天龍源一郎の女房
遅ればせながら読みました。
私は99年に新日本プロレスで行われた、武藤敬司さんと天龍源一郎さんのIWGPヘビー級選手権を生涯のベスト3に入るぐらい素晴らしい試合だと思っています。
その試合で天龍源一郎さんのファンになり、その後も応援していました。
何より私は天龍源一郎さんと縁の深い冬木弘道さんの大ファンで、のちにFMWに
大ハヤブサ
が出現した際には誌面を見て狂喜乱舞したぐらいです。
なのでこの本にも、そんな冬木弘道さんのエピソードが奥様のまき代さんの視点から収められていたことが嬉しかったです。
その他にも、普通の家庭ではないけれど、普通の人間ではあった天龍さんの姿がありありと記され、遺されることとなった素晴らしい一冊だと思います。
結婚、娘であり現在は団体の代表である紋奈さんの誕生、そして全日本プロレス退団後の波乱に満ちたプロレス人生。それを奥様の立場で、お家のドアの向こうから見つめ続けて来た記憶の連なりは分厚く奥深いものでした。
きっともっと語り尽くせないほどあったんじゃないか。
きっともっと天龍さんを誇りたかった、自慢したかったんじゃないか。
そんな風に思います。
この本を企画なさった方の才覚やセンスも凄いですが、それを遥かに凌駕する龍の巣の主は紛れもない女傑で、最後まで太陽のまま沈んでいかれたんだなと。
そして次の朝を照らす太陽に「タッチ」をした。
「はじめに」から伝わって来る、迷いや慟哭を抱えた明るい笑顔が、最後には笑いながら泣き叫んでいるような顔に思えました。
残念ながら天龍プロジェクトの大会を生観戦するには至っていない私ですが、もし会場でお見掛けしたら是非お伝えしたい感想だけでも、ここに記しておきたく書きました。
私も還暦を間近にした母の老いや衰えを感じたり、受け入れたりしなくてはいけない時期なのだな……自分が年を取ったと感じているのだから、自分の親は勿論、子供の頃の憧れだったレスラーだって年を重ねている。
重ねてくれているだけいいじゃないか。時間が止まってしまえば忘れられてしまう。
だから書き遺し、そっとそれを置いておくことは美しく文化的な餞だと思います。
プロレスファンに興味深い内容なのは勿論、どんなに元気で逞しい人でもいずれやってくる瞬間がある……人生100年で80年は働けと言われちゃうような時代においても相応しい一冊なのかも知れないなと思います。
世の中は決して、自分自身やその周囲に生きる光を得られて、希望を失わずに人生を送れる人ばかりじゃない。だからこそ憧れのヒーローがいる。
天龍源一郎さんをずっと革命のヒーローたらしめた、もう一人のヒロインの物語であり、その生きた証でした。