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45話:その身に纏うは、紅と黄金の絆


 巨人と迷い星との戦いを、見つめる者たちがいる。


「ふぉっふぉっふぉ……凄まじいのう! あの迷い星、小僧の力と互角以上ではないか」

「はい……」


 とある場所で、老魔術師とゼウルたちは神話の中の戦いのような光景を見て驚嘆しつつ、楽しんで鑑賞していた。

 正確には楽しんでいるのは老魔術師だけだ。

 残る三人は人知を超えた戦いに、ただ恐怖していただけであった。


 正に神の如き力を発揮して異界の迷い星と戦っている竜也に。そして、その力を歓喜して見ている老魔術師に。

 あんな力を持っている存在と敵対している自分たちの未来に。

 老魔術師が何を思っているのか、分からないという今更な事実に。

 しかし、自分たちの未来はこの老魔術師の行く道に従うだけだ。

 怯えながらも、恐怖しながらも、その先にある己が欲望を満たすために。


「しかし、さすがの小僧もだいぶ弱ったようじゃが、諦めてはおらんの。まだまだ眼が離せんのう、ふぉふぉふぉ……」


 そんな三人の気持ちに気付いているのか、いないのか。

 老魔術師だけは不気味な笑みを顔に貼り付けていた。




 そして、ゼウルたちの他にも戦いを見つめる者たちがいた。


「おお……! あの巨人は不滅か……?」


 平原から少し離れた所にある街道上に、数十人の人影があった。

 キドニア王国方面ではなく、たまたまこちらの方に逃げてきた王都の住人たちだ。

 その中に、数人の吟遊詩人たちの姿があった。

 彼らも、住人たちも、恐怖しつつも竜矢たちの戦いから眼を離せなくなっていた。


 特に吟遊詩人たちは、常に新しい物語をその知識に加えることに飢えている。

 多少の危険を承知の上で、新たなるサーガとなるであろう巨人と迷い星の戦いを食い入るように見つめていたのだ。

 さすがに距離的に竜矢の姿は認識できていない。スーニアの姿が何となく見えるか見えないか、という所だ。


「師匠、巨人は私たちの味方のようですが、あの鋼の迷い星を倒せるのでしょうか……。周りを飛んでいた子供のような星は倒せたようですが、迷い星本体はさほど弱ってないようですが」


「周りに生えていたいかずちを放つ棘はほとんど破壊したようだ。だが、ここからが正念場であろうな……」


 師弟と思われる若い男と初老の吟遊詩人が話している。

 突如として空に現れた球体のことは、彼らからいつしか迷い星と呼ばれていた。

 空から襲ってきた、異形の迷い星と認識されたようだ。もっとも、それ以外に形容しがたかったという事からそうなったのだが。


「他にも、どんな力を持っているか分からないから……ですか?」

「うむ。だが、それはあの巨人にも言える事だな。実に多彩な能力を持っているようだが……。神話にある創造神・バルアハガンの化身か、それとも武神・ディルワルド神の化身か……」


 恐怖を感じながらも、自分たちはいま、誰も見たことのない光景を目の当たりにしている事に興奮していた。

 それは他の人間たちも同じだった。

 逃げようと思うのに、魅入られたように身体が動かない。

 彼らは今、自分でも気付かないうちに歴史の生き証人となろうとしている。


 そして、再び戦いが始まった。




 巨人は飛翔を開始すると、高速でジグザグに動いて迷い星へと突っ込んでいく。

 そのままオリジナル魔術を放った。


「『神魔を穿つ異界の連弾』!!」


 巨人の周囲に無数の小型魔術式が現れ、そこから銃弾型に凝縮された魔力の弾がバルカン砲のように高速、連続で発射されて迷い星へと襲いかかる。

 謀反事件の際に使った、神魔を貫く異界の銃弾は貫通力と威力を重視して作ったものだが、異界の連弾は連射性能に特化して作られている。


 魔力消費量も少なく、魔力の弾丸を文字通り雨のように放つことができる。

 迷い星の表面に無数の弾丸が当たる度に火花を散らし、少しずつその装甲を削っていく。

 と、迷い星の上部の装甲が二箇所開くと、そこから数発のミサイルが発射された!

