いつもよりよく眠れた日。
名古屋。クラブロックンロール。というライブハウス。
今年2度目の〝それ媚び〟も同じ場所、同じ街。
これまでと違うのは、今回は〝それ媚び主催のライブ〟であるため出番はトリで、バンドの数も多くて、それ媚びの出番が長かったこと。
爆竹・名古屋場所。
「目当ての人を見に行ったら知らない人たちも出ていて、それが全部ちゃんとよかった」
これだけのことが、ちゃんとあった日。
それってすごいことだったんだな、と、今更また思った日。
一発目はLONEと書いてロンと呼ばれているバンド。
もう出てきた瞬間からボーカル毛利さんの顔をじっと見てしまう。吸い寄せられるような眼をした人だった。喜怒哀楽が全部あの眼に浮かんでいて、表情や仕草は裏付けに過ぎないとでもいうような。イイ顔の人だった。
いま調べたら結成は2005年。私が首尾よくデビューしてたら同期だった。今年20周年を迎えたのだと知って納得の安定感と、色褪せたり鈍ったりしてなさそうな力強さ、青臭さ、それがとても心地よかった。
お次はrem time rem timeという3ピースバンド。
演奏はシンプルだけどよく通る初鹿さんの声に聞きほれていると、あっという間に終わってしまった。もっと聞きたいというか、飽きの来ないステージだった。
初鹿さんが地元にライブハウスを作る構想を知ったのは、このライブから数日後のことだった。歌ってるとかっこいいけどしゃべるとすっとぼけたところもあって、とてもキュートな人だったから、実現したらみんなに愛される場所になるんじゃないかな。
何も知らずに見て、聞いて、そう感じたことは、この人たちがずっとそうやってきたんだという何よりの証左なハズ。
三番目。
長野県伊那市発、SYAYOS。
一言で表すなら、自由闊達。
若くて明るくて熱量に満ち満ちたバンド。
技術も熱意も満点で、今回このために茶臼山の向こうから名古屋にやってきた。
ああ最近の人はCDとか物質的なレコードのこと「フィジカル」っていうんだなあ。
この人たちが5年、10年と活動したらすごいバンドになると思う。
あの頃、見たぜ!
って自慢したいので、是非とも永く元気にがんばってほしい。
お隣の山梨県にステキなライブハウスが出来るらしいし。
トリ。それでも尚、未来に媚びる。
この人たちを知ってから、間違いなく人生の最低気温と最高気温の差が広がった。
インディープロレスを見始めてから、稚拙であっても味、つまらなくても成長過程やズンドコという便利な言葉で上書きをして、そこに自分の挫折と夢を言い訳にしたリボンで巻いて感想や観戦記を書いてきた。それがいつの間にか、自分の夢も挫折もつまらないものにしてしまっていた。
自分に嘘をついていたのだ。
ほんとは全然そんなこと思ってない。どんな奴でもリングに上がってる時点で自分より数段上だなんて死んでも思わないし思いたくもない。
が、しかし、そうやって嘘を吐かないで生きることが、とりわけ表現などというものをすることが、どれだけ大変で覚悟が要るのか。ということを、この日がーこさんが身をもって教えてくれた気がした。
思いの丈を言葉に変えて表に出すというのは、こういうことなんだ!
目の覚める思いで彼の涙ぐんだ瞳を見つめていた。
それ媚びを見始めてから大きな変化といえばサポートメンバーが正式に加入して、
5人で〝それ媚び〝〟になったこと。
ちなみにこの日は、会場にいた全員も〝それ媚び〟ということになった。
このバンド、個々の性質はバラバラだけどちゃんと結束しているからかっこいい。なんというか、それぞれが表面的な絆ではなくもっと深く曖昧なところで瞬く星を結んで〝それ媚び〟というゾディアックを象っているような。
中谷龍太郎さん側に陣取った私。
ノスケさんもけんてぃさんもステキだけど、私はとくに中谷さんのファンで。
この人たちが加入してくれて本当に良かったと思う。
最初にライブを見たとき、まだサポートメンバーだと聞いたときは(じゃあいつかお役御免になるかもしれないのか)と寂しかった。それほど、あの時点でもまとまっていたし良いバンドだと思った。特にこんないい顔の、目にも音色にも力があって可愛げもあるギタリストはメジャーもインディーも探したって中々いない。
いつになくみんなで歌った日。
がーこさんが客席にマイクを向ける。歌えと言いつつ自分も歌う。
メンバーも歌う。中谷さんがものすごい形相で叫んでいる。
竜巻のような轟音でかき消された音の破片が、引きちぎれた紙切れのようになって、かすかに耳に届く気がして。
バンド好きになって、ライブ見て、 曲たくさん聞いて、それでまたライブ来て、
あっコレ知ってる!
って曲が鳴り出したとき、 視界の右端に曲名がテロップで出るじゃん。
そんで
「秋日」
って出たんよ。つま先からぞわぞわーってこみあげてくるものがあって。この曲を初めて聞いたのが2024年7月13日の同じ名古屋クラブロックンロールだったんだけど、あの時からずっと変わらない、刃こぼれしてない、あの歌がまた自分の心を深々と切り裂いてくれた気がして。
アンコールも即、出てきて歌い始める。
メリハリもなにも関係ない、ずっと過熱して真っ赤になっているようなライブだった。
見る側も演る側も恍惚とともに攪拌され消耗してゆく。
5人が舞台から去って、放心と脱力が耳鳴りを伴って頭の後ろをゆらゆらゆらと舞っている。ああ~終わった、もしタイミングが合えば声をかけたかったけど、電車の時間があったので早々に現場を後にして夜の栄を歩き出した。
今日のことを、どうやって言葉にしようか歩きながら考えた。
曲もメンバーも知らないバンドが3つも見れて全部よかった。それはそのまま書くことにした。
夏ごろからずっと体の調子が悪くて、心の調子はもっと悪い。
さらに追い打ちをかけるようにパソコンも壊れて、文章を書くのが楽しみなのにそれも出来ずに過ごしてきた。
それを、引きずるでも振り切るでもなく、この日なんとなくやり過ごせた気がして。
名鉄の最終に間に合わないと踏んで呼び止めたタクシーの運転手さんがいい人で。
一本早い名鉄特急パノラマスーパーに乗って豊橋へ帰り着いた。
それ媚びのみなさん、いつも名古屋に来てくれてありがとう。
そして、それ媚びを教えてくれた〝のんちゃん〟ありがとう。
あなたのせいで毎日、わらえるよ。




