32.秋の夜長に②
お出掛けが中止になった……。ショックを受けつつ、いつも通りの時間に目が覚める。ん?何か違和感……?
「あ、そっか。昨日……」
昨晩、私は久しぶりにお姉ちゃんの部屋で寝たのだ。隣で寝ていたはずのお姉ちゃんは既にいない。ベッド横のサイドテーブルには、休日だから朝食の手伝いはしなくてもいいという内容のメモが置かれている。
お言葉に甘えて……二度寝しようかと思ったが目が冴えてしまった。今日は王宮と騎士団に連絡するらしいから、また調査が入るんだろう。その前に……私はお庭を見に行くことにした。
正門とお屋敷の中間地点が、昨日燃えたところらしい。近寄らないように……とロープで囲まれていた。
「育……。おはよ!」
「おはよう」
いつになく無愛想な育がそこにいた。彼は庭師だ、いつも早く起きて植物を愛でている。その姿を知ってるだけに、育の大切なお庭がちょっとでも燃やされたことに怒りと悲しみを覚える。なんとも言えない表情で、張り巡らされたロープの先を見る育の横に寄り添う。
「お庭……残念だったね」
「僕は許せないよ。僕の庭ーー僕の作品を燃やすなんて。どこのどいつか知らないけどーー絶対に許さない」
ちょっと……育が怖い。ちょっとじゃない、結構怖い。目がもう本気だ。育は滅多に怒らないし、怒っていたとしても表にその感情を出さないから、こんなに怒ってるのは初めて見た。
「騎士団の調査がアテにならなかったら、僕だけでも犯人を突き止める。そうなったら、柚子も手伝ってね」
「え、あ、うん!もちろん!」
肯定以外の返事は、受け取って貰えないと感じた。そのまま育は水やりを開始したので、お邪魔をしない程度に私もお手伝いをする。
犯人の狙いってなんだろう。もし、一条家に恨みとかがあってお屋敷に危害を加えたければ、お屋敷自体に何かするよね。お庭ってちょっと中途半端なような……!もしかして育に恨みのある人ってこと?え?育って恨みを買うほどお屋敷の外の人と交流あるのかなぁ。
「ちょっと……柚子。何か僕に対して失礼なこと思ってない?」
「へ?あ?いや……なにもー。あ、ご飯の時間だっ」
心の中読まれた?不機嫌な育を交わして私はその場を離れた。
朝食の席で大雅くんから改めて、昨日の事件について説明と屋敷内待機が言い渡された。立花さんの話だと、門番さんが来るのに合わせて騎士団の人も来て調査が行われるとのことだった。
「おねぇちゃぁん……。柚子、今日はクロワッサン買いに行きたかったんだよぉ」
「そうね。せっかくのお休みだったのに、残念だったわね」
お出かけしないお休みは、やることがない。食後の片付けをしつつ、10時のおやつや騎士団の人に出すお菓子を準備するお姉ちゃんとお喋りタイムだ。多分、マドレーヌーー来客がたくさんありそうな時に一条家でよく作られるお菓子だ。
生地が型に流し込まれて、オーブンに入った時だった。
「失礼します」
キッチンでは、なかなか聞くことのない低い声だった。
「あら、おはようございます」
「あ、門番さんだぁー。おはようございますっ!」
「おはようございます。騎士団が到着した、屋敷内全員から聞き取りをすることになった。……メイド長は忙しそうだな。お前からでいいから来られるか?」
「柚子がそーんなに暇に見えるか!どうせ、暇だよ」
チラッとお姉ちゃんと私を見比べた門番さんは、椅子に座っている私の方を呼び出した。ダイニングや応接間を使って、聞き取りが行われているらしい。私はダイニングに通されたーー光くんと立花さんが既に聞き取りをされている。
「さて、昨夜の自分の行動について詳細に頼む」
「昨日はーー」
お姉ちゃんとお茶をしたこと、その後部屋で日記を書いていたら寝てしまい、修斗くんに叩き起こされたことを素直に話す。
「……柚子思ったんだけど、お屋敷の誰かに危害を加えたければお屋敷に何かすると思わない?……なんでお庭だけ燃やしたのかなぁ?……育に恨みがある人物の可能性もあるよね!」
「……鋭いな。さすが、屋敷内でスパイだか探偵ごっこをしていただけあるな」
半笑いで言う門番さんーーちょっと前のスパイごっこ……バレていたのか。
「庭師は恨みを買うようなことがあるのか?屋敷内での人間関係も含めてどうだ?」
「うーん。育は……あんまり人と関わらないタイプだからそういうのは無いと思う!お屋敷もみんな仲良しだよ?……昨日の夜は、あ!深雪さんはいなかったなぁ」
「そうか」
サラサラっと私の言ったことをメモしていく門番さん。お姉ちゃんを呼ぶように言われて、私の事情聴取は終わった。
「柚子ちゃん」
「光くん!お疲れ様ー」
部屋に戻って本でも読むかと廊下を歩いていると、後ろから呼び止められた。
「お疲れ様。……昨日の夜はびっくりしたなぁ」
光くんと歩きながら、また私の疑問をぶつける。本当になんでお庭だけなんだろう。育に恨みがある人なんて多分いないだろうし、お屋敷に危害を加えるなら、わざわざお庭の一角を選ばないだろう。何が目的なんだ……。何かのメッセージなんだろうか。




