゼリアに居た時は、お母様と一緒に食事に出掛けたなぁ。皇都に来てからはご無沙汰ですけど!)


アゼリアの(まち)は、ここまで賑やかでは無かったけれど、人混みに飲み込まれないで済むのは、田舎の特権だわと、メリーナは感慨深い気持ちになった。


「わっ!」


馭者(ぎょしゃ)の慌て(ごえ)とともに、馬車が急停車し、メリーナとマリンは何事かと顔を見合わせる。


「見て参ります」


「私も行くわ」


「お嬢様はここでお待ちください」


「嫌よ」


押し問答をしていると、いよいよ外が騒がしくなった。


マリンはゆっくりと息を()き、グッとメリーナに顔を近づける。


「くれぐれも、私から離れないでくださいね」


その真剣な声色(こわいろ)にメリーナは気圧(けお)され、コクリと頷くしかなかった。


◆◆◆


二人で馬車を降りると、馭者(ぎょしゃ)がメリーナたちに気づき、来るなと手振りで合図してくる。


(車輪でも壊れたの? それとも馬の機嫌が悪いのかしら)


馬車の陰から馭者がいる場所を覗き込む。


馬の前に倒れた男性と、その男性を囲んでいる軍服姿の集団。


メリーナの目に飛び込んできたのは、そんな予想外の光景だった。


(歩いている人を()いちゃったの?!)


サーッと血の気が引くメリーナである。官憲に連行される未来を幻視した。


「馬車は大丈夫ですか?」


「うぅーん、さっきの衝撃で軸が壊れてしまいました。今日は走らせる事ができません」


軍服姿の一人の男性と、馭者の会話を聞き、メリーナは首をひねる。


(人を轢いたにしては、和やかな会話ね?)


「それは……。乗っている方は……、サウザン伯爵令嬢?」


馬車に目を向けた男性が、メリーナを見つけて驚きの声を発した。


どなたかしらとメリーナは目をすがめる。


馬車の陰から出て、軍服姿の男性に近寄りながら、記憶を探った。


軍服姿の男性の前で立ち止まるメリーナ。男性は制帽をはずすと、メリーナに対して礼をした。


「またお会いしましたね。私はローレン・ノーザランドと申します。以後お見知りおきを」


青緑色の目がメリーナを映し出す。口元に微笑を浮かべたその青年は、駅でお父様に話しかけていた、ノーザランド侯爵令息であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