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ようこそ、一条家へ  作者: 如月はづき
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9.街へ 後編

 

「あっ……。なんてことだ!!」



 私は、とあるお店の前で立ち止まる。



「どうした……あ、お休みかぁ。楽しみにしとったけど、しょうがないなぁ」



 光くんの言葉なんて半分くらい耳に入らない。すごく楽しみにしていたのに……深雪さんに教えて貰った評判のケーキ屋さんは、臨時休業の張り紙がある。私の今日のおやつの予定が狂ってしまった!落ち込む私に光くんが問いかける。



「大丈夫……?あー、柚子ちゃんお腹空いた?」



「んー、ショックでちょっとお腹空いたかもしれない。あと、喉乾いた!」



「そか、じゃあ……どっかカフェでも行こか?」



 光くんはお店を探してキョロキョロしている。落ち込んでいるのを励まそうとしてくれているんだろう、あと多分だけど、私が疲れないようにこまめに気遣ってくれている。






 来た時とは別の、軽食が多めのレトロなカフェに入る。メニューを見れば自然とお腹が空いてくる。ナポリタン、ミートソースパスタ、サンドイッチ、オムライス、どれも美味しそうだ。



「ん……?光くん、光くん」



 なんとなく恥ずかしくて小さな声で向かいの席の光くんを呼ぶ。どうしたん?と声のボリュームに合わせるように、光くんが顔を近づけてくれる。



「ドリアってなに?」



 メニューに書いてある見たことのない、ドリアという響きに私は惹かれていた。でも何かを知らないと、ピーマン料理だったら、すごく苦手料理だったら……食べられない。



「ドリアは、なんて言うたらええんかな。簡単に言うと……ご飯の上にグラタン載っけてオーブンで焼いた料理や」



 おぉ!なんと美味しそうな物だろう。お姉ちゃんが作ったことはないし、私はこういう珍しい物が大好きだ。



「そうなんだ!ありがとう。柚子このエビドリアにするー」



「決めるん、早いなぁ。飲み物は何にする?」



「オレンジジュース!」




 私はエビドリアとオレンジジュース、光くんはオムライスとアイスティーを注文して到着を待つ。光くんは、一条家から離れた四元家の方面出身だけあって、私の知らないことをたくさん知っている。話していて楽しいのは、知らないことをたくさん知れるからなんだろう。



「柚子お腹空いたぁ……」



 ナポリタンやサンドイッチを頼んだ人の席には、既に注文した品物が置かれている。隣の席にデミグラスソースハンバーグが運ばれて、その香りがこちらまで漂うともうお腹と背中はくっつきそうだ。



「ドリアは、ちょっと時間がかかるからなぁ。……お、あれかな?」



 熱々の湯気が見えるドリアと、綺麗な黄色のオムライスが私たちのテーブルにやってきた。美味しそう!ドリア……見た目は、グラタンだなぁ。



「いただきますっ!」



 スプーンいっぱいに掬ってドリアを口に運ぶ。



「ちょ、柚子ちゃん!あかんよ!ドリアは熱い……あ」



 おいし……あああああ熱い!熱いよ!口の中やけどするよ!慌ててオレンジジュースを飲み込んで冷やす。



「光くん!こんなに熱いなら教えてよー」



「言おうと思ったら、もう柚子ちゃん食べ始めとったからなぁ」



 先程のことを踏まえて、フーフーと冷ましながら食べる。ご飯とホワイトソースって合うんだなぁ、思ったよりすごく美味しい。



「美味しいね!初めて食べた」



「口に合って良かった。北の国の料理みたいやから、あんまりこっちで食べることはないもんなぁ」



「光くんって他の国のことにも詳しいんだねぇ」



「他の国の文化って面白いからなぁ。俺も現地には行ったことないから、知識だけやけど」



 お勉強熱心だなぁ。他国の文化か……この大陸には4つの国しかない。少しずつ違う習慣やほんの些細な仕草で、どの国のどの階級の出身かなんてすぐに分かってしまう。すごく興味がある、と同時に文化や習慣は私にとって恐ろしいものだ。






 遅めの昼食を終えてまた街をぶらぶらする。大きめの家具屋さんに行ったり、お洋服を見たりしていると、あっという間におやつの時間だ。だけど、お目当てのケーキ屋さんは営業していないし、光くんと話し合ってお土産を帰って早めに帰ることにした。



「柚子オススメのパン屋さんに行こう!」



 昔から街に来ると、よく行っていたクロワッサンの美味しいパン屋さん。店内には焼きたてのパンの香りが広がる。



「いろいろあるなぁ。柚子ちゃんは、何食べ……」



「すいませーん、クロワッサンを」



 光くんが何か言っていた気がするけど、私は迷わずクロワッサンを人数分と自分用に注文した。



「すごい量やな。半分持つで?」



「ありがとう。じゃあ、遠慮なく……」



 パンは軽いけれどすごい量に見える。光くんにはお土産分を持ってもらって、街から一条家までの道を歩く。



「今日楽しかったねー、ありがとう。光くんと一緒じゃなかったら、お出かけできなかったよ」




 1人で街に行く……心配性2人の目を欺かないと難しいことだ。光くんとは不思議といいペースで買い物ができた、多分すごく気を遣ってくれたんだろうなぁ。



「こちらこそ、ありがとう。街のお店のこといろいろ知れたし、俺もすごい楽しかった。機会があればまた」



「うん!また行こうね!あ、今日のお礼。これあげるね」



 私は自分用のクロワッサンを1つ差し出す。本当は食べながら歩くのは良くないけど、今日は特別だ。光くんと今日のことを話しながら食べるクロワッサンは、すごくすごく美味しかった。



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