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ようこそ、一条家へ  作者: 如月はづき
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15.事件③

 

「お腹空いた!ここどこ!」



 空腹を感じて目が覚める、周りを見回すと物置のような部屋だった。小窓から差し込む光がまだ昼間であることを知らせてくれる。



「ちょ、柚子ちゃん!静かに!シーっ!」



「……?あ、光くん!ここどこ?」



 私の隣には慌てた様子の光くんがいた。状況が全く掴めないーー。



「ごめんなぁ、ここがどこかは俺にも分からん。……閉じ込められたって言うのはわかっとるんやけど」



 親切に人に道案内をしたら、急に気が遠くなったことまでは覚えている。



「閉じ込められた……?」



「多分やけど、俺ら誘拐されたんと違うかな。……柚子ちゃんが知らん男に話しかけられて門開けてて、俺はそれを追いかけて外に出た。そしたら、なんや気が遠なって目が覚めたらここにおった」



 ……何かおかしい。誘拐なら私だけでも充分なはずだし、わざわざ男の子の光くんを手足も拘束せずに閉じ込めるだけにするかなぁ。2人で同じ部屋に入れておけば、協力して脱出する可能性もあるのに。

 下を向いて考える私を心配したのか、光くんが隣に座ってこちらを覗き込む。



「柚子ちゃん、不安やと思うけど…」



「わかった!!光くん!柚子わかった!」



「え?あっ……はぁ?何が??どしたん?」



「これは研修だよ!」



「研修?」



 光くんはポカンとした表情をしてこちらを見ている。全くもう、鈍いなぁと思った。



「誘拐された時に、柚子や光くんがふさわしい行動を取れるかチェックされてるんだよ!」



 門番さんのいない日、私が外にいる時間、道に迷った人が屋敷に訪ねてくるーー光くんは私が外に行くのを見ればきっと追いかけてくる。誘拐日和ではないか!王都周辺の誘拐事件について、深雪さんに聞いた時に心配ないと言われた、つまり柚子は大丈夫という事だ!けど多分、平和ボケさせておくのもどうなんだって事になって……。

 誘拐された時にどう反応するのか見ておこうと思ったんじゃない?絶対そうだ!修斗くん辺りが考えそうな作戦だ。



「そ、そうかなぁ?俺はそんなことないと思うけど……」



「絶対そうだよ!その証拠に、普通誘拐なら手とか足とか拘束するのに、自由だもん!」



「な、なるほど。……一理あるかもしれんなぁ」





 私の腹時計が15時を知らせる。



「ねぇ、光くん。柚子お腹空いた……」



 思えば10時のおやつも、お昼ご飯も食べていないのだ。誘拐の研修とは言え……ご飯もくれないのか、ひどい、ひどすぎる!

 そんなことを光くんに吐き出していると、古びた扉が開いた。

 顔を布で覆った男が入ってきた。目しか見えないけど、特に武器は持っていなさそうだ。



「一条家の使用人か?」



 この問いかけに、なんて答えるのが正解なんだろう。研修として相応しい答えを考える……けどお腹空いた。もう、それしか考えられない。



「知らん奴に答える筋合いない」



 光くんが言った後に、言葉を続ける。生き残るのに必要な技術は、交渉だ。



「教えて欲しければ、この私に食べ物を持ってこい!」



「へっ……?あ、ちょっ……」



 私の発言は予想外だったのだろう、光くんは狼狽えていた。



「……一条家の使用人かと聞いている」



「いいから!お腹空いた!食べ物!食べるまで何も話さないっ」



 光くんには負けるけれど、私の態度に困惑した様子の男を睨みつける。よほど怖かったのか、私の目が飢えた獣のようだったのか、何も告げずに出ていった。





 数分後だと思うけれど、私には何時間にも感じられた時間だった。男が再びやってきた、その手にはカレーの様なものが載ったお皿が2つあった。ご丁寧にも、部屋の木箱の様なものの上にそれは置かれた。



「毒とか入ってへん……よな?」



 光くんはスプーンで一口掬って、香りを嗅いでいた。全くもう、研修なんだから毒なんて入ってるわけないのに。



「……ん、……ゔっ」



「柚子ちゃん?どした?しっかりし!」



 口に運んだその味に違和感を覚えた。心配した顔の光くんが私に駆け寄ってくれる。



「……美味しくないっ」



「えっ?」



 あまりにも食べ慣れない味。お姉ちゃんのご飯が恋しくて、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。私が声にならない声で泣いていたからだろう、男は立ち去っていった。





 もう2度と黙ってお屋敷を出たりしない、道案内の時は誰か呼ぶ、もうちょっとお仕事も頑張るから……研修中止して、お家に帰りたい。お姉ちゃんのご飯が食べたい。そんな風に泣いている私に、光くんがそっと寄り添ってくれるのだった。



 

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