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41話:地下室の攻防

大分間が空いてしまいました、申し訳ありません。

プライベートで時間が欲しい・・・orz



「むぅ……、今日の空は気味が悪いな……」


 竜矢たちが老魔術師との因縁の再会をしていた頃。

 パルフスト城内にある騎士団の訓練場で、近衛騎士団団長のダルスが空を見上げて呟いた。


「本当ですね。何と言うか、雲が渦巻いているような……」


 副団長のケインツが、その顔に不安を滲ませる。

 視線の先の空、パルフスト上空の雲は暗雲が立ち込め、それが台風のようにゆっくりと渦を巻いている。

 時折、渦の中心に紫電が走っているように見える事から雷雲のようだ。それが厚く連なっているのに、地上は晴天時と同じように明るいのだから不思議というよりも不気味といえよう。

 渦の中心の真下は、貴族や裕福な商人の高級住宅が立ち並ぶ辺りだ。それが更に不安を増加させる。


「落雷など無ければ良いのだがな」

「そうですね」


 訓練で流れた汗を拭きつつそんな事を話していると、後ろから少し焦り気味の声がかかった。


「ダルス、ここか! すぐに準備しろ、城下に出るぞ!」

「姫!? 何事ですか!?」


 声を掛けてきたのはラディナだった。

 その服装を見れば、ダルゼット討伐時に纏っていた多少華美ながらも動き易さや急所の保護に重きを置いた軍服である。手には二振りの愛剣が握られていて、物々しい雰囲気だ。

 その隣にはミルファルナが並び、後ろには二人の侍女たちが従っている。

 彼女たちの表情も硬く、何か事件が起きた事を思わせた。


「リュウヤ殿たちが例の魔術師たちを見つけたらしい。そいつらがシェリカをかどわかした可能性があると連絡が入った。我々も向かうぞ!」

「っ! 分かりました、全員集合!!」


 ダルスの号令に従い、熱の入った訓練を中断して騎士団の面々が流れるように集合し整列する。

 キドニアの騎士たちもその隣でミルファルナの前に整列し、その言葉に耳を傾ける。


「我がキドニアの騎士たちよ。今、ラディナ様の仰った通り火急の事態が起きました。祖国の危機を救って下さったリュウヤ様とスーニア様の御恩に報いる時です。貴方たちも同行し、リュウヤ様たちの手助けをしてあげて下さい」

「はっ!! 承知いたしました!!」


 騎士団の準備はさほど時間は掛からなかった。さすがに有事の際の行動は素早い。

 キドニアとパルフストの近衛騎士団はラディナを先頭に、屈強な軍馬に跨って城を飛び出していく。

 目指すはギルド支部長、バート・グランディ邸。

 その間にも、王都上空の不気味な暗雲はその大きさを増していた。






 竜矢たちと老魔術師たちが向かい合う地下室には、異様な光景が広がっていた。

 地下室の上半分を埋め尽くすように、彼らの頭上には無数の“腕”が蠢いているのだ。

 竜矢たちの頭上には赤い腕が。

 老魔術師たちの頭上には黒い腕が。

 それぞれ肘から切り落とされたような腕のみが、空中で互いを攻撃しあっているのだ。


 手の平を組み合って力比べをしている腕や、ひたすら拳をぶつけ合う腕、あるいは目まぐるしく飛び交い、腕の間をすり抜けながら攻撃をし続けている。

 その数、およそ二百。

 百の赤い腕と、百の黒い腕の戦いは、ほぼ互角の状況であった。


 黒い腕は『黒欲こくよくなる妙手みょうしゅ』という、老魔術師の邪神魔術によって作り出された物だ。

 この腕に攻撃をされると、呪詛を掛けられてしまう。体調不良程度の軽い呪詛から、酷ければ数秒で死に至るような呪詛まで自由自在である。


 対する赤い腕は竜矢のオリジナル魔術、『羅漢緋軍拳らかんひぐんけん』によるもの。

 羅漢とは仏教において、仏法の護持をする修行者のことと言われている。とあるカンフー映画から連想して創造した魔術だ。

 黒欲なる妙手の攻撃に対し、咄嗟に発動させた魔術だった。

 似たような能力の魔術で二人は互いを攻撃し、牽制しあっていた。


(リュウヤ、あの魔術師、以前よりも力を増しておらぬか?)


