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ようこそ、一条家へ  作者: 如月はづき
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43.災⑨

 



「えっ?犯人捕まったの?」




 あの夜から2週間。その話が私に伝えられたのは、いつも通り朝の玄関掃除をしている時だった。




「声が大きいよ。僕も小耳に挟んだだけ。……ちゃんとした事は昼食の時にでも、ご当主様から伝えられるんじゃないかな」




 育によると、門番さんがいつもより早めに来たらしい。お庭のお手入れをしていた育に、少し慌てた様子でお姉ちゃんか立花さんに大雅くんに取り次いで欲しいと伝えたという。すぐに立花さんを呼んだら、犯人について話したいーーと言う事で、今は話の真っ最中らしい。




「へー。あんまり目撃情報が少ないから、もう見つからないかと思ってたよ。……さすが騎士団だね!」




 あの夜の犯人について誰にも話すなーーあの日、私の部屋から去る時に門番さんから言われたことだ。私が目撃したことが犯人に知られたら、狙われる可能性がある。その為、私が犯人のような人を見たことを、お屋敷のみんなは知っているけど、詳しいことを聞いてくる人は誰もいなかった。捕まったなら良かったな。少しホッとした気持ちで、玄関掃除を再開した。








 門付近の掃除に行く前にキッチンへ向かい、お姉ちゃんから門番さんへの差し入れを預かる。早く犯人の話を聞きたいーー


 チラッと差し入れの袋の中を確認する。今日はフィナンシェが6個か……2個くらいは分けて貰えるだろう。これでも食べながらお話しよう。




「門番さーん!おはようございます!今日はフィナンシェです。いっぱいあるよ」




「おはようございます。……はぁ。そう言う時は狙ってる時だからな、少し分けてやる」




 門番さんは、袋からいくつかフィナンシェを取り出していた。その姿を横目に掃除を開始する。……あ、おやつのお裾分けじゃなくて、犯人の話聞きたいんだ!




「ほら」




「わーい!ありがとう!」




 フィナンシェを口に運びながら、門番さんの様子を伺う。話聞いても大丈夫かなぁ。




「……事件のことを聞きたいんだろう」




「うん!」




 元気に返事を返すと、門番さんは周囲をキョロキョロ見ていた。一通り様子を確認すると、門番さんの詰所の中に招かれた。中に入ることは滅多にないので、少し驚く。




「お前が犯人を見たことはみんな知っているが。誰にも詳しいことは話していないな?」




「え?……誰にも言ってないけど」




 解決した事件について、1から全部聞けると思っていたので、門番さんの真剣な表情に思わずたじろぐ。




「……お前にだけは言っておく。この事件は水面下でまだ捜査が続いている」




「えっ!それってどう言う……」




 詳しく聞きたいーーと言葉を紡ごうとしたところで、遠くから私を呼ぶ修斗くんの声が聞こえる。いっつもタイミング悪いな……。




「詳しいことは、また話す。とにかく、口外するな。事件のことを話されたら、適当に話を合わせておけ」




 その言葉を背に私は詰所から、修斗くんの声の方へ走った。どう言うこと?事件解決の報告をしたんだよね?なのに、まだ捜査は続いている?しかも、誰にも話すなって……何が起きているの?






「先日起きた我が家への襲撃だが、犯人1名が逮捕された。犯人も襲撃を認めた為、これにて事件解決という報告があった」




 昼食の席で大雅くんからされた報告の内容は、私の見た犯人の話とは少し違っていた。1名?私が見たのは確か2人だった。




「良かったわ。これで一安心ね」




 隣の席のお姉ちゃんが呟いた。




「そうだね。良かったね」




 とりあえず話を合わせる。1人って何?どういうこと詳しく知りたい。




「柚子のお手柄ね」




 隣の席で笑いかけるお姉ちゃん、ますます意味がわからない。ポカンとした顔でもしていたのだろう、お姉ちゃんが言葉を続ける。




「柚子が見た犯人が捕まったのよ。ほら、少し丸い感じの体型の方だったかしら」




「あぁ!そうだね!柚子のおかげ!ふふん」




 いつも通りのハイテンションを装う。嘘をつくのはあまり得意ではないーー大丈夫か、いつも私こんな感じだっけ?そんな風に思いながら言葉を選ぶ。




「おーい、柚子ちゃんだけのお手柄にしないでよ~。俺も頑張って追いかけたんですけど~」




 向かいの席から話しかけてきたのは、深雪さんだ。あの日、逃走した犯人を追跡したのは彼だ。




「そうだね!深雪さんも柚子もお手柄!」




 大袈裟に拍手をして見せる。お姉ちゃんと、深雪さんの隣に座る光くんも合わせて拍手をしてくれた。

 犯人逮捕を受けて、光くんはホッとした様子だった。聞くところに寄ると、あんな襲撃は体験したことも予期したこともなく、びっくりしすぎて胃が痛くなったらしい。






「ねぇ、門番さんーーさっき事件の話聞いた。いろいろが、その……柚子の思っていたのとは違うというか」




 午後、私はこっそり門番さんのところに向かった。周りの誰かに聞かれた時、不審に思われないように慎重に言葉を選ぶ。




「あの夜、唯一の目撃者がいた。犯人の走ってきた小太りの男と、それを追いかける執事ーー深雪が目撃されている。その時点で犯人は1人だ。……だが、お前が見たのは2人。騎士団では、屋敷の荒らされ方からして、犯人は1人ではないと考えている。それがお前が見た証言を蔑ろに出来ない理由になった。……絶対にないとは思うが、屋敷内部の人間か若しくは屋敷に通じる人間に協力者がいるーー可能性がある。お前の証言が知れ渡れば危険だ。だから、絶対に口にするな」




 少し早口だった門番さんの言葉。ーーこの屋敷に犯人の協力者が?そんなことない。と言いかけたところでやめた。自分以外の人間が100%真実を述べているとは限らないし、この目で見たことだけを信じなければ。


 また何か思い出したら言ってくれ。門番さんにそう言われたけど、私はその後犯人のことは何も思い出せなかった。



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