軟骨さん
佐藤達木さんのマンガ「軟骨さん」が単行本になりました。
おめでとうございます!
主人公ササトウさんは派遣や日雇いで食いつなぎながら漫画や絵画を描いている。が、ある時ついにクレジットカードを止められ手持ちの現金も底を尽きそうになってしまう。金策のアテもなく途方に暮れている最中、一枚のチラシを目にする。
それは手ぶらOKの質屋、タキミ。
ダメで元々、興味半分にショッピングモールの片隅にあるその店を訪ねてみたところから、このBIZARREでSTRANGEな物語が動き始める……。
元々はコミックMEDUというサイトで連載されていた作品で、不定期どころか忘れた頃にひょっこり現れて、またしばらくの間が空いて……何故そんなに連載と言いつつ間隔があくのか。何処かで佐藤さんの絵を見ればわかる。
異様な風体の生き物やオブジェ、物凄く疲れた時か高熱が出た時に明け方に見る夢みたいな背景、妙に生活感のあるストーリーから連れて行かれる共有世界の風景。
これらをアナログでビッチリがっつり描き込んであるのだ。
気の遠くなりそうな作業を想像するよりも遥かにこちらの想像を超える妙なモノや人々。
スマホでスワイプしながら読むのもいいけど、手に持ってページをめくるとそれがまた味わいになるようで。
ササトウさんは自分のアタマを質草にお金を借りることは出来たが返済のめどが立たないため、今度は質屋の主タキミさんに仕事を紹介してもらうように頼みに行く。
このタキミさんというのが、まあー怪しくて胡散臭くてヤニ臭そうで、伊丹映画とか市川崑の金田一シリーズに出て来そうな、い~いキャラをしている。
七三分けの長髪にレイバンみたいな大きなサングラス、細い口髭、ジャケットにスラックス。
身なりは整っているが風体が怪しすぎる。
そのタキミさんの勧め(口車)でアタマを質草にする時の描写が凄まじい。読んでいるコッチの目や脳までどっかに飛んでいきそうな入魂の見開きが続く。
こうしてまとめて読んでみると、プロローグで凄まじいものを見せつけられた後は、この世界と重なるように存在するという共有世界での行動に、要所で凄いのが来る感じになっている気がした。メリハリがあって、眼も疲れないし……でも、同じ人間や製品があるのにやっぱりどっかヘンな世界に居るという違和感と没入感の絶妙な同居状態がとても心地よかった。
これはブラウザを通さずに一気読みすると猶更よくわかると思う。
出版されたばかりなので細かいことはイチイチ書かないけど、時に不気味で、時に神秘的で、時に楽しそうな仕事で、でも大変そうだし、でも給料いいし……。
何となく自分もタキミさんにお仕事させてほしくなっている。
テーカとテーポを捕まえるのでもいいし、餅鬼退治でもいい。
奇妙でおもしろく、すこし世知辛い。そんなお話……。借金返済のために働く、というのはよくある話?だけど、その方法が素っ頓狂で、狂気ギリギリのところにいる。
ササトウさんが何故あんな顔になったのか。そこまででも読んでみれば結構ハマると思います。
圧巻はアタマの質草、お気に入りは巨大なテーポ、福餅の社長。
読んだ人にはアレコレ話したいことがいっぱいあるので、私も読んだよ!という方はお気軽に話しかけてやってくださいまし……。
これは完結してしまったのでしょうか、タキミさんは、ササトウさんは
「また来る」
と確信しているようですが……。
佐藤達木さん、お疲れ様でした。次回作も楽しみにしています!