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ようこそ、一条家へ  作者: 如月はづき
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26.柚子はスパイ⑤

 


「ふぁ~」




 全然眠れなかった……。何度寝ようと目を閉じても、血まみれ朔夜ーーあ、血まみれの深雪さんが頭から離れなかった。


 やっと屋敷の建物から外に出られるこの良き日に、気掛かりなことが多すぎる。久しぶりの玄関から門までの掃除、丁寧にやっている……ように見せかけて考え事タイムだ!


 そもそも、あの血は誰の?深雪さん?でも深雪さんじゃなければどう言うことになるの?一条家って、とんでもない家なの?深雪さんがとんでもないの?みんなは、知ってるのかな。光くんにお話ししたいけど、立花さんと一緒に出かけちゃったんだよなぁ。




「……どうした?久しぶりに顔見せたと思ったら、怪人二十面相みたいだな」




「門番さん!久しぶり!元気だったー?」




 久しぶりの再会なのに、怪人とは失礼だ!門番さんに聞いてみようかなぁ……。でも騎士団の人だしこの家の事をペラペラ話すのはあんまり良くないよなぁ。




「……?久しぶり外で疲れたのか?」




「そんなとこぉー。門番さん、最近どうだった?何か変わった事あったー?」




「お前がいなくて静かだったくらいだな」




 私がうるさいと言うことか!駅前のパン屋さんで新商品が発売されたとか、街の様子を聞いていると門が開いた。




「戻りましたぁ~」




「お疲れ様です」




 外から戻ってきたのは、私が今1番気になっている人物ーー深雪朔夜、その人だった。




「深雪さん、おかえりなさいー」




「柚子ちゃん、そぅか~今日から外に出ていいんだっけ?良かったねぇ」




 私の頭にぽんぽんと触れ優しそうな顔を見せると、私たちの横を抜けて屋敷へと入っていった。その後ろ姿を見送りながら、門番さんに聞いてみる。




「ねぇねぇ、門番さん。……深雪さんって朝帰り多くない?昼間もいないか、いるかわかんないし、サボり?」




「お前なぁ……。サボりではないだろう。大きな家の執事だからな、いろんな仕事があるんだろう」




 半ば呆れられつつそう返される。執事のいろんな仕事ってなんだろう。とりあえず、サボりではないんだな、公には出来ない仕事があるってこと?謎は深まるばかりだ。






 その日の夜ーー、私は光くんの部屋を訪ねた。




「そりゃ……なんや、えらいもん見たなぁ」




 昨夜見た深雪さんの様子と、門番さんと話した事を伝えた。




「ねぇ、大きな家の執事ってそんな公に出来ない仕事があるの?立花さんは、そんな風な仕事してる様に見えないけど……」




「俺もそんな……血が付くような仕事は知らんなぁ。言われてみれば、夜に出かけるような仕事も思い当たらんし」




 俺が見習いやからかもしれんけどな、と付け足されて光くんも口篭った。少しの沈黙の後、この空気を変えるように光くんが言った。




「気分でも変えようか?お茶でも飲む?」




 一杯だけ飲んで寝ることにして、2人でキッチンまで向かって行くと9時だというのに電気が付いていた。こんな時間に誰だろう……。






「お姉ちゃん?」




「あら、柚子に光くんどうしたの?」




 お姉ちゃんは、まだ仕事着姿で冷蔵庫に何かを入れたところだった。




「お茶飲んでから寝ようと思ってー。お姉ちゃんは何してるの?」




「やり残したことがあったから……。さっき沸かしたお湯がポットにあるから使ってね」




 お風呂に入って休むから、とお姉ちゃんは足早にこの場を去った。冷蔵庫を開けて中を確認すると、たまごサンドが見つかった。怪しい……多分これを作ったのは、お姉ちゃんだ。一体誰に?




「柚子ちゃん?お茶淹れたで?」




「ん、あ、ありがとう!」




 あったかいお茶を飲みながら、また考えを巡らせる。夕食の席に深雪さんはいなかったーーつまり、夜出かけている。夜食ってこと?でも夜中に帰って来ることもあれば、朝帰りなこともある。なんなんだろう。




「柚子ちゃん?さっきからすごい顔しとるけど、大丈夫?」




「謎は深まるばかりだなぁ……」




「深雪さんのこと?」




「そぉー。夜何してるんだろ……。みんなは何してるか知ってるのかなぁ?」




「どうなんやろうなぁ……」








 いろいろと話したい疑問を口に出したかったけど、あったかいお茶と共に飲み込んで私たちは2階へと階段を登っていたーーその時だ。玄関の扉が開く音がした。




「光くん!隠れて。玄関見て?」




 階段の影に隠れて玄関を見ると、昨日と同じく深雪さんの姿があった。今日は……血まみれではないけど、その目つきはいつもと違って鋭い気がする。あ、こっちに来る!光くんの手を引いて静かに部屋に自室へと戻って扉を閉め、廊下の様子に耳を澄ませる。




 静かな深雪さんの足音がして、私の隣の大雅くんーーご当主様の部屋をノックした。




「深雪さんは、大雅くんの命令で夜出かけてるってこと?」




「そうみたいやなぁ……」




 2人で大雅くんの部屋側の壁に耳を澄ませるけど、隣とはいえ会話は聞こえない。でもこれで分かった。




「深雪さんを調べれば、この家の謎に近づけるかもしれないね」



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