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ようこそ、一条家へ  作者: 如月はづき
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35.災①

 


 王暦235年10月27日




 人生で初めてのベーグルを食べた!


 育が買ってきてくれたのー。ありがとう!


 ふわふわでも、サクサクでもなくて、


 モッチモチだった。すごーく美味しかった。


 光くんが紅茶も淹れてくれて、3人でお茶会したのも、楽しかった!


 次のお休みは街に行きたいな~










 3人でのお茶会は盛り上がって、いつもより部屋に戻る時間が遅くなった。日記を書いて布団に入ろう……。あ、明日の洋服の準備だけしておくか。ペンを片付けて、クローゼットの前に立つ。明日の服を出して、布団に潜り込んでーー。








 ん?ん?今なんかすごい音がしたぞ?深呼吸して再度耳を澄ませる。食器が大量に割れる様な音ーーこんな時間に誰かキッチンにいる?またガラスが割れる様な音がして、その後聞こえたのは修斗くんの怒鳴り声だった。


 只事じゃない!何かが起きてる。布団から飛び出してカーディガンを1枚羽織る。部屋の外に出た方がいいのか、このまま部屋で待機するべきか……迷うなぁ。どうしよう。






 コンコン


 微かな物音ーーびっくりしたけど、これはお姉ちゃんだ。音がしない様に扉がそっと開いて、手に持っていると思われる小さなランプの光がぼんやり見える。




「……柚子。起きてる?」




「お姉ちゃんっ!」




 キョロキョロと室内を見渡したお姉ちゃんが、タンスの影に隠れた私を見つけてくれた。




「大丈夫?立てるかしら?」




 大丈夫、柚子元気だよ!の意を示す為に大袈裟に首を縦に振る。小声で話しかけられた時は、なるべく声を出さないで返事をするーーお姉ちゃんの教えだ。


 右手を引かれて中腰で部屋の中を移動する。扉の前で廊下の様子に聞き耳を立てれば、バタバタ走り回る音と相変わらず修斗くんの声が響いている。


 とりあえず廊下に出るんだろう……お姉ちゃんがその手をドアノブにかけた時だった。




 お庭の方角から、ラジオドラマでしか聞いたことのないような銃声音とガラスが割れる音。思わず体が震え、お姉ちゃんの手をぎゅっと掴む。




「大丈夫よ」




 そう言って、私の手を握り返すお姉ちゃんの手が温かかった。




 一瞬の静寂が訪れ、外から男の人の声と走り去る音が聞こえた。何が起きてるんだろう。……研修?ではないよね。










「……行きましょう」




 少しだけ扉を開けて、廊下を確認したお姉ちゃんと歩き出す。廊下はお庭に面した窓ガラスが数枚割れて破片が飛び散っていた。




「足元に気をつけてね」




「何があったの?」




「……お姉ちゃんにも分からないわ。とりあえず誰かと合流しましょう」




 静まり返ったお屋敷が怖い。秋の夜特有のひんやりした空気に、ますます心細い気持ちにさせられる。




 1階に降りてくると、ほとんどの窓ガラスは割れていて、破片の上を歩く以外選択肢がないくらいだ。壁には所々傷もついている。これはーー。襲われたってこと?襲撃された?




「あ!結衣ちゃん、柚子ちゃん。今迎えに行こうと思ってたんだ。無事で良かった」




 ダイニングから出てきたのは、立花さんだ。なんとか笑みを浮かべている様子に、大変なことがあったんだろう悟る。迎え入れられてダイニングに入ると、深雪さん以外の全員が揃っていた。みんな寝る前だったんだろうーーパジャマ姿で一堂に会するのは、今までにない光景だ。


 裏庭側に面しているキッチンとダイニングに、大きな被害はなかったようで少し安心する。




「状況を整理し、今後について話し合う。……結衣、柚子、温かい飲み物を淹れてくれ」




「かしこまりました」




「はーい!」




 キッチンへ迎いつつ、みんなの顔を確認する。大雅くんは、非常事態でもいつものペースを崩さない……さすがご当主。修斗くんの顔は怖いな、眉間に皺が寄っている。あ、負けじと育もすごい顔だーーお庭が荒らされてないか心配しているんだろうな。すごい疲れてるけど、いつも通り柔らかい表情の立花さん。……光くんは、なんだか疲れてそうだし、怖い思いをしたのだろうか、顔が青白い。大丈夫かな。



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