38話:虜となった者たち
ちょっと短いですorz
書く時間が平日だと一時間くらいしか取れないのが辛いところです。
「サカザインさん、マナウルさん、ありがとうございました!」
ギルドへ戻った二人に、メリアが礼を言ってくる。
それを手で制しつつ、竜矢は懐から支部長からの手紙取り出し、手渡した。
「あー、礼なんかいいですよ、図々しい偽者をぶちのめしただけなんですから。それより、支部長さんから呼ばれましてね。自分らが来たって伝えてもらえませんか?」
「はい! 少々お待ち下さい」
メリアがギルドの奥へと消えていく。
そのまま受付前で待つ二人を、傭兵たちが遠巻きに眺めては色々と話している。
「二人ともすげえ強さだな」
「一ヶ月で二つ名を手に入れるなんて眉唾だったけどよ、噂は本当だったみたいだな……」
「黒帝は何で顔を隠してるんだろうな? 傷があるとかか?」
「そんなとこじゃねーか。あれだけの強さを手に入れるにゃ、相当な修羅場を潜り抜けたんだろうよ」
ほとんどが褒め言葉的なものなので腹が立ったりはしないが、竜矢は背中がむず痒くてしょうがない。
おまけに、その周囲に見せ付けるような事をスーニアがやっているので、それに拍車が掛かっていた。
竜矢の左手にスーニアがしがみ付き、嬉しそうに顔を摺り寄せているのだ。
「……あのう、スーニアさん? 左手に顔をスリスリするのをやめて頂きたいのですが……」
「嫌じゃ」
「即答かよ」
溜め息をつきながらスーニアを見た竜矢が固まった。
「聞こえておったぞ? 『だが許さん。俺の事はともかく、スーニアの事をグチャグチャ抜かしたのが運の尽きだ』。……わしの事で怒ってくれたな、嬉しいぞ、我が主よ」
「そーいう恥ずかしい事を堂々と……」
ただでさえ超が付くほどの美少女がほんのりと頬を赤く染め、潤んだ瞳で竜矢を見上げ、見詰めている。
竜矢とて悪い気はしない、しないのだが人前では勘弁してもらいたい。
周りの男たちが、その神秘的にすら思える愛らしさに軒並み見惚れてしまっているではないか。
「やべえ、魔神姫可愛い過ぎるだろ……」
「守る必要なんて無いんだろうけど……、守ってあげたくなるな……!」
「彼女は子供、彼女は子供、彼女は子供、彼女は子供……お、俺はロリコンじゃない……しっかりしろ、俺!」
そんな声にスーニアは後ろを振り返り、小悪魔じみた微笑とともにウインクした。
魅惑的なゴスロリ衣装の力と相まって、犠牲者は多数。
「ぐはっ! こ、これが噂に聞いた、“萌え”というものなのか!?」
「ふ、踏まれたいっ……! あの小さな足に踏まれて罵られたいっ……!」
「お、俺、熟女が好みだった筈なのに……! このトキメキは何? 恋? これが恋?」
「もういい、ロリコンと呼ばれても……!」
後に、この事が切っ掛けとなってパルフストに『金色の魔神姫・スーニア様ファンクラブ』総本部が設立されるのだが、当の本人には知る由も無かったりする。
ギルドの中が異様なピンク空間に包まれる中、メリアが困惑した表情で受付に戻ってきた。
ホールの雰囲気に首を傾げるも、竜矢たちに向かって口を開く。
「すみません、支部長はまだ出勤して来ていないようで……」
「来ていない……? 休みですか?」
「いえ、今日は支部長の休日ではありません。普段なら誰よりも早く来ていますし、支部長に就任して以来、無遅刻無欠勤な方なんですよ。連絡もありませんし……初めてですよこんな事は」
メリアは少し心配しているようだ。
竜矢とスーニアが顔を見合わせる。
二人の胸中に、何とも言えぬモヤモヤした物が絡みついた。
「どう思う? スーニア」
「……あの手紙を届けてくれと頼んだ翌日に休むというのは、少々タイミングが良すぎやしないかのう?」
「……だよなぁ」
「あ、もしかしたら、もうすぐ来るかも知れませんよ? 良ければ応接室でお待ちになりますか?」
「ん~どうすっかな……」
メリアの言葉に、頭を掻きながら竜矢は考え込んだ。
「んふ~♪ ここのお菓子本当においし~♪ 支部長さんに感謝しなくちゃ」
竜矢とスーニアがギルドで少女趣味な男たちを量産していた頃。
バートに教えてもらった店で、お茶とお菓子を堪能するシェリカの姿があった。
サーモグラフ眼鏡と髪飾りを装備して、赤いロングヘアーに髪型を変化させて変装も万全である。
今日は竜矢たちがギルドに行く事になったので、城への差し入れはお休みである。
久し振りに休日を堪能している訳だ。
まだ午前中だというのに、店の中は客席の七割が埋まっている。順調に繁盛しているようだ。
今頃リュウヤさんたちは支部長さんとお話中かなー、等と考えながらお茶を飲んでいる彼女に、近づく者たちがいた。
「失礼、相席よろしいですかな?」
「はい?」
横に立った人物を見つめれば、バートと同年齢くらいと思われる男が立っていた。
その後ろに、若い肉感的な女性を伴っている。
「ああ、良いですよ~。私はもうすぐ食べ終わりますので」
「すみませんね~。でも、急がなくて良いですよ~」
向かいに座った二人を見て、シェリカは何処かで見たような気がした。
「ええ、急がなくて良いですよ。……私たちは貴女に用があるのでね」
「え?」
二人の放つ雰囲気が、急に変化した。
肉食獣が獲物を前にして舌なめずりする様な、おぞましさすら感じる寒気がシェリカを襲う。
しかし、シェリカとてそれなりの修羅場を潜り抜けて来た傭兵だ。咄嗟に椅子を飛ばしつつ背後に飛び下がり、距離をとった。
「誰ですか貴方たち……!」
この二人はマズイ。
傭兵としての経験が最大音量で警告を発している。
見た目は普通の一般人。だが、それが返って不気味さと危うさを際立たせていた。
だが、まさかこんな人の多い所で何かを仕掛けてくるとは思えない。ならば、自身の警告に従って逃げるのが最善。
シェリカはそう判断し、逃走経路を探るため、素早く周りに目をやった。
その顔が驚きに染まる。
「なっ……!」
店の中にいた客たちが全員立ち上がり、虚ろな目でシェリカを見つめていたのだ。
客だけではなく、店の店員までも同じ状況になっている。
次の瞬間、彼らが一斉にシェリカに襲い掛かり、体を抑え、口を塞いだ。
「逃がしませんよ~? 貴女には、あの御方の所に来てもらうんですから。では、しばしお休みなさ~い♪」
「ムゥッ!ムグゥッ……!」
女の手がシェリカの目を隠すように触れる。
その暗闇に呑まれるように、彼女の意識も遠のいていった。




