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48話:英雄の帰還

間が空いた……orz



「何ということ……! 予想外もいい所じゃ……!」


 怒りに震え、搾り出すように言葉を吐いたのは、迷い星を召喚したあの老魔術師である。

 彼の背後には、ゼウルと二人の尼僧が控えている。

 老魔術師の怒りに、その三人は怯えていた。


「まさかアレが……!」


 老魔術師が右手を振ると、周囲に置かれていた豪華な装飾品や、古い壷や絵画などが彼の魔力で吹き飛ばされた。

 彼らの姿は今、パルフスト城のある一室……宝物庫にあった。


 迷い星の出現による混乱に乗じ、忍び込んだのだ。

 いくつものロストパーツや魔道具を保有し、あらゆる魔術を極めた彼にとっては造作も無いことであった。たとえ混乱が無かったとしても、彼にはさほどの問題ではなかっただろう。


「だ、大教祖様……。どうなさったのです、目的の物が見つからなかったのですか?」


 ゼウルが恐る恐る聞く。

 その声に、血走った眼でゼウルに振り返った老魔術師は忌々しげに言った。


「……目的の物か……、それなら見つかったわい。あ奴の……小僧の手に渡っておったわ!」

「!?」


 巨人と迷い星の死闘は、ゼウルの手の上にある魔道具から部屋の壁に、まるで映画のように映し出されていた。

 今は巨人が迷い星の残骸を持って空へと飛んでいってしまったので、荒れた平原の光景しか映っていない。


「ど、どういう事ですか?」


 狼狽したヴィーラが問う。


「……小僧が巨人の身体に纏った、あの鎧……! あれこそ、わしが探し続けていた三つのロストパーツの内の一つじゃよ」

「三つの……ロストパーツ?」

「かつて、このバルアーレン大陸を支配したソルガ帝国。その支配力の源となったのが、その三つのロストパーツじゃ」


 老魔術師は、そのロストパーツについて語り始めた。

 今から約九百年ほど前、ソルガ帝国はソルガ王国という数ある小国の一つに過ぎなかった。

 それがある日、突然隣国への一方的な侵略戦争を開始した。


 当初、他国はソルガ王国を弱小国家の一つと見なしていた為、国王は気が触れてしまったのだろう、あんな弱小国の軍などすぐに壊滅してしまうだろうと思われていた。

 だが、その予想はことごとく覆された。

 ソルガ王国軍は驚異的な強さを見せつけ、あっという間に敵軍を壊滅させた。そして、隣国をたやすく平定してしまったのだ。


 そこからは正に破竹の勢いで進撃を続け、戦争開始からわずか百五十年ほどで大陸全土を支配するソルガ帝国を建国したのであった。

 常識では考えられない、異常ともいえるソルガ王国の強さを支えたのが、ある三つのロストパーツだった。


 一つめは金属の魔獣。

 竜矢の巨人モードとほぼ同じ大きさの金属製の魔獣で、口から炎を吹き、その爪と牙は堅固な城壁を容易く破壊した。頑強な体は物理、魔術を問わず、あらゆる攻撃を跳ね返したという。


 二つめは大地を操るロストパーツ。

 地面を突然隆起させたり、大きな地割れを発生させて敵国の兵士たちを防ぎ、落とし、潰した。流砂や土石流、果ては火山の噴火さえも自在に操ったという。


 三つめが、竜矢がスーニアと共に使った『光の絆』であった。

 複数の魔術師が光の絆を使うことにより、強靭な魔力の鎧を万を越える軍勢の兵たち一人一人に纏わせることが出来たのだ。


 これらの力をソルガ王国がどこで、どうやって手に入れたのかは分かっていない。

 ただ、ソルガ帝国が瓦解した時には既に三つとも失われていたようだ。

 老魔術師はこのロストパーツたちを捜し求めているらしい。


「先ほど巨人が纏った鎧が、そのうちの一つ、光の絆というロストパーツの力によるものだった、と……?」

「うむ……。あの凄まじい防御力もそうじゃが、鎧が現れた際、二つの魔力が融合するのを感じた。あの小僧と、マナウルフィの魔力じゃった。光の絆の事を知っていたのか、偶然が重なったのか分からぬが、発動に成功したのだろうな」


