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本日、二回目の投稿です。

 

 ゼンマイ式ハムスターをひたすら作る羽目になる少し前のことである。


 両親の仕事の手伝いをしてお駄賃をもらったソウタはユリを誘って駄菓子屋に出かけた。

 おもちゃの出来具合を話しながら歩いていると、すぐだ。


「おばあちゃん、こんにちは」

「今日のお菓子はどんなの?」

 駄菓子と言っても、近隣のおかみさんたちが作ったものを持ち寄るので、日替わりなのだ。品揃えも日によって変わって来る。


「<マリコさんのクルルンベリーパイ>だよ」

 小柄なおばあちゃんがにんまりと笑う。おばあちゃんは年を取るとお腹のぽってり具合がしぼむタイプの猫族だ。


「「わあ、やった!」」

 今日は当たりの日だ。甘酸っぱいクルルンベリーのパイは大人気なのである。

 だから、ソウタとユリはマリコさんにクルルンベリー摘みを頼まれると一も二もなく引き受ける。

 熟すと自然と下に落ちているのでそれを拾うか、クルルンベリーの木の下に布を敷いて、木の枝を揺らして落とすのだ。お駄賃はもちろん、パイだ。

 自分たちが集めてきたクルルンベリーでみんながマリコさんの美味しいパイを食べられると思えばせっせと籠をいっぱいにするふたりだ。


 ほかにさっくりとした<ミッチーさんのバニラとコアコアのクッキー>が残っている日も大当たりの日だ。<ミッチーさんのリンリンジャムクッキー>も絶品で、もちろん、ジャムづくりの手伝いを頼まれたら喜々として引き受ける。


 ベリー摘みもジャムづくりも楽しい。緑からのぞく果実がつややかに光るのをもいでいく。たくさん摘んだと思っても、皮をむいて種を取って果肉をつぶしてしまえば、かさは減る。砂糖といっしょに煮詰めるとさらに減る。ユリとおしゃべりしながら鍋をかき混ぜていたらあっという間だ。湯気で上半身の毛がしっとりしていてびっくりしているソウタに、ユリはひげがしめっていると笑った。


 できあがったジャムを、マリコさんあるいはミッチーさんが煮沸消毒して乾燥させたぴかぴかの瓶に詰める作業を眺めているのも楽しい。たいてい、マリコさんもミッチーさんもふたりに味見させてくれる。ぱさぱさのパンをしっとりさせたり、塩味のクラッカーとの相性もばつぐんだ。


「今年はクルルンベリーが豊作だねえ」

「おばあちゃん、それ、昨日も言っていたよ」

「あら、そうだったかしらね」

 駄菓子屋のおばあちゃんはトボけたことばかり言っているが、いつもそんなふうなのだ。


「そう言えば、前に掃除してからずいぶん経つけれど、そろそろ空き家の掃除をする?」

「そうねえ。お天気の良い日にお願いしようかしらね」

 おばあちゃんは村はずれの空き家の持ち主で、ふだんは駄菓子屋の奥の部屋で暮らしている。使わない家はすぐに傷むと言って、定期的に風を通し掃除をする。ソウタとユリはそれを手伝うようになった。お駄賃はもちろん、駄菓子屋の日替わりお菓子だ。おばあちゃんも心得たもので、ふたりの好物をくれる。


 そんなふうにして駄菓子屋の前でおやつを食べていると、「おおーい」と通りの向こうから誰かがやって来た。

「あ、おじいちゃん」

 サバトラの大柄な猫族、ユリのおじいちゃんだ。もちろん、年相応にお腹はぽってりしている。道具屋を引退した後も何でも屋みたいなことをやっている。あちこちの柵や井戸や神殿などの公共施設の補修が多い。今もまた、トンカチや釘抜きなどの大工道具を持っている。


「ちょうど良かった。柵を修繕するのに木材が必要なんだ」

 ふたりに運ぶのを手伝ってほしいという。村では手が空いた者が手伝うのはふつうのことだ。おやつを食べ終わっていたふたりは引き受け、倉庫へ向かった。


「プロペラ飛行機はどうだね」

 ユリのおじいちゃんは心配するふたりの母親を説得してくれた初フライトの協力者だ。

「あんなデカブツを修繕しちまうんだから、ソウちゃんはすごいもんだ」

 プロペラ飛行機を修理する際には、「こんなフクザツそうな魔道具、俺には無理だよ」と言って手伝うことはしなかったものの、部品や素材をほとんど無償で融通してくれた。ほとんど、というのは「ソウちゃんはいつも手伝ってくれるから、その報酬よ」と言っていたからだ。今までとこれからの手伝いのお駄賃代わりだ。


「うん、飛べはしたんだけれど、やっぱりもっと専用の部品が必要なんだ」

 この村にはない部品だ。あのプロペラ飛行機をもう一度飛ばすには、村を出て素材を集める必要があるだろう。

 だから、今は修理も進んでいない。はやる気持ちを抑えて身近な素材でできるものづくりをして腕を磨いているところだ。


 倉庫は木材だけでなく、いろんな物資が置かれている。

「おや、木材が足りないな」

 そのうち、木こりたちが小屋から運んでくるだろうが、いつになるかは分からない。

「じゃあ、とってくるよ」

「そうね。まだ日は高いし」

 ユリのおじいちゃんは、たまに魔獣が出る森に子供たちだけで行かせるのはと渋った。だが、ふたりはクルルンベリー集めをするのに森に何度も入っている。


「大丈夫よ。ソウタのクロスボウがあるから」

 クロスボウはばねの力で発射するので子供が使っても相当な威力のある代物だ。これでユリの作ったアイテムを飛ばして足止めしている間に逃げるのだ。狩りをするならば、罠に誘い込むのがふたりのスタイルだ。


 ユリのおじいちゃんは心配しながらも倉庫から台車を引っ張り出してきた。これは魔道具で、載せたものの重量を軽減する優れものである。だからこそ、子供ふたりで木材を取りに行くことができるのだ。


「あ、そうだ。木こりのおじさんちに寄っておやつを受け取って届けてあげようよ」

「ソウタ、優しいね!」

「せっかく行くんだから、ちょうどいいだろ」

 ユリにストレートに褒められたソウタは面はゆくなってちょっぴりそっけなく返してしまう。


 ユリのおじいちゃんはふたりをにこやかに眺めていたが、倉庫の奥から魔獣が嫌う草と香炉を出して来た。草を香炉でいぶしておけば、魔獣が避けていくのだ。けれど、難点もある。

「これ、匂いがなあ」

「猫族が嫌いじゃないものを使っとるんだけれどな」

 ソウタが鼻に皺を寄せると、おじいちゃんも嫌いなのかしょんと耳を倒す。ふたりを見て、ユリはいつか、改良した魔獣避けアイテムを作ろうと考える。

 嫌がりつつもユリに押し付けず、自分が香炉についた紐をたすき掛けにするソウタに、ユリは決意を新たにした。


 ユリだけでなく、おじいちゃんもソウタのやさしさに感じ入っていた。

 ふたりが木材を取りに行っている間にできることをやっていたのだが、行き会う村人たちにソウタはやさしいと話した。

「にゃははは。ユリちゃんは有望株を捕まえたってこったな」

「どうかな。ソウちゃんはそういうのにはうといから」

「それもそうだ」

「「にゃっはっはっは」」

 知らないところで勝手気ままに言われているふたりである。




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