「かつてメキシコには物凄くマズい飴玉があった」新装版。
私がインターネットにナニカヨクワカラナイ文章を書き始めた、そのかなり初期に公開した記事を、
何を血迷ったか、たった今(2023年4月18日)リライトしてみました。
堀口ひろみ先輩、お元気ですか。
メキシコの寮でのある日。何の前触れもなく、先輩が私の部屋にやってきて
「佐野君、お菓子をあげよう」
と言って、両手にいっぱい持ったお菓子をどどっと手渡してくれた。ちょうど小腹が空いていたし、お菓子は大好きなので遠慮なくいただいた。
しかし私は忘れていたのだ。ここがメキシコと言う国だという事を。頂いたお菓子はカップケーキ(チョコ味とバター味)にポテトチップス。トルティーヤにガム、グミ(ハリボーはメキシコでも一般的なお菓子だった)、そして幾つかの飴玉。特にこのカップケーキは甘かった。ひとつ食べ終わる前に舌が痺れるか虫歯が出来るかというぐらいの甘さ。いやあ参った。
で、今度は、と飴玉の包みを一つ開けて口に放り込んだ。飴玉はマンゴー味であった。甘い。においが甘い。嗅覚と味覚がいっぺんにバカになるぐらい甘かった。しかもマズい。何かわからないが、猛烈な甘さの中に明らかに不快な刺激がある。添加物か、甘味料か、なんだろうこれ…甘ったるいコンクリートを舐めているような感じだ。
やがてその不快感は、舌に直接突き刺さる無数のトゲに変わった。
辛い。
辛い辛い辛い辛い!!!!!
なんだこれは!飴玉がこんなに辛いことあるか!?
辛すぎて痛いぞ、舌が痛い!
甘いマズイ辛い痛い甘いマズイ辛い痛いマズイ甘い痛い痛いマズイマズイマズイ!
生まれてこの方、未だにあれよりマズくて辛い飴玉を舐めたことがない。いったいなんなんだ、と一旦ごみ箱に捨てた飴玉の包み紙を拾い上げて、そこに書かれているイラストを改めて見て絶句した。
黄色いマンゴーの横に、小さく真っ赤なハバネロが添えられていたのだ。はあっ!?と思って飴玉を口から取り出して、目の前にかざしてみた。
濃い黄色をした飴玉の中に、ぎっしりと赤い斑点が見えている。
つまり黄色いのがマンゴーで、この赤い粒々が…。
飴玉にハバネロ仕込む奴があるか!メキシコ人のバキャアアアア!
その日の夕食のとき、お菓子をくれた先輩にそれとなく聞いてみた。
「ああ、佐野君あの飴玉食べたの!すごいなあー。あれ、あんまりマズいんでメキシコ人でも食べる奴いないんだってさ」
そんな飴玉を寄越すなああああああああああああああ…後にも先にも、飴玉で口の中が爛れたのはあれっきりです。
そういえば、あの飴玉、ホントにアレ以降ちっとも見かけなかった。先輩が言うには、寮の近くにある教会の門前に出てる売店で売ってたらしいんだけどね。スーパーや市場の雑貨屋には置いてなかったから、案外本当に敬遠されているのかも。いやまてよ、もしかするとあの教会の前の売店でだけ毎週日曜のミサの後に件の飴玉を発売開始から38年間買い続けているスパイシーじじい、なんて人がいるのかもしれない。居たとして、毎週ミサの後にその飴玉を孫や息子にあげてるけど、ちっとも喜ばれなかったりするんだろうか。
もう一度、食べてみたくもあるような、ないような…。そんな飴玉のおはなし。