31.秋の夜長に①
「ふふーん。ふふふふーん」
「あら、柚子。ご機嫌ね」
食後の片付けも終わり、早めにお風呂を済ませ、今夜はお姉ちゃんとティータイム。鼻歌を歌いながら、美味しい紅茶と小さめのクッキーをテーブルに並べる。明日は久しぶりのお休み!私はご機嫌だ。
「明日お休みだもーん!街にクロワッサン買いに行くんだー。お姉ちゃんにも買ってきてあげるね」
「ありがとう。楽しみにしているわ」
紅茶を飲みながら、他愛もないことを話す。お姉ちゃんとのんびり話す機会は意外と少ないので、貴重な時間だ。
「柚子の好きなクロワッサンのお店、ベーグルの販売も始めたみたいよ」
「ベーグル?」
「パンの種類の名前ね。お姉ちゃんもあまり食べたことはないけど、もちもちした食感のパンよ。生地を茹でてから焼くらしいわ」
「ふーん。不思議なパンだねぇ…お姉ちゃん詳しいね」
「出入りの八百屋さんに聞いたのよ」
茹でてから焼く……不思議な作り方だけど、もちもち系ならお腹に溜まって良さそうだなぁ。お姉ちゃんも食べたいかな?新発売だし、クロワッサンもいいけどベーグルもお土産に良さそうだなぁ。頭の片隅にベーグルという単語をメモしておく。
「2人でお茶会~?珍しいねぇ~」
お姉ちゃんがおかわりの紅茶を淹れている時、キッチンに深雪さんがやってきた。夜は冷えるこの季節、昼間は着ないような暖かそうなコートを羽織っている。
「いいでしょー!」
「深雪さんの分も淹れましょうか?」
「ん~今日は大丈夫かなぁ。2人の邪魔したら悪いから。……ちょっと出掛けてくるよ」
あ!深雪さんまた夜のお出掛けだ。前に大雅くんに聞いた、夜にしか出来ない執事の仕事か!
「深雪さん!夜まで頑張ってて偉いよ。柚子、尊敬する!だから、これあげるね」
ポケットからチョコレートの包みを1つ取り出して、深雪さんに手渡す。夕方に門番さんから貰ったお裾分けだ。
「柚子ちゃんから、お菓子を貰うなんて~。明日は雨かなぁ」
「失礼だな、深雪さん!」
「柚子は優しいのね」
包みを開けてチョコレートを口に運んだ彼は、コートのボタンを留める。
「美味しいねぇ~。ありがとう。……しっかり戸締まりしてね~。行ってきます」
そう言ってキッチンから出て行った。
「深雪さんも夜遅くまで大変だねぇ」
「そうね……。昼間に休んでるみたいだけど、夜に起きてるのは大変よね」
大変な仕事してるんだなぁ……。そうだ!深雪さんにもお土産買ってきてあげよう。
「あら、柚子。もうそろそろ寝る時間よ」
時計を見たお姉ちゃんが私に告げるーー時計は夜10時。
「10時かー。名残惜しいなぁ……。またティータイムしようね!」
「そうね」
2人で片付けをしながらまたお話して、部屋に戻る。……でもまだ寝ない!なんたって明日は休みなんだから!
パジャマに着替えて、日記帳を開く。今日はお姉ちゃんとティータイムした話を……。
「おい!柚子!」
突然の修斗くんの大声でハッと気づく。どうやら日記を書きながら寝ていたらしい。
「なにー?もう起きる時間?」
「バカか!お前は……。ダイニングに集合だ!」
チラッと窓の外を見るとまだ暗かった。寝起きだし、いきなり集合させられるし、ちょっとよく分からない。
「柚子……。良かったわ」
ダイニングに行くと、お姉ちゃんが駆け寄ってくる。立花さんと育が私の後ろから入室するーーお出掛けした深雪さん以外は揃っているようだ。
「何があったの?」
「……ご当主様が今から説明するわ」
静まり返った部屋に、大雅くんの声だけが響く。
「夜中に申し訳ないな。先程、夜間巡視を行なっていた立花より報告があり、庭で放火が確認された。ボヤ程度ですぐに鎮火したが……。犯人は不明だ。我が一条家の安全が脅かされたので、全員に集合して貰った。……皆、無事だな」
放火だって?しかもお庭に?門から侵入して燃やしたってことなのかな。……お屋敷を燃やすことも可能だけど、お庭だけってことに何か意味があるのかな。……何にしろ恐怖である。私は自分の両手をぎゅっと握った。
「夜明けに王宮と騎士団へ連絡を入れる。2、3日は全員屋敷待機とする……以上だ」
え?待って、私のお休みは?明日のクロワッサンとベーグルは?また屋敷待機なの?
「柚子?大丈夫?……怖いわよね。今日はお姉ちゃんと寝ましょう」
お姉ちゃんの手が私の震える手を包み込んだ。怖さで手が震えているのか、せっかくのお休みが台無しになった絶望か、見ず知らずの犯人に対する怒りかーーその全てか。