 ミサイルは途中でさらに細かいミサイルに分かれると、巨人に向かって殺到してくる。

 驚いたことに、ミサイルたちは異界の連弾をかわして飛来してくるではないか。

 恐ろしく高性能だ。


「リュウヤ、あれはなんじゃ!?」

「ミサイルっつって、目標に当たると爆発する代物だ! おまけに、お約束の自動追尾型

か! 自分への攻撃は見事に避けてやがる!」

「当たると爆発……。ならば、対処は簡単ではないか」


 巨人の中で、スーニアが右腕を一振りする。

 すると何十本もの刃線が巨人の周囲に現れ、ミサイルへと殺到する。

 さすがの追尾型ミサイルも、蛇のように不規則にうねりながら迫る刃線をかわし切れずに次々と刃線に接触、切断されて破壊されていく。


「ふん、この程度なら造作もないわ」


 今のスーニアに、さっきまでの恐怖心は微塵もない。

 巨人の中に居ることで、まるで竜矢に優しく抱きしめられている様な感じがしているせいだ。

 落ち着きを取り戻し、冷静に対処している。


「お見事! 今のうちに接近するぜ!」


 再び迷い星へ急速接近を開始する。

 わずかに残っていた電撃を放つ棘が攻撃してくるが、意に介さずに突っ込んで巨人の右の拳を迷い星に叩き込む!


 轟音が周囲に鳴り響き、拳が当たった箇所の迷い星の装甲が陥没した。迷い星の巨体が衝撃で傾き、わずかに後退する。

 続いて左の拳を、さらに右拳を、と巨人は次々にラッシュを叩き込む。


「すげえ! すげえぞあの巨人!!」

「やれ! やれ! やっちまえ!!」


 その光景を見ている人間たちが、歓声を上げて巨人への声援を張り上げた。

 街道にいる者だけではなく、王都を囲む城壁の上でも声が上がる。

 見張りの任に就いていた兵士たちだ。


「うおおぉ!! いけえー!」

「このパルフストの守護神だ!!」


 そんな声援を受け、竜矢がさらに攻撃に力を込める。

 拳を、掌打を、蹴りを、肘を、膝を。知識の中にあるディルワナ国の武僧の技を連続して放ち、迷い星はその度に損傷を増やしていく。


 もはや迷い星に打つ手は無いと思われた。

 だが、迷い星の動きの微妙な差異に、竜矢もスーニアも気付いていなかった。

 攻撃の瞬間、わずかに打点をずらし、巨人の位置を誘導していたことを。

 そして、その黒目にまたも凶悪な青白い光が宿り始める。


「……! この野郎!」


 まともに受ければ、巨人の身体といえども貫通するほどの威力の武装。

 だが、正直に受ける必要などは当然無い。

 即座に回避行動に出ようとした瞬間、迷い星の後部から何かが四本、飛び出した。


「なんじゃ!?」


 スーニアの叫びと重なるように、それは巨人の両手両足に絡み付き、動きを封じてしまった。

 飛び出したのは四本の蛇腹のような、変幻自在に動く腕――フレキシブルアームとでもいうような代物であった。

 その先端は二本と一本のかぎ爪が交差するようになっていて、それが巨人の身体に深々と食い込んでいる。そう簡単には外せそうにない。


「こいつ、格闘戦までこなすのか!? けど、あめえ!」


 竜矢は巨人モードを解除しようとする。

 エネルギー体である巨人の身体を幾ら拘束しようとも、一旦消してしまえば脱出は容易だ。

 だが、自分の後ろに気付いた竜矢にそれは出来なかった。


「しまった!! やられた……!!」


 巨人の背後には、パルフストの王都があったのだ。

 このまま攻撃を避ければ、あの強力なレーザーが王都を直撃することになる。

 そうなれば被害は恐ろしいものになるだろう。少なくとも、街が真っ二つに分断されることは間違いない。


(こいつ、やられながら位置関係を調整してやがったのか!)


