シーラカンスは本当はサンマになりたかった。
シーラカンスは本当はサンマになりたかった。
本当は。でも誰にも言えなかったし、誰にもわかってもらえなかっただろう。
言っても無駄だと思っているうちに、想いは口の中で化石になった。だから今でも、こうして泳いでいる。無言の海の底で夢のあぶくを食べながら。
夢のあぶくは本当は月に行きたかった。
本当は。でも誰にも言わなかったし、誰かに見つけてもらう前にはじけてしまうだろう。
浮かんでも沈んでもはじけてしまうから、想いを包んで虹になった。だから今でも、こうして浮かんでいる。雨上がりの曇り空に消え残った鈍く濁った虹みたいに。
濁った虹は本当は星に会いたかった。
本当は。でも誰にも会わなかったし、会っても気づいてもらう前に消えてしまうだろう。
雨上がりを待ち望む人は居ても、空を見上げて虹を探す人は少ない。虹に気づく前に、虹は消えてしまう。虹にさえ見つけてもらえず死んでゆく人が今日もひとり、虹にさえ死ねと言われる気がする……と言い残して化石になった。
化石は本当は深い海に居た。
誰も見たことのない夢が泡になって浮かび、泡の中には虹が踊り、星の化石が人々の心に埋まっていることを知っているのは、シーラカンスだけ。
だからシーラカンスは本当はサンマになりたかった。
サンマは網の上で焦げながらジュウと言った。