 シェリカとバートの拘束を解き、ゼウルたちと対峙していたスーニアが念話で竜矢に問う。

 老魔術師が竜矢と互角に渡り合っているのを見て、妙に思ったのだ。


(ああ、どうやらロストパーツや魔道具で力を底上げしてるみたいだな。それも複数使ってるようだ。長く生きてる分、道具の貯蔵は豊富らしいぜ)


 竜矢の忌々しげな念がスーニアに返る。

 一番の強敵であろう老魔術師は、彼が相手をする他ない。

 しかし、その力は予想を上回っていた。竜矢はまだ本気を出していないが、それは相手も同じだろう。

 両者の全力がぶつかり合えば、この地下室はおろか、周囲の家屋を巻き込んで甚大な被害を発生しかねない。

 その為、竜矢はこの拮抗した状況を維持するように力を抑えねばならなかった。

 それは余計な被害を出したくないという、彼の甘さともいえる優しさだ。

 だが、老魔術師にとっては好都合な事だった。


(ふぉっふぉっ、わしより力は上なのに、周りへの被害を考えて全力を出さんか。甘いのう……。しかし、見事にわしの黒欲なる妙手を抑えとる。どこぞで魔術の修行を積んだかのう? さほど時間は経っておらんのに、完全に魔力を制御しておる。自分で呼び出しておいてなんじゃが……恐ろしい小僧じゃわい)


 竜矢の読み通り、彼は複数のロストパーツや魔道具で自身の力をパワーアップしていた。

それでもなお、竜矢の方が圧倒的に強いことを彼は自覚している。

 老魔術師も必死なのだ。

 しかし、現状でのアドバンテージは彼の方にあった。


(次元の鍵水晶が発動するまでもう少しじゃが、ここで邪魔されては元も子もない。時間稼ぎをしてみるかの)


「やはり破撃の黒帝がわしの呼び出した小僧じゃったか。わしが召還しようとしてる物が何なのか知っておるか?」

「はあ? ジジイ、てめえ正体も分からないで召還しようとしてんのか」

「まあの。異界を覗き見るロストパーツで見ただけじゃからの」

「そうかよ、だったら止めときな。アレはお前が考えてるような代物じゃねーよ」

「そうかの? わしはアレから途轍もない力を感じたんじゃがのう」

「途轍もない力……?」


 竜矢はその言葉に眉をひそめる。

 老魔術師が召還しようとしているモノが自分の考えているモノなら、そんな力は無いはずだ。


(いや、アレには色々種類があるよな……? まさか……!)


「何をするつもりかは知らんが、要はあの水晶をどうにかすればいいんじゃろう……が!」


 竜矢が少し考え込むと同時に、スーニアが右腕を振るった。腕から放たれた十数本の黄金の刃線じんせんが鍵水晶に向かって飛来する。

 ゼウルがそれを防ぐべく、防御結界を発動した。


「邪魔はさせ……っ!?」


 だが、結界は容易く刃線に切り裂かれる。

 マナウルフィであるスーニアの力には対抗出来なかったのだ。


「くっ……!」


 直後、ヴィーラの両手の平と額にある禍々しい瞳が青く輝き、青い光の結界が出現して刃線に抵抗した。

 刃線の三分の一が結界と相殺して消滅するが、残りの刃線は水晶に向かっていく。


(終わりじゃ!)


 スーニアは水晶破壊を確信する。

 だが、それは三度阻まれた。


「ガンちゃん!」

「ヒィヨオオオォォォォッ!!」


 何処から現れたのか、いつの間にかネディスの隣に、全身を灰色の毛に覆われた牛に似た魔獣が出現していた。それが悲鳴のような雄叫びを上げると、またも結界が出現する。

 刃線は三重の防御結界によって、今度こそ完全に消滅してしまった。


「ぬぅ……!」


 スーニアは牛に似た魔獣を睨み付ける。

 あれはリィフィッカと呼ばれている魔獣だ。

 魔獣の中では珍しく草食で、性格は臆病で大人しい。加えてその肉は美味という事で知られている。

 これだけなら只の獣と変わらないが、強力な防御結界を張ることが出来るために魔獣のカテゴリーに加えられている。


 こと結界の防御力に限って言えば、数多くの魔獣の中でもトップクラスだ。狩ることが容易ではない為、その肉は超高級品として高値で取引されている。

 ガンちゃんと名付けたリィフィッカを撫でながら、妖艶に笑うネディス。


「お主……、その魔獣を何処から?」

「さあ? 何処からでしょうね~?」


 スーニアの言葉に、ネディスはおどけ気味に応える。

 ミルファルナを助けた時、彼女が地下神殿でジャロックと思われる魔獣の翼で逃げた光景を思い出す。


(あの魔獣、突然この空間に現れたようじゃった。この女、魔獣使いのようじゃがそれだけではないの)


