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ただいま。  作者: ダイナマイト・キッド


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37/99

FMWをつくった男たち


W★ING流れ星伝説を読んだらコッチも読みたくなるんだろうな。

と思ったので、2冊仲良く購入して、順番通りに読みました。

以下に感想などを書きました。


豊橋駅前に老舗アリ、精文館書店本店さんは読むに足るプロレス本の在庫も豊富で助かります。


後追いのマニアの良いところは、オンタイムの軋轢や対立を知らないから、何でも横に並べて読み比べたり調べたりできるところ。

FMWとW★INGだろうと、新日本プロレスと全日本プロレスだろうと。

Guns N' RosesとNIRVANAだろうと…。


99年1月4日の新日本プロレス東京ドーム大会で大仁田厚さんにドハマりし、革ジャンに咥えタバコの大仁田さんから青いパンツにタンクトップの大仁田さんまでFMWを貪るように遡っていった中学生の私には、旗揚げ前夜のFMWもとい昭和日本マット界は最早おとぎ話の世界。

この時期の話となると、何度も読んだ話でもつい目が向いてしまう。


でも、この本は私には知らなかったことが色々あって面白かった。

後にウルティモ・ドラゴン校長となる浅井さんがチラッと出て来たり、新団体旗揚げに色んな人が絡んでたりした話は近年になって何処かで読んだ。校長の自伝、独学のプロレスだったかもしれない。けど、細かいことまで知ったのは初めてだったし、今の今まで続く色んな系譜の原点が殆ど一点に集中しているというのは興味深い。

古い民家の壁に伸びた蔦の出所が一か所の地下茎だったみたいな。


でもって今回は、大仁田厚さんに取材をしないで書く、大仁田さん以外の人々と黎明期のFMWの話、である。たぶんガキの時分だったら、なんだよ昔の話なのに大仁田さん出ないのかよ!と思って見向きもしなかったかも知れない。でも今となっては、明示されているその理由もよくわかる。

何だってそうだが、創業者や連綿たる家系が残しておくべき言わば「正史」というものと、現場レベルでの記録や記憶には、事実誤認や食い違いや誤差では言い換えられないようなこともあるし、何より今更に正史をなぞったところで目新しさもない。

みんなの中の美化した思い出とも乖離があるだろうし。

それならいっそ、色んな人達の証言をつぶさに拾って、正史に対する補完や今だから言える話も含めてそっちで一つの本にしたらそれはそれで絶対面白いと思う。

これは、そういう本でした。


歴史のうねりが大仁田さんをコアとして巡り出し、そこに引き寄せられ、また離れてゆく人々。W★INGが流星群なら、FMWは小さな太陽系である。

実際、初期FMWのアットホームなエピソードは色々と見聞きしているし、それは殆どが事実らしい。そのことを話している人は皆楽しそうだし、平成とはいえまだまだのどかな時代だったのだと思う。


大仁田さんが立ち上がり、後藤さんや栗栖さんが加わり、新人レスラーやスタッフが集まり、ガイジンレスラーもやってきた。何だかわからないうちに物語はガタピシと動き出し、これが小島和宏さん言うところの

「大仁田厚一代記」

となってゆく。時代の寵児として脚光を浴びる大仁田さんを陰から日向から支え、FMWをつくった人々が当然ながら大勢いた。その中には、荒井昌一さんも居た。


私がFMWを見始めた時、つまり大仁田さんの洗礼を浴び、FMWってなんだ!?と思って目を向けた時、そこに大仁田さんは居なかった。そして社長として団体を切り盛りしていたのが荒井さんだった。FMWを乗っ取りに来た理不尽コミッショナー・冬木弘道さんの横にピッタリついて、リッキー・フジさんを愚弄したりハヤブサさんにマスクを脱げと迫ったり……改心後はみんなで歌を歌うべくフォークギターを披露したこともあった。

