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本日二度目の投稿です。

 

 ソウタはのどかのひとことに尽きる、猫の獣人たちが住む仁楊にゃん村で生まれ育った。


 猫族の獣人だから気性は自由気ままで、たまに学校へ行ったり、親の手伝いをして過ごしている。ここで暮らす住人たちはそんな風にしてのんびりと一生をここで終えるものだとしている。

 けれど、ソウタはもっと違う世界を見てみたいと思った。村の外へ出てあれこれ見聞きして見たいと思った。その考えはいつか世界中を旅してみたいという気持ちにまで育った。


「そんな夢物語を言っていないで、手伝ってちょうだい」

 親はそんな風にいなした。

「ソウタはいつまでたっても仔猫ちゃんなんだなあ」

「いい加減、大人になれよ」

「イイ女と付き合うとかさあ、現実味のあることを考えろよ」

 同世代の少年たちはそんな風にソウタをからかったりさとしたりした。そんな風に言う者たちも、実は大人ぶりたいだけで、まだまだじゃれ合って遊んでいるのが楽しいのだとソウタは知っている。


 なにしろ、猫獣人は成人を間近にすればこそすらりとした身体つきになるが、子供のころはぽってりしている。まるい顔、まるいお腹で全体的にころころしているので、そんな者たちから「やーい、やーい」などと言われても戸惑うというか、強いて言えば微笑ましい気持ちになる。


 ちなみに、人族と同じく歳をとるにつれ、お腹がぽってりする。人族のおばちゃんが「猫ちゃん族はぽっちゃりしていても可愛いからいいわねえ」と言っていた。ちなみになぜ、「猫族」の間に「ちゃん」が入るのかはナゾである。


 ともかく、誰になんと言われようと、ソウタは魔道具いじりが好きで、村の外に興味があった。


 猫族らしくないとからかわれてもあまり気にならなかったのは、幼馴染のユリがいっしょになって遊んだからだ。いつもふたりで関心のおもむくまま、「あれはなんだろう」「これはどんなだろう」と草木のようなそこいらに生えているものから、魔道具の仕組みまで調べた。


 結果、ソウタは壊れて捨てられた魔道具を拾っては分解して構造を学び、ユリは植物に詳しくなるがあまり、薬師の真似事までできるようにいたった。といっても、獣人たちのけがや病気を治す薬を作るのではなく、<もくもく玉>や<ぬるぬる玉>といった煙玉や割れると粘液が飛び散る、いわば相手の行動を阻害するアイテムを作るのが得意だ。


 おこづかいが足りなくなったら、ユリがそれらのアイテムを作るのをせっせと手伝っては小銭を稼いでいる。いつかはソウタも魔道具を作ってお金をもらうことができるようになれたらなあと思う。


 そんなことばかりしているものだから、親や村人たちからは、ふたりはそうやってこぢんまりしたお店でも持つのではないかと思われている節がある。ソウタもそれもいいかと思うこともある。ソウタが魔道具の修理をして、ユリがアイテムを作ったりその素材を集める手伝いをする。この村でなら十分に暮らしていける。

 でも。


 もっと別の国を、地域を、見てみたいという気持ちはいつからかずっと心の奥にあった。

 だから、ソウタは一念発起して、壊れて使い物にならなくなったというおんぼろのプロペラ飛行機を旅人から買い取った。

 こんな片田舎にプロペラ飛行機を見ることができるなんて、ましてやたとえ破損しているとはいえ、購入する機会なんて、もう二度と訪れないと思った。「もう飛べない」と言っていたわりには、目ン球が飛び出るくらいの高額だった。コツコツと貯めていたお金を全部吐き出しても足りなかった。


「わたしも乗せてくれるなら、貯金を出す!」

 そう言って同じく貯めていたお金を全部出したのはユリだ。それでも足りなくて、ふたりはそれぞれの親からおこづかいの前借りをして、各々のおじいちゃんおばあちゃんに拝み倒してお金をもらった。


 前借りした分のおこづかいはユリのアイテム作りを手伝えばなんとかなる。ユリ様様だったので、初フライトに臨んで「わたし、前の席がいい!」と言ったのに頷かないわけにはいかなかった。それに、機体をなるべく軽くするためか、資金面の関係か、ふたつある座席は簡便なもので背もたれは低く、至近距離で並んでいる。もし、ユリが後ろに座ったら、ちょっとまずいことになるかもしれない。


 修繕もいっしょにやった。最後の方はふたりとも夢中になりすぎて夜更かしして、プロペラ飛行機によっかかるようにして寝こけているのを双方の母親に起こされる有様だった。


 そうして上空から見た村は小さかった。でも、なんというか、立派だった。ここには生活するための全部が詰まっている。畑も家畜小屋も水車も鍛冶屋も道具屋もすべてがある。自由気ままな種族ではあるけれど、自分たちが暮らして行けるように営んでいるのだ。


 狭くていつも肥料ののどかな匂いがただよう田舎であると思っていたのに、鳥瞰ちょうかんしてみればふいに愛着が熱くこみ上げてきた。

 同時に、どこまでも広がるなだらかな丘陵やその向こうの山間、そして湖、きっと続くその先はどんな風なのだろうという考えが強く心をくすぐった。

 見てみたいという気持ちは収まらず、一層知りたいという思いが強まったのだった。


 プロペラ飛行機は部品と魔石が必要で、ソウタがこれまで扱ってきたどの魔道具よりも複雑な構造をしていた。

 だからユリがなにげなく提案したことに反射的に応えた。

「どうせなら、ソウタが自分で発明してみたら?」

「そんなのできないよ!」

 言った後、そうできたらいいなという気持ちが頭をもたげる。


 一朝一夕ではできない。自分にはすごい発想や才能はない。だったら、一生をかけて成せばよい。こつこつとあれこれ試してみるのだ。

 わくわくする。

 どんな素材でどんな反応が起こるのか。自分でひとつずつ確かめてみるのだ。

 やってみたい。

 もっと広い世界に行けば、プロペラ飛行機を飛ばせるだけの知識と素材が手に入るだろうか。


 いつか。

 ソウタはまだ見ぬ世界に心を馳せた。





 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


 もし少しでも興味を持っていただけましたら、ブクマや☆☆☆☆☆で評価してくださると、嬉しいです。


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