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4話:邪教徒

悪党には美女が似合うと思う。


「マナウルフィだと? 何を馬鹿な事を……」


 古の邪神・ルディヴァールを崇拝する邪教の教主ゼウルは、戻ってきた魔獣使いの報告を聞いて鼻で笑った。


 三十五歳になるゼウルは教主というには引き締まった身体をしており、渋い表情が似合い、上品な雰囲気を相手に与える紳士だ。


 社交界に出れば、浮き名をさぞかし多く流す事だろう。ただし、その心は邪教の教主などするだけあって欲と野望に満ちていた。


「本当なんですよ教主様! マナウルフィだけじゃありません、妖精までいました! そいつが私のビーストたちをあっという間に……!」


 そのゼウルに、簡易的に造られた教主用の部屋で魔獣使いの男は懸命に説明している。

 だが、ゼウルは耳を傾けようとしない。

 伝説の神獣に妖精。そんなものが急に現れたと言われても、信じる方がどうかしているだろう。


 潜り込んだ曲者を追い詰めたものの、返り討ちにあって魔獣を失ったという方がよほど信憑性がある。


「ギルヴァー、君はもっと有能だと思っていたのだがな。失敗したなら素直にそう言いたまえ」


「教主様信じて下さい! 私も魔獣使いの端くれです、見間違えるものですか! あの牛ほどもありそうな体に三本の尻尾! あの金色の獣は間違いなくマナウルフィです! 妖精もとんでもない速さで宙を飛び回り、ビーストたちを一撃で殺したんですよ!」

「ふむ……」


 いい加減ギルヴァーの言葉にうんざりしていた事もあるが、ゼウルは少しだけ考えてみた。

 仮にギルヴァーの言う事が本当だとしたら?

 結論はすぐに出た。


「分かった、信じよう」

「あ、ありがとうございます! そ、それでいかがいたしましょう?」

「何もせぬ」

「は?」


「考えてもみたまえ、神獣と妖精を同時に相手にするなど、人間に出来ると思うかね?」

「そ、それは……」

「だから何もせぬ。今は邪魔された儀式を完遂させる事が先決だ。速やかに儀式を再開し、ルディヴァール様に生け贄を捧げるのだ。その後ここを放棄し、新たな儀式場へと移動する。元よりそういう計画だったであろう?」


「は……はい、そうでした。しかし大丈夫でしょうか? 連中がここを襲って来たり、あるいは領主に知らせて兵士が来るかも……」

「他に仲間は見当たらなかったのだろう? いくら何でも、そんな少人数で奇襲を仕掛けて来るとは思えん。それに、ここから街までどれだけ離れていると思っている? 来る頃にはここはもぬけの空だ」