「なんと……!」

「まったく、忌々しい小僧じゃわい。奴らがこの城に居ると知ったときは、迷い星との戦いを観覧しながらゆっくり宝探しが出来ると思うたが……! まさかこんな結果になるとはの」


 老魔術師は怒りを隠そうともせず、文句を呟きながら右手を懐に入れると、転移の魔術式が刻まれた金属の円盤を取り出した。


「もうここに用は無い、さっさと帰るぞい。策の立て直しじゃ」

「はっ、はい!」


 ゼウルたちも円盤を取り出して発動させる。持ち主の体がその光に包まれていく。


「小僧、今はお前たちの手に委ねておくが、いずれ手に入れるぞい……。その『拒絶の哭鎧きょぜつのこくがい』はわしの物じゃからの……!」


 目の前には居ない竜矢とスーニアを姿を射殺すように睨みつけながら、彼らは宝物庫から姿を消した。

 宝物庫が荒らされているのが分かるのはこれからしばらく後の事であるが、調査に当たった兵士や文官たちは首をひねる事になる。

 破壊された物は有れども、盗まれた物は何も無かったからである。




 そして、一抹の寂しさと悲しみを胸に、英雄は帰還する。




 パルフスト王都周辺で巨人と迷い星の戦いを見ていた人々は、巨人の姿を探すように空を眺めていた。

 興奮冷めやらぬ様子の者たちであったが、少しずつ落ち着きを取り戻した者から王都の我が家へと戻ろうと動き始めていた。

 釣られるように、次々と歩き出していく。

 最初に王都の門を通ろうとした家族の中にいた、母親に抱かれた幼子が空を指差した。


「おかあしゃん、おっきいひとが、かえってくるよ」

「えっ?」


 それを聞いた周囲の人や、門番の兵たちが慌てて空を見上げた。

 だが、何も見えない。雲一つ無い晴天だ。


「おいおい、脅かさないでくれよ」

「すみません。……もう、この子ったらビックリするじゃない。あのおっきい人はきっと神様だったのよ。悪い魔物をやっつけたから、天に帰ったのよ」

「ぶー、くるもん! もうすぐくるもん!」


 ふくれっ面になった子供の顔を見て、人々の顔がしょうがないなあという感じに笑顔になる。


「ははは、子供のいう事だから……。けど、本当に戻ってきたらまた大騒ぎになるな……ん?」


 兵士の一人が空を見上げた。

 広がる青空の中に小さな紅い点を見つけた。

 ゆっくりと大きくなっていき、人の形になっていく。


「お、おい、あれ……」

「……ま、まさか、本当に……?」

「ほら、きたでしょ、おかあしゃん!」


 人々のざわめきが大きくなり、はっきりと巨人の姿が認識できる様になった時、それは歓声へと変わった。


「帰ってきたーーーーっ!!」

「神の帰還だー!」



 巨人の姿は王都の中でも見えていた。

 王都外の戦いを知らぬ者たちも、空の戦いは見ていた為、自分たちを守ってくれた巨人が帰ってきた事に興奮していた。


 王都の内も外も歓声の渦だ。

 ダルスやボアズたち近衛騎士たちも巨人を見て興奮している。彼らは巨人の正体が竜矢だとは知らないが、こんな事が出来るのは彼しかいないと、薄々感づいていた。

 巨人の姿は王城からも見え、ラディナやミルファルナ、そしてシェリカとバートも巨人を見つめていた。


「リュウヤ様、ご無事で良かった……」

「そういえば、ミルとシェリカ殿はあの巨人になったリュウヤ殿を見た事があるといっていたな」

「ええ、手の平に乗せていただいて、守って下さいました」

「高くて結構怖かったですねー。今なら眺めを楽しめそうですよ」

「あれが、黒帝……サカザインさんの力……」


 ミルファルナとシェリカを除き、初めて竜矢の巨人モードを見た者たちはその姿に圧倒されている。


「むぅ……リュウヤ殿はあのような事まで出来るのか……!」

「……既存の魔術とは比べ物になりませんね、完全に別次元の力です……」


