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ただいま。  作者: ダイナマイト・キッド


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BON-ICE

ボンアイスと読む。たぶん。

メキシコに居た頃よく食べていたアイス。

日本での区分で言うと氷菓ってやつになると思う。一時期コマーシャルも流れててコンビニとかで見かけた「ぎゅぎゅっと!」って憶えてる人いる?

あんな感じで、果汁入りのシャーベットが筒状の紙パッケージに入ってるのを手で押し出しながら食べるんだ。

こないだスギ薬局で似たような商品を見つけたんだけど、塩グレープフルーツや塩レモンのシャーベットで美味しかった。夏に最適化されてるのもうれしい…外で汗ダラダラ流してると余計に。


でメキシコだよ。

2005年の時点では日本より暑かった。今じゃいい勝負かも知れない。

でも決定的に違うのは湿度だった。同じメキシコでも場所によるのだけれど私のいたナウカルパンという街は高度2000メートルにあった。

湿度も低いが酸素も薄い。

急に運動して酸欠でぶっ倒れた奴も居る。私だ。


朝8時前だというのに気温が30度を超えている!

と、あのとき驚いていた。今じゃ日本でもそのぐらいだ。

けどカラっとしてるから日陰や建物に入ってしまえば気持ちがいい。実際、私の居た寮でも冷房はつけていなかった。そもそもエアコンが無かったのかもしれない。

明け方は毛布をかぶってないと寒いくらいだ。熱帯夜という蒸し暑い夜が無いのは有難かったね。THE YELLOW MONKEYは困ったかもしれないけど。

その代わり昼間はとにかくカンカン照りである。

買い物に行くだけでも汗だくになる。それどころかメガマートに向かうためのバスを待っているだけでも滝のように汗をかく。

炎天下の道路端で、いつ来るともしれないバスを待っている……だってメキシコだぞ?

日本みてえに停留所が決まっててポールが立ってて、時刻表まで据え付けてあるようなのとはワケが違う。

「大体この辺で待ってると、そのうち来る」

のがメキシコ流。もしバスが行ってしまったばかりなら結構待つことになるのは何処も同じだろうが、あの国の場合いつ来るのかがわからない。


そこでBON ICEだ。

と、いってもお店で売っているわけでは無かった。と思う。

まあ何しろ20年以上前の記憶だからもしかするとコンビニ(OXXOというチェーンが近くにあった)やスーパー(ボデガ・ヒガンテという店だった)のアイスコーナーにちゃんと居たかも知れないが、基本的にBON ICEをお店まで買いに行く必要は無かった。

向こうから歩いて来るのだ。


BON ICEを満載したクーラーボックスを肩から下げたオバチャンが市内のそこかしこに居る。まるでテレビゲームのNPCみたいに立っていて、声をかけるとアイスを売ってくれるのだ。

紺色に近い濃いブルーにショッキングピンクという鮮やかな色彩の制服に身を包み、炎天下にバスを待っている哀れな日本人肥満児(私だ)の元へ忍び寄って来る。

昨日も食ったしなあ、でも、暑いなあ……などと逡巡しているうちにクーラーボックスのフタをパカリと開ける。向こうもお見通しだ。

抗えぬBON ICEの魅力は味の良さ、量の多さ、そして

「いちばん気に入ったのは…値段だ」

(コレ読んでくれる人みんなコマンドーわかると思うなよ佐野)

なんといっても安い。日本の同じような品物が15cmほどで120円とかだった時代に、倍ぐらいの長さがあって2ペソ(約22円)だった。

味はリンゴ、レモン、マンゴー、ブドウ、とかだった気がする。

面白いのは日本でリンゴというと黄色や赤だけど、メキシコでは黄緑色だったことだ。青リンゴの色なんだろうか。黄色はマンゴーがあるし。

でまあ、味が濃くて安くて冷たくて量が多いBON ICEは暑さでへばった日本人肥満児の強い味方で、バス待ちの間に食べていた。


ある晴れた日の朝。

いつものようにメガマート行のバスを待っている私のところへ、いつものようにBON ICEのおばちゃんがやって来てフフフとあやしくフクミ笑いをする。

寮の玄関から一歩出た瞬間から直射日光に脳まで貫かれ、灼けた大地に孤影(こえい)を踏みつつアヂアヂヒハヒハ化した私(シーナ誠かボトムズかどっちかにしろ!)は今日も抗うことなくおばちゃんに向かって呟いた。

「ウノ・マンサーナ・ポルファボール」(リンゴ味を一つくださいな)

オバチャンは無表情かつ無情にも言い放った。

「今日はマンゴー味しかない!」

カバンの中を覗き込むと、二十数本は入ってそうなラインナップが全部真っ黄色のマンゴー味ではないか!

そんな偏った仕入れ方ある!?

まあ、ウマイし、いいか。

私はオバチャンに2ペソを支払い、いつ来るともしれないバスを待つお供にマンゴー味のBON ICEを咥えて日陰で所在なく佇んだ。

2005年のナウカルパンの思い出は今も、溶けてなくなることなく頭の片隅で凍りついている。


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