 ギルヴァーはなるほど、と頷いて尊敬の眼差しを教主に向けた。

 それに気分を良くしたゼウルは口元に笑みを浮かべる。もっとも、領主が絶対に動かない事を知っているからこその判断だ。


 この計画の全貌を知っているのは自分を含め数名しかいない。そして、失敗する事はまずあり得ない。

 ゼウルは何も心配していなかった。

 しかし、用心するに越した事はない。


「だが、急いだ方がいいのは確かだ……ヴィーラ!」

「はい、ここに」


 部屋の隅の暗がりから声がした。

 ぎょっとしたギルヴァーがそちらを見ると、一人の尼僧が闇から滲み出るように現れる。

 その黒い僧衣は、まるで闇そのものの様に衣擦れの音一つしない。


 闇に包まれているかのようなその尼僧は、服とは対照的に雪のような白い肌をしていた。

 彼女の透き通ったスカイブルーの瞳が、教主たちに向けられる。


 ただ、その顔には一切の感情が見られない。

 無機質にして無表情、それでいて見る者を陶酔させるような美女であった。


「全員祭壇前に集合しろと信徒達に伝えろ! その後お前の魔術で入り口を崩して塞ぐのだ、誰も入れないようにな! そして、すぐに儀式を再開する!」

「分かりました」


 滑るように部屋を出て行く尼僧を見送り、ゼウルは自分も部屋を出て行こうとする。

 と、何かを思い出したように足を止めて振り返った。


「そういえばギルヴァー、君の手持ちの魔獣はまだいたかね?」

「えっ? い、いえ……あの三匹だけです……。で、ですが、魔獣の子さえ調達すれば三ヶ月もあれば調教出来ます!」

「ふむ、三ヶ月か……」


 腕組みをしながらゼウルはギルヴァーに近づいていく。

 魔獣は普通の獣と違い、幼体から成体への成長が早いものが多い。弱肉強食の世界で生き残るには、子供だからこそ早く強くなる必要があるからだ。


 地球以上に過酷なこの世界の生態系は、魔獣にとっても厳しいものなのである。

 ギルヴァーが使っていたブラックビーストは比較的成長が早く、三ヶ月もあればほぼ成体となって十分使いものになる魔獣だ。


「それ位はかかるか……分かった」

「で、では、儀式が終わったらすぐに準備に取り……」


 そこまで言った時、ギルヴァーの声が消えた。

 不思議に思ったギルヴァーが首に手をやると、冷たく、固い感触がある。

 ゼウルの手に握られたナイフが、彼の喉に深く突き入れられていた。


「か……は、ひゅ……!」

「三ヶ月も待てると思うか。もういい、お前のような能無しはお役ご免だ」


 ゼウルがナイフから手を放すと、首に刺さったナイフを押さえたままギルヴァーの体が倒れていく。

 ギルヴァーは暫くもがいていたが、徐々に動きが鈍くなり、その動きを永遠に止めた。


「ゼウル様~? 準備が出来ましたよぉ~~?」


 開いたままの入り口から、ひょっこりと顔を出した尼僧がのんびりとした声を掛けてきた。垂れ目のおっとりとした感じの女性だ。先ほどのヴィーラとは違い、健康的な肌に艶やかな紅い唇が目立つ。


 妖艶な高級娼婦の様な雰囲気さえ漂わせる、豊満かつ整ったボディラインと色気を持つ尼僧だった。


「ネディスか」

「あらぁ? ギルヴァーさん、どうしちゃったんですかぁ?」

「魔獣を失った魔獣使いなど、居ても仕方がないからな」


「あら~、教主様もひどいですねぇ~、散々こき使っておきながら~」

「ふん、言っておれ」


 教祖という立場のゼウルに、ネディスは平気で無礼な言葉を吐く。

 慣れているのか、それとも立場的に近い身分なのか、ゼウルは特に咎めるような事はしなかった。


「まぁ、私の可愛い子たちが居ますから~、何かあっても大丈夫ですよ~」

「……だといいがな」


 ゼウルはギルヴァーの言葉を思い出す。

 伝説の神獣を従える、神話にしか登場しない妖精。

 本当にいるのだろうか?