 悔やんでももう遅い。

 迷い星の黒目から青白い閃光が放たれようとしている。その死の閃光が輝くよりも一瞬早く、竜矢のオリジナル魔術が完成した。


「『神魔を阻む異界の大盾おおだて』!!」


 巨人の眼前に、縦長で長方形の盾が出現した。

 ライオットシールドと呼ばれる盾に酷似している、赤い光の盾だ。大きさは巨人の身体を完全にカバーできる大きさだ。

 その盾に閃光が直撃した。


「ぐっ、ぬあああ!!」


 ギリギリで防いだものの、身体は拘束されて身動きが取れない。

 脱出は可能だが、そうするとパルフスト王都がやられてしまう。

 こうなるとレーザーが撃ち終わるか、盾が破壊されるかの我慢比べの様相を呈してきた。


「こ、な、くそ……!」

「リュウヤ! おのれ、レリーフよ!!」


 スーニアもレリーフの力を使う。少しでも竜矢の負担を減らそうと、障壁を盾よりも少し前に発生させた。

 だが、それはレーザーに押されて後退し、盾と重なってしまった。完全な力負けだ。


 ここで予想外のことが起きた。


 障壁とレリーフが融合するように混ざり合っていくではないか。


「何だ!? どうなってる!?」

「わ、わしにも分からぬ!」


 レーザーは防いでいるが、盾と障壁は融合を進めると、ついに一つとなった。

 その時、竜矢とスーニアのすぐ側で何者かの声がした。


『全ての封印解除条件を満たした事を確認しました。封印を解除します』


「だ、誰だっ!?」

「リュウヤ、レリーフじゃ! このレリーフが喋ったぞ!?」

「なにぃ!?」


 それまでいぶし銀のような色をしていたレリーフは、今は赤と金が混じった光を放ち、美しく輝いている。

 表面に描かれた複雑な紋様には、時折強い白い光が流れては消えていく。

 途轍もなく力強いエネルギーが、レリーフから迸るのが感じられた。


『封印解除に必要だったものは二つ。一つは大切な存在を守りたいと思う想念、意思、思考、心。それは私の力の源にもなる。もう一つは互いが互いを思いやり、大切に思う存在同士が力を合わせること……』


 今までこのレリーフは、術者一人でなら使われることは有った。

 大切な存在を守りたいと思って使われたことが大半だったが、複数で使われた事は無かったのだ。

 複数の術者が力を合わせる必要のあるロストパーツは、実はほとんど無い。

 元々大きな力を発揮するのがロストパーツなので、一人分の魔力でも十分に役に立っていたのだ。

 誰も気が付かなかったのも、無理も無い事だったのだ。


「守りたいもの……」

「わしの、大切な存在……」


 竜矢とスーニアの心にある、最も守りたいものとは。

 大切に思う存在とは。

 それは、いわずとも知れたお互い同士だ。


「……ははっ……、これがこのロストパーツの本当の力って訳か……」

「そのようじゃの……。のう、リュウヤ?」

「ん?」

「わしはの、今、とても幸せな気分じゃよ」

「奇遇だな、俺もだよ」


 二人は柔らかな笑顔を向け合う。

 スーニアが両方の手の平を上に向けて前に出すと、竜矢はその上に乗った。

 そして、二人の視線は今だに滅びと死の光を放つ迷い星に向けられる。


「ロストパーツ! お前の力、ありがたく使わせてもらうぞ!」

「わしの魔力をありったけくれてやるわ!」


『今、全ての条件は満たされた。私の力を存分に振るいなさい、守りたいものの為に。――我が名は――』


 巨人の身体が紅と黄金に光り輝いた。

 一瞬の後、その光が消えた後の巨人は全身に鎧を纏っていた。

 以前、竜矢が使った白甲冑に良く似た、紅と金の混じった色合いに輝く鎧だ。

 鎧は迷い星のレーザーを受けてもものともせず、巨人の身体を守っている。


『――我が名は、光の絆なり』


 その姿は、正に“守る者”に相応しい姿だった。



ね、眠い……w


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