子供ながらにイチ中小企業の社長が何でそこまで、と思っていたののだが、この時期にあらゆることを目撃、体感して、ちょっとやそっとじゃビビらなかったのかも知れない。


それでも、99年当時からFMWも、荒井さんも、10年も経たない間にモノトーンの追憶になってしまった。

この本の中の荒井さんは活き活きとしていて、何度も聞いた甲高く張りのあるアナウンスが蘇って来るようだった。笑顔でマイクを握る荒井さんの写真や、リングアナウンサーらしい派手な服装をしている姿を見ると、艱難辛苦ありながらも楽しかったのだなと思うし、これが永遠に続くことは無いまでも、あんな幕切れを迎えることなんか無かったじゃないかと今でも残念でならない。


懐かしい思い出や、自分の知らなかった時代、目撃できなかった歴史を遡ってゆくと、いつの間にか勝手にニューロンが伸びて結末と繋がってしまい、勝手に寂しくなってしまうのは老化の始まりなのかも知れない。


FMWには女子プロレス部門もあった。

工藤めぐみさん、今もお綺麗だけど当時もすごい綺麗なんだよな。そりゃ人気出るよ。こんな人がヒール軍団の極悪ファイトに立ち向かい、しまいには電流爆破までするんだから…。


ちなみに巻末の人物事典のコンバット豊田さんの欄には

「もう昔の話は忘れたよ!と言われ、美味い肉を食うだけ食って帰って来ました!」

と書かれている。コンバット豊田さんは尼崎市でホルモン焼き肉のお店をやっているとのことで、もう正直にそこまで書けるなら、本当に美味しいのだと思わざるを得ない。


選手のOBのみならず、裏方や事務員さんにまで話を聞き、同じ場面、同じ時間に色んな所から糸を通して織り上げてゆく。そして浮かび上がる、みんなで作ったFMWというプロレス団体の姿。あの時分にはちっぽけで、物珍しくて、頼りなくて、どこか誇らしげな、手作りのプロレス団体。

みんなの思い出の中にある大仁田さんの姿は、ちょうど私の本棚で真っ赤に燃えている

「ふざけんな!オレは本気だ!」

での文体によく似ている。


リングの上での大仁田さんは、このとき意外にも随分と低姿勢だったそうだ。

私が見た時には既に、新日本プロレスでは大ブーイングにもめげずに怒鳴りまくって、後楽園ホールで行われる「大仁田厚興行」(この当時はこういう風に呼ばれていた。特に団体に所属したり旗揚げしたりしていなかったから…)ではリングサイドに集まった信者に水をぶっかけ絶叫し説法をし、己の生きざまを見せつけていた。

この変わり目を捉えているところが、とても興味深かった。ほんの些細な一瞬、僕だったのが俺になる。何処かで方向転換を果たしたのか、自信が付いたのか、助言があったのか。


駒沢、川崎と来て、この本は終わる。

W★ING流れ星伝説はW★INGという団体の一部始終を書き記しているため、終盤になるにつれて失速し起きていたはずのミラクルにも見放されてゆくのに対し、FMWは涙のカリスマが誕生するまでに的を絞っているため、この先も躍進が続く前向きな終わり方をしている。


この本の最後には、筆者の小島さんと大仁田さんの意外な場所での邂逅が書かれている。

時代が平成から令和になっても大仁田さんと電流爆破は健在で、超が付くほど有名なアイドルグループとの仕事の現場で出くわすのだ。

長い年月が過ぎ、去る人も居れば、戻ってくる人も居て。

いまFMWは、再び大仁田さんと共にある。

もう切っても切り離せないし、誰もがそんなこと望まない。FMWは大仁田厚一代記で、その礎を築いた人々の姿を、今の世にありありと蘇らせてくれた。

この本は、そんな熱く温かい本であり、冷たい仁義なき戦いのスポメニックでもある。

いい本を買いました。

FMWが、大仁田さんが、好きでいてよかった。


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