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ようこそ、一条家へ  作者: 如月はづき
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60.永い夜⑤side風見育


「鬼ごっこはもうやめたら?もう夜遅いよ~」


 深夜、暗闇、刃物、そのシチュエーションに似合わない深雪さんの声が静かな廊下に流れた。空気感を変えるような深雪さんの軽薄さが、この状況に戸惑いを隠せない僕にはありがたかった。

 急いで廊下の電気をつけると、深雪さんの手は刃物を持つ望月の手を握っていた。


「なんや……っこのーー」


 その手を思い切り振り払って、望月は深雪さんへと刃先を変えた。


「柚子っ」


 望月と深雪さんが攻防を繰り広げつつ、柚子から離れた。その隙に僕が柚子へ駆け寄る。へなへなと廊下に座り込んだ柚子の顔を覗き込むと今にもこぼれ落ちそうな涙がその瞳に溜まっている。


「もう、大丈夫」


 結衣ちゃんは柚子が落ち着かない時、肩に手を置いて声をかけていたことを思い出して同じようにしてみる。その瞳は僕の肩越しに、望月と深雪さんの攻防を見つめている。振り返ってみると、刃物を持っている望月ではなく、武器も持たず飄々とそれを躱す深雪さんの方が圧倒的に有利だーー場数が違うというのはこの事なんだろう。

 望月の一瞬の隙を突いて、深雪さんが刃物を持っていた右手を背中に沿って捻り上げた。


「いっ……」


「まだまだだねぇ~」


 拘束されていない左手でまだ抵抗している望月に、深雪さんが何かを呟いた。小さく息を飲み込んだ望月の右手から刃物が滑り落ちて床に転がった。




「おい!なんの騒ぎだ」


 ドタドタと階段を駆け上がってくる音と共に、防寒着を着込んだ修斗くんが現れた。屋敷の外を見回っていたんだろうな……この屋敷のことを1番に考えている人だから。けれど、この騒動は修斗くんではもう手に負えない。


「見て分からない?……王宮に連絡して帰ってきて貰って」


「俺も手が離せないから~鳥待よろしくね~」


 怒りを隠さない表情で今にも望月に詰め寄りそうだった修斗くん、深雪さんに促されるとドタドタと音を立てて1階へ走り去った。


「さぁてと、望月は俺とこっちね~。風見は柚子ちゃんのことよろしくね~」


 いつの間にか望月はその両手を拘束されて、力無く項垂れていた。深雪さんは望月を連れて階段へと消えていった。

 やっと落ち着いて柚子に向き合えると思った。刃物を向けてられその相手は想い人だったーーなかなかヘビーな体験だろう。いくら図太い柚子でも、精神的に追い詰められたに違いない。

 肩に置いた手を離して、下を向いた柚子に問いかける。


「柚子」


 いつもなら、減らず口を叩くとか、驚いた様子を見せるとか、何かしらリアクションがあるはずなのに。……何も答えない柚子がそこにいる。


「柚子っ!」


 滅多に出さない僕の大声は廊下に響き渡った。さすがの柚子も顔をあげる。


「びっくりしたねぇ」


 ヘラヘラと力無く笑ったその顔を見たのは、人生で3回目だったーー。この顔をしたら結衣ちゃんじゃないと手に負えない。柚子の心が折れそうだ。

 早く帰ってきてくれーー王宮からの帰りを待つ時間は僕の人生で1番長い時間だった。



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