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刺繍デザイナー兼縫製職人②

いつまでも外で立ち話をする訳にもいかず、メリーナたちはラウルの店に入った。


(衣装店というより、工房という方がしっくりくるお店ね。あ、あれは、刺繍絵画! ラウルさんの作品かしら)


店内には、衣装店だというのにドレスは置かれておらず、代わりに刺繍が施された品々が、整然と飾られていた。


皇都に来てからの疲れも癒される。メリーナの気分は盛り上がり、知らず鼻歌がこぼれだした。


(綺麗で美しい。ラウルさんの才能は国宝級ね。あの本のドレス、ぜひ買わせていただきます)


「アルバ。この嬢ちゃんがそうなのか?」


「ラウル……。この方は伯爵家のご令嬢です。少しは言葉に気をつけてください。貴方の貴重な顧客になってくれるかもしれないお方なのですから」


「アルバさん。別に大丈夫よ。ここはラウルさんのお店であって、皇宮とかではないでしょう? 私も気を張り続けるのは疲れるわ」


あわよくば、ラウルと仲良くなれると尚良しである。


「私はメリーナ・サウザンと申します。ラウルさんのドレスのデザインが気に入ったので、購入させていただけたら嬉しいわ」


商談机の椅子に案内されたメリーナは、はやる気持ちを抑えながらそう言った。


◆◆◆


もの好きな嬢ちゃんも居たものだと、ラウルは目の前に座っているご令嬢を、しげしげと眺めた。


昨日アルバに、ドレスを購入希望のご令嬢がいると聞いたときは、何の冗談かと刺繍作業の手を止めたほどだ。


俺の刺繍の腕前は、趣味に毛が生えた程度だと認識している。刺繍工房の弟子ですらなく、職人養成学校でも、平凡な成績だった。


ただ、刺繍師である母の仕事を、小さな頃から間近で見ていたから、刺繍のデザインに対しては自信がある。


俺のデザインを気に入ってくれたというのなら、ドレスを売るのに否やはない。


そんな事を考えつつ俺は交渉のために口を開いた。


◆◆◆


ラウルとの交渉はつつがなく終わり、メリーナはにこにこと顔を綻ばせる。


「ラウルさんのデザインは、皇国のものとは少し違いますよね。他国のデザインなのかしら? それともラウルさんご自身で考えられたものですか?」


ドレスも無事に買えたので、メリーナは心なしか前のめりになりながら、矢継ぎ早に質問を投げかけた。


「自己流だ。多少、東域の民族デザインも流用しているが」


「東域の! 模様に(おもむき)があるのはそのせいかしら」


「嬢ちゃんは東域の刺繍もかじってるのか?」


「ええ。田舎にいる時に、行商人が着ていた服の刺繍が気になって、調べた事があるのです」


皇国の刺繍ではないとひと目でわかる模様だったなとメリーナは懐かしく思う。


ラウルとの話は弾み、夕刻の鐘が鳴り響くまで、話し込んでいた。


「もうこんな時間か。嬢ちゃんと知り合えて良かったぜ。ドレスの縫製が完了したら、アルバに持っていかせるからな」


店の壁にある掛け時計を見て、ラウルはメリーナとの会話を切り上げる。


「こちらこそ、有意義な時間を過ごせて良かったです。また、ラウルさんとお話しできたら嬉しいわ」


「ああ。またいつでも遊びにこい。歓迎するぜ」


名残惜しいが、マリンもソワソワし始めたので、メリーナは外で暇を潰していたアルバに声を掛けて、ラウルの店を後にした。

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