ガニメデ五つの誓い
東京創元社のSF文庫で出ているジェームズ・パトリック・ホーガンの名作SFにハマっている。何となく「星を継ぐもの」って聞いたことあるタイトルだなーと思って、近所の本屋さんで注文してみた。別に何かきっかけがあったわけじゃなく、軽い気持ちで、一緒に「内なる宇宙」上下巻も買ってみた。
でそれが精文館書店豊川店に届いて、文庫本の腰帯を見て、そこで初めてこのシリーズが4部作で、私はよりによってその1作目と4作目を買ってしまっていたことに気が付いた。
知らずに読んでりゃいざ知らず、わかっちゃった以上は買うしかあるめぃ。
そういうわけで、残りもすぐに注文し、初めから読み進めていくことにした。
まあこれの面白いのなんの。
いま(2023年2月19日現在)のところは「巨人たちの星」を読み始めたぐらいなんだけども。
星を継ぐもの、ガニメデの優しい巨人、の2作とも大変おもしろい。
何が良いって余計なことが殆ど起こらない。戦争が終わった世界で、駆け引きや思惑もあまり絡まず、余計で冗長で苛立たしい人間ドラマが全然ない。そこがいい。
何しろストレスが無い。無限の謎、宇宙空間と悠久の過去と未知なる文明、そして死体。
それがどんどん解き明かされてくる。ただそれだけなのだ。ああ男女のラブストーリーとかもない。素晴らしい。
諍い事といえば、主人公のハント博士と、その相棒ダンチェッカー教授が時々、言い合いをするぐらいだった。ハントは当初、ダンチェッカーの言うことに懐疑的で、正直かなり嫌っていた。ダンチェッカーの方はと言えば頑固者で、相手が誰であっても自説を曲げず、あらゆる根拠を掴んで来ては拡げたり掲げたり躍起になってそれを証明してゆく。
その頑固一徹、一途でアタマの硬い学者と、それよりはもう少しくだけてナンパなところもある博士が名コンビになるのは「星を継ぐもの」も終盤。
二人は歩み寄り、謎を持ち寄り、答えを探る。
そしてダンチェッカーの言ったことが正しかった、と証明される時の、驚きと爽快感といったらない。どうなるんだ……どういうこと……と、アタマの何処かで答えを予想しようとするのを押し殺して心地よく急かされて読み進む快感。
驚きの新事実が判明し、ケリがついたかと思いきや……ここが遅ればせながら読み始めた奴の特権で、すぐさま続きに取り掛かることが出来る。
ガニメデの優しい巨人、だ。
星を継ぐもの、の途中で急に発見される巨大な、かつもっと古い異星人の遺骸。
コイツの正体を明らかにするどころか、コイツの正体のほうが宇宙船に乗ってやってくる。
そして彼らの未知なるテクノロジーで満たされた宇宙船から生活様式、賢くて働き者の人工知能までたっぷり描いた後で友好関係を結び、一緒に謎を解く。その結果、導かれた答えに彼ら異星人は打ちひしがれて去ってゆく。ハントとダンチェッカーも、その答えに追いつく。
異星人の着陸地点を何処にするか、とか、地上の揉め事なんぞ知ったこっちゃないと言わんばかりに、宇宙の遥かガニメデではドラマが進み謎が解かれてゆく。
ゴジラでも何でも人間同士のドラマが出しゃばるとロクなことは無いんですよ。
それがこの巨人たちの星シリーズの2作品によく現れている。こういうのつまんないって向きもあると思うけど私にはストレスが無く、物知りで理知的な人の話をフムフム聞いている気分で読める。
いやあ、こんな面白かったのか。ビックリだ。
難しい言葉や理論みたいのも出て来るけど、それが実際のとこどうなのか、実在するのかしないのかなんて土台わかりっこないので、そういうもんだと思って読めちゃえるのも助かっている。己のバカさ加減がこういう時は都合がいい。
巨人たちの星は、のっけから国同士の駆け引きや「明らかにハントと寝ている上司の秘書」が出て来たりで、読者層や世間の経年変化をうかがわせる。こっちは出版から数十年の時空を超えて一気読みしているが、向こうは何年も書き続け待ち続けた作品であるからして、そういうこともあるだろう。
これがどう転んで行くか、作者と作品への信頼があると案外ちゃんと読めちゃうもんだ。
あとハント博士に対する信頼か。
ダンチェッカーは相変わらず仕事と研究に没頭しているけど、ハントが訪ねて来ると相好を崩すなど可愛いところもある。
まだ残り3冊丸ごと楽しめる。腹いっぱい読んで、私も書き物がんばるぞ。
ヒヨコ豆ならがるばんぞ。
ちなみに、このホーガンの4部作が終わったら、今度は、いよいよ、チャイナ・ミエヴィルのペルディード・ストリート・ステーションが待っている。
楽天ポイントの期間限定ポイントなんてものが数百ポイントあったので、そいつでウェルズの宇宙戦争も買ったから、それも届いたら読むのだ。
イッヒッヒッヒ。私ゃクスリもタバコも酒も要らん。
本を読めば宇宙でも木星でも異次元でも何処にでも飛んで行ける。
我ながら安上がりで便利な性分である。