 クロフォード王やイーヴェン、側近たちは謁見の間の窓から巨人を眺めていた。


「あの、陛下? お聞きしてもよろしいか?」

「なんだ? ヴェルデン」


 恐るおそる、側近の一人であるヴェルデンがクロフォード王の側にやって来た。


「陛下はあの巨人のことをご存知なのですか?」

「……ん? あー、それは、だなぁ」


 側近たちが近くに居るのに、うっかり口に出してしまっていた。

 竜矢たちのことは秘密にしていたのを、騒ぎのせいで失念していたのだ。


「ヴェルデン軍務卿、それはパルフスト王家の方々のみが知りうる事。詮索するのはお勧めできません」

「そうなのですか? 陛下」

「……うむ、その通りだ」


 イーヴェンのフォローのお陰で事なきを得そうである。




「ふーい、何とか片付いたなー。風呂に入って疲れを取りたいぜ」

「そうじゃの、今はとにかく休みたいのう」

『マスターお二人、ともに体力も魔力も大分消耗していますからね、ゆっくり静養するのをお勧めします』


 巨人の中で、竜矢たちはようやく全て終わった事を実感して一息ついていた。

 二人とも疲労の色は濃いが、表情は明るい。

 竜矢の心の中には轟雷弐式への悲しみが残っているが、それも少しずつ癒されつつある。

 スーニアの両手が彼の体を胸元でそっと包み込んでいる。その温もりが身体だけでなく、ゆっくりとだが心も暖めているからだ。


『ところでマスター方、どこに降りるつもりですか?』

「あー、城の中庭でいいか」

「うむ、あそこならこの巨人でも降りられるじゃろう」


 巨人は王城の中庭に向かってルートを修正する。

 徐々に大きくなる中庭には、城の中から続々と出てくる人の姿が見えている。

 城外に視線を向ければ、王城に向かって集まってくる人々の姿も見える。


『しかし、よろしいのですか?』

「ん?」

「何がじゃ?」


 光の絆の問いかけに、竜矢とスーニアは揃って首を傾げる。


『このまま降りたら大騒ぎになるのでは? というか、もうなっているようですが』


「「………………あ」」


 二人の間の抜けた声が、巨人の中で虚ろに響いた。




 城の中庭に巨人が降り立つと、城から出てきた者たちが興奮した様子で遠巻きに眺めている。

 竜矢はとりあえず自分の周りに不可視結界を張って見えなくはしたものの、巨人モードを解除しようにも出来ず、頬を指でかきつつ途方にくれた。


「……どーすんべ」

「すまん、リュウヤ。わしも気にしておらなんだ」

「しょーがねーよ。俺もお前もヘロヘロで、頭が働いてねーもん。……しかし、困ったな……」

「全員、城の中へ戻れ!! 持ち場を離れるな!!」

「お? 姫さん」


 そうこうしていると、ラディナ姫が現れて人々を城内へと戻し始めた。


「皆の者、よく聞け!! この巨人については口外することも詮索することも、その一切を禁ずる!!これはパルフスト王家からの勅命と思え!! 何をしている、早く城内へ戻れ!!」


 兵に命じ、ラディナ姫は次々と城内へ人を戻していく。

 中庭にいるのが彼女だけになったとき、竜矢はやっと巨人モードを解除することできた。


「ありがと、姫さん。助かったよ」

「なに、大したことではない。二人とも無事でよかった……」

「ラディナよ、我が主は風呂を所望じゃ、すぐに用意せよ」


「承知した。リーらに言って、すぐに用意させましょう。お疲れでしょう、今はとにかく休んでください」

「ああ……そうさせて貰うよ、さすがに……疲れたぜ……」

「リュウヤ……? ……寝てしもうたか」


 竜矢は静かな寝息を立て始める

 愛おしげに竜矢を見つめるスーニアの表情は、少女であるというのに聖母のような母性さえ感じられるものだった。


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