 互いに警戒しての膠着状態。

 このままでは水晶が発動し、アレが召還されてしまうと判断した竜矢は力で捻じ伏せようと魔力を練り、高めていく。

 老人もそれを悟り、魔道具かロストパーツを使おうと身構える。

 それを止めるかのように言葉を放ったのはバートだった。


「水晶の発動はさせん……! 止まらぬ流れの動かぬことわり、反転せしめる逆巻きの螺旋よ! 『逆流ぎゃくながしの流輪りゅうりん』!」


 バートが呪文を唱え、魔術が発動する。

 ただし、魔術式の体外展開は行っていない。これでは魔術師として余程の実力を持っていない限り、大した魔術の行使は出来ないはずだ。

 だが、バートの右手は淡く黄色に光っている。魔術は問題無く発動をしたようだ。

 その右手が向いているのは、輝きを増しつつある鍵水晶。

 すると、水晶の輝きが急速に弱くなっていくではないか。

 それを見たゼウルが焦るように言った。


「魔力を地脈へ逆流させているのか!? 魔術式無しでどうやって!?」


 バートが使った逆流しの流輪は魔力を制御する魔術の一種で、単純にその流れを逆にするものだ。

 しかし、自然界に普遍的に存在する魔力は生物の体内にあるそれとは異なり、その流れを変えるなどの制御は至難の技である。

 例えるなら水だ。地表や海から蒸発した水分は雲となり、雨を降らせる。雨はまとまって川となり、川は海へと至る。この流れは不変のものだ。


 魔力も同じであり、水に含まれている魔力が勝手に別方向に移動することは無い。つまり自然界の魔力も、自然界の法則に則って動いているのだ。

 それを操るとなれば、魔術師として相応の力量が必要となる。一国の宮廷魔術師であるザルフルドやイーヴェンに匹敵する力が求められるのだ。


(奴の力はこれほどの物だったのか!?)


 バートを睨みつつ、内心でほぞを噛むゼウル。

 その心中を悟ったか、薄く笑いながらバートが言い放った。


「残念だが、私は魔術師としては平凡だよ。魔術式は既に描いておいたのさ……この屋敷の地下にな」

「地下だと……!?」

「お前たちが何をするにせよ、私が何も対策を取っていないと思っていたのか? 思い通りにはさせんよ!」


 自分を平凡だというバートだが、謙遜しているだけである。実際には地・水・風の三系統の魔術を扱えるエリートといえる術者だ。

 彼らが地脈から魔力を吸い上げて利用すると知った時、屋敷の地下と地脈の間に魔術で地中の小石を移動させて魔術式を構成させていたのだ。

 自然界の魔力を操るために通常の魔術式より段違いに規模が大きく、複雑な物だった事や、自分よりも強いと思われた老魔術師に気付かれないようにする為、十日以上の時間を掛けて少しずつ作り上げたのだった。


「ふぉっ、これはしてやられたのう」


 自然に口元が弧を描くバートだったが、さほど慌てた様子も無い老魔術師を見て笑みが消える。


(何だあの落ち着きようは? 奴め、何か切り札を持っているのか……?)


