岳南電車に乗って来たよ
静岡県は横に長い。新幹線の駅だけでも愛知県の倍ある。
で縦にも広い。海沿いの東西を東海道本線が、その要所で北に向かって私鉄が伸びている。
天竜浜名湖鉄道、遠州鉄道、大井川鉄道、東海道本線と同じく横方向には静岡鉄道。
と、来てJR吉原駅と接続している小さな鉄道。それが岳南鉄道の岳南電車。
今は岳南電車という会社が運行しているらしい。
古い、小さな車両で吉原駅から終点の岳南江尾駅まで全長9.2kmを結ぶ、なんとも可愛い路線である。
元々、現在の吉原駅は町の中心から離れたところに建っていて、そこと市街地を結ぶ路線であり、付近一帯の工場に人員と貨物を運ぶ路線でもあったようだ。
でも貨物の取り扱いはなくなってしまい、お客さんも平日の昼間はチラホラ。それでも正直、思ってたよりは乗って来たし生活に密着した路線であることは確かにうかがえる。
自社のホームページで「コトコト結ぶのどかな電車」と言っているだけあって、長い年月を感じさせる駅舎、設備、景色。
でも新しい設備も入っているし、グッズ販売やイベント開催など打つべき手は色々と打っている。そして吉原駅では岳南電車グッズも売っている。
券売機で全線1日フリー乗車券を買う。その日は何度でも乗り降り自由、720円。吉原駅から終点の岳南江尾まで行って帰って740円。お得だ!
先ずは吉原駅から本吉原駅に行ってみる。駅舎の隣にある本社でもグッズが買えるらしいけど、それらしき場所も無かったので近所の居酒屋さんでランチメニューの焼肉丼(大盛り)を食べて戻ることに。
フツーのお店だけどフツーに美味しかった。
岳南電車・本吉原駅出てすぐの居酒屋ダイニング「ふらっと」さん。
この本吉原駅は、岳南鉄道開業当時の吉原駅。今の吉原駅は、鈴川駅といったそうな。
それが紆余曲折あって今は本吉原駅として残り、しかも70年前の姿をとどめていることからプラットホームと上屋が国の登録有形文化財に登録されている。
ただし駅のホームと車両には結構な段差があるので乗降の際は注意が必要だ。
アチコチ写真に撮って、終点を目指す。
途中の岳南富士岡駅には、約90年前に製造された電気機関車が展示されている「がくてつ機関車ひろば」がオープンし、なんと豊川鉄道で使用されていた機関車もあるという。
豊川鉄道ったって地元民でもピンと来ないが、要するに今の名鉄名古屋本線とJR飯田線の前身の前身ぐらいの会社である。
ザックリ言えばJR飯田線と名鉄名古屋本線は、かつて複数の鉄道会社が運営する路線を合併したり、それが一部国有化されたり、さらにまた分割民営化されたりで今の形になった。
それだってもうマニアだけがわざわざ調べて知っているトレインお伽噺みたいなものなのに、実際にその現物がドーンと置いてあるのだ。それも車窓からバッチリ見える。
なんなら駅で降りれば間近で見られる。1日フリー乗車券なら乗り降りするだけお得になるので申し訳ないぐらいだ。博物館でお金取って展示できるぞコレは…!
ああああ飯田線と名鉄名古屋本線との絡みから、豊橋駅にはJRの駅名標なのに名鉄の駅名と番号が振ってあるうえ、豊川の鉄橋や付近の線路は同じものを共用していること、その理由を話したい!書きたい!語りたい!(THE夜もヒッパレ)
が、それがまたの機会に。
ああああ名鉄の終点駅でもあるのに車両は手前に置いてある事や、1時間に6本しか発着しないことも!(知念里奈さんが大好きだった)
意外なところで意外な時代の置き土産を前にして、なんだかウットリしてしまった。
そしてウットリしているうちに電車は終点の岳南江尾駅に到着した。
東海道新幹線をアンダークロスして、ぽっかーんと音がしそうなくらいのどかな風景の中に今にも溶けだしてしまいそうな、これまたのどかな駅舎。と、結構キレイなトイレ。
駅入り口のコカ・コーラの自販機でチルアウトを買って、盆地然とした蒸し暑い空気の中で飲んで、往時の様子を偲ばせる遺物や風景を眺める。
駅舎にはこれまた古式ゆかしき伝言板も設置され、地域のふれあい掲示板(営利目的以外でなら自由に張り紙などを掲示できる)と共に年季の入った建物の壁を賑わせている。
が、伝言板の方には詠み人不明の岳南電車俳句が書かれているだけだった。
私のHNとツイッターIDでも書いて来たら良かった。怒られるかな?
乗って来た電車でまた戻る。
というかさっきから同じ車両、同じ運転士さんな気がするんだけど…ローテーションが気になるところだ。
まあ短いうえにゆっくりだけれどもさ。
ワンマン運転なので停車するごとに運転席から出て来て、運賃や切符を受け取っている。私は1日フリー乗車券なので、しっかり提示して乗り降りする。
帰りの電車は本吉原あたりで結構お客さんが乗って来ていた。やっぱり市街地とJRの駅を結ぶ路線は貴重だし、このだだっ広い静岡にあってもクルマ以外の移動手段が無くてはならない。
私鉄ってのはホントに何処もかしこも個性的かつ何処の街でも重要な交通機関なわけだが、これほど都市の風景と密着し、下手するとその風景そのもののなかを突っ切っていく路線も珍しいんじゃないだろうか。
実際に岳南原田駅では工場の中を通るし、ジヤトコ前もタンクやパイプの真横を通る。
工場の夜景を楽しむイベントが開催されたり、鉄道領域としては全国で初めて日本夜景遺産に認定されたり、なるほど景色と生活に溶け込んでいる路線である。
ここだけ時間が止まったようなところもあれば、ちゃんと今の実情に即した部分もある。
控えめなグッズ売り場や車内・駅構内の広告の少なさなんかを見てると、判官贔屓したくもなる。
だいたいゲンキンなもんだよな。アクセスしたインターネットサイトが広告まみれだと蛇蝎の如く嫌うのに、訪れた(アクセスした)鉄道路線の駅舎や車内に広告が少ないと心配になるんだもん。要するに広告の質の問題なんだろうけどな。
駅舎を歩いてて、ずーっと顔の真横にホログラムの広告が付いて来たらムカつくだろうしな。椎名誠さんの小説みたいだ。
駅のグッズコーナーで岳南電車のフェイスタオル、ほうじ茶カレー、8000系定規、クリアファイルなどを購入。1日フリー乗車券と併せても5千円を超えないのだから良心的である。
今度は機関車を見に、また来よう。