 軽く頭を振って考えを掻き消すと、祭壇に向かって歩き出すのだった。




「偉大なる闇の創造主、永遠の暗黒を司るルディヴァールよ……。今宵、あなたに高貴な血を引く処女を捧げます。願わくば、我らに闇の加護を与えたまえ……!」


 地下神殿の広い空間に、無数の人影があった。

 皆、一様に黒いローブを目深に被り、その表情は分からない。

 壁に据え付けられた松明の光が、空間を妖しく照らし出していた。


 大きく造られたステージの様な場所に、不気味かつ大きな神像があった。邪神ルディヴァールの像である。


 邪神像に向かい、ゼウルは重々しい声で祈りの言葉を捧げていく。彼の両脇にはヴィーラとネディスが祭具を持って佇んでいた。

 神像の前には石造りの祭壇があり、その上に全裸の少女が寝かされている。


 年齢は十四歳前後だろうか。両手足を鎖で繋がれ、それは祭壇に繋がって固定されている。ショートカットの美しい金髪を乱れさせ、少女は眠っているように動かない。

 その肌は白磁の陶器のような艶を放ち、一種神秘的な美しさを放っていた。

 と、その目がゆっくりと開いていく。


「ん……え……?」

「目を覚ましてしまったか」


 ボーッとした顔で辺りを見回した少女は、邪神像を見て目を見開いた。

 これで頭がはっきりしたのか、自分を凝視する邪教徒たちに小さく悲鳴を上げ、更に裸である事が分かって大きな悲鳴を上げた。


「こ、これは、一体……! だ、誰か! 誰かいないのですか! シーナ!! ボアズ!!」


 自分を守ってくれている筈の人物を呼ぶが、その必死な声に応える者はない。

 恐怖によって蒼白になった彼女に、ゼウルがゆっくりと歩み寄る。


「無駄ですよ、此処にはあなたの知り合いはいません」

「だ、誰ですかあなたは……っ! わ、私にこんな事をして……!」


「光栄に思いなさい。あなたは我らが神、ルディヴァール様への捧げ物として選ばれたのです。あなたの魂はルディヴァール様の元で、永遠の快楽と幸福を手に入れるのです……。何、痛みを感じるのは少しの間ですよ、心臓を取り出すだけですから」

「いっ……いや、いやです、いやぁ……! だ、誰か! 誰か助けてぇっ!!」


 少女の悲鳴と、鎖の金属音が神殿に響く。

 それを心地よく感じながら、ゼウルはネディスの持っていた祭具――黒い刃の、奇妙に波打ったナイフ――を取り、泣き叫ぶ少女に向き直る。


「ひっ……、や……やめ……! いや……!」


 その表情を楽しむように、ナイフがゆっくりと少女の上で持ち上げられた。






「シェリカさん、こっちの方で間違いない?」

「はい! ……あっ、あそこです! あの遺跡です!」

「……ふん、腐れた霊気が臭ってくるわ」


 森の上を飛ぶように疾駆するスーニアの鼻が、汚れた霊気を嗅ぎ取り鼻を鳴らす。

 竜矢たちはシェリカの案内で、件の地下神殿跡にやって来たのだが……。


「……そんな……!」

「……塞がっちまってるな」


 神殿は小高い山の地下をくり抜くようにして造られている。その入り口は山の崖になった側面にあった。

 小型のバスが通れそうな大きさのそれは、落石でもあったように崩れた岩で塞がってしまっていた。


「私が入った時には何ともなかったのに……!」

「……魔力の残滓を感じるのう、強力な魔術を使って崩したんじゃろう」


 それは、敵の中に魔術師がいるという事だ。破壊の規模から判断して、かなり上位の実力を持つ者が。


 戦闘において、魔術師の存在は大きな意味を持つ。不利な状況でも魔術師の一撃で形勢逆転! などは何ら珍しい事ではない。

 魔術師に気を付けなければならないのは当然だが、それ以前にどうやって入るかが問題となってしまった。


「ど、どうしましょう……」


 シェリカは困り切った顔でリュウヤたちを見る。

 竜矢はスーニアの頭から飛び降りると、崩れた岩に近寄って深く息を吐く。


「あの、リュウヤさん? 何を……」

「ぶち破る」


 森に、轟音が響いた。






「な、何だ!?」

「じっ地震か!?」


 神殿の中に大きな破壊音が轟き、振動で天井から小さな石の破片やホコリが落下してくる。教徒たちの悲鳴が上がる中、ゼウルは大声で落ち着くように促した。


「落ち着け! 落ち着くのだ! 我らにはルディヴァール様の加護がある!!」


 時間にすればものの数秒で振動も治まり、神殿内は再び静寂を取り戻した。

 まだざわめいている者たちに向け、ゼウルは再び声を張り上げる。


「これこそ正にルディヴァール様のご加護なり! さあ生け贄を捧げよう!」


 ゼウルは取り落としたナイフを拾い上げると、再び少女の胸の上に翳す。

 祭壇上の少女はナイフを凝視し、もはや声も出せずに震える事しか出来なかった。



そして正義の味方ヒーローには、美少女が似合うと思う。

いやまあ、私の個人的趣味ですけどねw


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