 バートの表情が硬くなる。

 相当な実力者らしい老魔術師を油断無く見つめ、魔力の逆流速度を徐々に上げていく。

 このまま上手くいけば、水晶の発動は阻止できる。


「やるではないか支部長。お主はわしが守ってやるから心配するな」

「ありがとうございます、魔神姫」


 バートの隣にはスーニアが立ち、いかなる攻撃も通すことを許さない。

 わずかに有ったアドバンテージは、竜矢たちに傾き始めている。

 そして、駄目押しのようなその変化に気付いたのはゼウルだった。


「っ! あ、あの女傭兵は何処に行った!?」


 その声に周りを見れば、スーニアに守られていたはずのシェリカの姿が消えているではないか。


「ふぉっ? 小娘がおらんじゃと?」


 老魔術師が声を上げた時、ボロボロの毛布を頭から被って身を隠していた者が、その背後に忍び寄っていた。

 シェリカである。

 地下室の隅に放置されていた毛布で身を包み、スーニアでさえ気付かなかったほどの見事な隠形おんぎょうの技を用いて密かに接近していたのだ。


 元々シェリカは潜入調査を得意とした傭兵である。だが、職種としては傭兵というよりも工作員やスパイ、あるいは忍者に近いだろう。

 盗賊の根城や邪教の神殿などに潜入するには自分の気配を消し、物陰や人間の心理的な死角を常に把握し、活用するスキル――隠形の技が求められる。

 彼女は傭兵としては駆け出しといえるが、同年代の傭兵仲間からは一目置かれる存在になっている。その理由がこの隠形の技にずば抜けた才を発揮したからだ。


 ある戦争に参加した際には、三日三晩の間、不眠不休で敵の要塞に忍び込んでの潜入調査を行った。その間一度も見つかること無く、無事脱出に成功。数多くの貴重な情報を見事持ち帰り、自軍を勝利に導く立役者となった。

 実はこの時の功績で彼女には二つ名が付いており、徐々に広まりつつあるのだ。


 『無影むえい』、または『無影のシェリカ』。

 これが、影すらも見せずに潜入し目的を遂行する彼女の二つ名だ。

 ただ、本人はまだ実力不足だと思っているので、この二つ名を自分で呼んだことは無いのだが。

 ともあれ、彼女はその隠形の技を持ってゼウルたちの目を掻い潜り、老魔術師をその射程圏内に納めたのだ。


「大教祖様! 後ろです!」

「気付くの遅すぎよっ!!」


 ヴィーラの叫びは一瞬遅く、毛布を跳ね除けたシェリカは老魔術師の首に腕を回して締め上げた。


「さあお爺さん、絞め殺されたくなかったら降参してもらいましょうか? 私としてはそれでも構いませんけどね……あなたは家族の仇なんですから!」


 シェリカの目には老魔術師への憎悪が宿っている。

 本当ならこのまま絞め殺してやりたいのが彼女の本音だ。しかし、この老人は竜矢が地球へ帰るための唯一の手掛かりを持つ人物でもある。

 シェリカは怒りに駆られていても、その事を忘れずに冷静に動いていた。


「ふぉっ、やるのう。正直見くびっておったわい」


 老魔術師はここに至ってもなお、余裕の表情を崩さない。

 一筋の冷たい悪寒が彼女の心を舐める。

 それは竜矢にも、気味の悪い感覚となって背筋を冷やした。


「っ!!」

「シェリカさん離れろっ!!」


 竜矢が叫ぶのとほぼ同時に、シェリカは老魔術師の体を離して飛び下がった。

 彼が纏う薄汚れた灰色のローブの背中、その部分に目を疑う光景が出現していた。

 ガチガチと音を鳴らし、忙しなく噛み合うのは無数の牙。

 その中心は妖しくピンク色に濡れ光る口腔と、先の尖った舌がぬらりと蠢いている。

 ローブの背中に、魔獣のように凶悪な牙を持つ口が現れていたのだ。


「いい勘しとるわい、もうちょっとで新鮮な娘の肉を食わせてやれると思うたんじゃが」

「な、何ですそれ……!」

「護身用の人造魔獣じゃ。可愛いじゃろ?」

「……とことん悪趣味ですねあなたは」


 愉快そうに言う老魔術師に、嫌悪の表情を隠すことが出来ないシェリカ。

 と、その顔に笑みが浮かんだ。


「でも、これは返してもらいましたからね!」


 そう言ったシェリカの手には、老魔術師に奪われたはずの眼鏡と髪飾りがあった。

 組み付いた一瞬の隙をついて彼の懐から取り返したのだ。


「ひょっ!? こりゃ驚いたのう……。いや、大したものじゃ。どうじゃ小娘、わしのモンにならんか? いい思いさせてやるぞい?」

「……ふざけた寝言は棺桶の中で言いやがれ、です」


 シェリカの意外な強さを気に入ったのか、いきなり勧誘を始める老魔術師。

 それに対し、爽やかに微笑みながら額に青筋を浮かべて吐き捨てるように言うシェリカだった。

 これが現代の地球人ならば、中指を立てて『Fuck you』とでも言っていたところだろう。

 老魔術師の拘束に失敗したシェリカは、飛び交う黒と赤の腕をすり抜けてスーニアの側へと戻った。


「無茶をするでない、シェリカよ。肝を冷やしたぞ」

「すみません、どうしてもこれだけは取り返したかったんで……」


 眼鏡と髪飾りを上着のポケットにしまいつつ、シェリカは頭を下げた。

 それをチラリと見た竜矢は鍵水晶に視線を移す。

 既に鍵水晶の光はかなり弱くなっており、発動は絶望的だ。

 それでも竜矢たちは不安を拭いきれないでいた。

 老魔術師がいまだに不敵な笑みを浮かべているからだ。


「……ふーむ、潮時かのう。ゼウル、そろそろおいとまするぞい」

「承知しました」


 老魔術師が言うやいなや、ゼウルたちが一斉に懐に手を伸ばす。

 竜矢たちに緊張が走る。

 取り出された彼らの手には、魔術式が刻まれた金属製の円盤が握られていた。

 円盤が光りだし、持ち主の体がその光に包まれていく。

 竜矢はその魔術式が転移の魔術式であり、転移の魔道具であることを即座に見抜いていた。


「トンズラなんかさせるかよっ!!」


 竜矢の体が弾かれたように動き、老魔術師に突っ込んで行った。

 弾丸と化した彼は、右の拳を握り締めると魔力を込めて強化する。

 その拳を容赦なく老魔術師の顔面に叩き込んだ。


「大教祖様っ!!」


 ゼウルの叫びを掻き消すように、巨大な金属の塊同士がぶつかり合ったような重々しい轟音が鳴り響く。

 激突した場所で、両者の動きは止まっている。

 竜矢の拳は老魔術師の顔に触れる紙一重のところで止められていた。

 拳の先で互いの魔力がせめぎあって火花を散らし、二人の身体を照らしている。


「七重の防御結界かよ……! 四つまではぶち抜いたのにな……!」

「一度に四つも貫いた時点で大したもんじゃよ。じゃが……お前なら一気にすべて破壊することも出来たはず。……迷いがでたのう?」

「……っ……!」


 竜矢の拳の先で、老魔術師の体が転移魔術によって薄れていく。


「ではの、また会おうぞ小僧。お前だけなら生き残れるじゃろうからな」

「俺だけは? どういう――」

「リュウヤッ! 水晶が変じゃぞ! 発動しておるっ!!」

「なにっ!?」


 スーニアの叫びに水晶を見た竜矢は驚きに眼を見張った。

 一度は輝きを失いつつあった鍵水晶が光を取り戻し、毒々しくも鮮やかな色とりどりの光を放っていたのだ。

 呆然と水晶を見つめるバートに声を飛ばす。


「支部長さん! どうなってんだ!?」

「わ、分かりません! 魔力は地脈へ流し続けています! 急に水晶の魔力が膨れ上がって、逆流が追いつかないんです!」

「まさか……! おいジジイ! てめえ、水晶を暴走させやがったな!?」


 角度的に竜矢たちからは見えなかったが、鍵水晶の陰に蜘蛛型のロストパーツがへばり付いていた。ダルゼットとルーデンのロストパーツを暴走させた物と同タイプの物だ。

 老魔術師はこれを、あらかじめ鍵水晶に取り付けておいたのだ。


「ふぉっふぉっ、ご名答じゃ。ああ、水晶は壊さんほうがいいぞ? この周りの高級住宅街が丸ごと異空間に吹き飛ばされるじゃろうからな」

「このっ……!」


 楽しそうに言う老魔術師に竜矢の拳が迫る。

 残り三つの結界を一気に突破すべく、力を込めていく。

 結界を一つ、破壊した。


「それからの、暴走とはいっても目標の召還に支障はないし、それが終われば鍵水晶は自壊する。あれは残念なことに使い捨てでのう。まぁ予想外の問題はあるかも知れんが、発動が終わるまで放っとくのが無難じゃな」


 結界を更に一つ破壊した。

 残り、一つ。


「出来れば間近で見物したかったんじゃがのう。まあ遠くからでも見やすいように色々弄くったでな、楽しみじゃわい」


 最後の結界に亀裂が入り、砕け散った。

 老魔術師を掴もうとした竜矢の手が、空を切る。

 一瞬、ほんの一瞬、わずかに間に合わなかったのだ。

 悔しさに歯を食い縛り、拳を握り締める竜矢の耳に、老魔術師の最後の声が届く。


「ではの、異世界の小僧。次に会うときは一思いにわしを殺す覚悟で来るんじゃぞ? ……ふぉっふぉっふぉっ……」

「クソッ……!!」


 無念さに震える竜矢の横で鍵水晶はその力を解放し、異界から迷い星を召還しようとしていた。



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