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33話:嘘を見抜く目

32話が大分短いので、早めに投稿します。

嵐の前の静けさ、でしょうか。

「落ち着かれましたか?」

「はうぅ、怖かったです……お嫁にいけなくなるかと思いました……」


 詰め寄る暑苦しい連中から逃れ、ギルドの三階にある応接室に保護されたシェリカは涙目で安堵の溜め息をついていた。


「はは、何と言うか……災難でしたね」


 目の前には、ここのギルド支部長である男性、バート・グランディが気の毒そうな笑みを浮かべてシェリカを見つめている。

 バートは三十代前半の、温厚そうな紳士だ。金髪をオールバックに固め、ギルドの制服に身を固めた姿はとても似合っている。きっと女性職員たちに狙われているんだろうなー、とシェリカは思う。


「それで、委任状を確認させてもらいましたが、あなたが今日こちらに来たのは、サカザインさんとマナウルさんが出している捜索依頼の、調査状況の確認ですね?」

「はい」


 ゴタゴタで忘れそうになっていたが、そもそもシェリカがギルドに来たのは、竜矢たちがギルドに依頼している例の老魔術師の捜索状況がどうなっているかを聞きに来たのだ。


 この世界にも郵便システムは存在する。依頼したのが普通の人間なら、その住居に書状を送ればいいだけだ。重要なものなら、魔術を使った伝達方法が幾つかある、それを使えばいい。

 だが、当然だが今の竜矢たちは存在をおおやけには出来ない。故にシェリカに頼んだのだ。

 バートは書類をめくりながらそれに答える。


「残念ながら、調査はまるで進んでいないのが現状です。何しろ分かっているのが人相、風体、老人で魔術師、あとは邪教徒の可能性があるという事だけで、手掛かりが少なく……」

「そうですか……。追加情報として送られた筈ですが、仲間と思われる三人の邪教徒についてはどうですか?」


 竜矢はラディナに頼み、ゼウルたちの情報をギルドに送ってもらっていた。

 こちらの返事も芳しくない。


「中年の男一人、若い女二人でしたね、そちらも情報は皆無です。正直、我がギルドの情報網にここまで引っ掛からないとなると、他国に逃れて潜伏しているかも知れませんね」


 バートの言葉にはある含みがある。

 ギルドは国の管理を外れた独立組織だが、何処の国にも味方をしない、中立の組織でもある。

 戦乱の時代でもあり、各国の情報を無闇に広げることは国に目を付けられ、その国の支部を潰されてしまう事にもなりかねない。


 ギルドはあくまでも民間の組織であり、何処の国であれギルドそのものが敵対するような行動は慎んでいる。

 つまり、各国の深部や暗部にひそまれてしまっては、ギルドに打つ手はないという事。

 バートの言葉には、探している老魔術師たちが、何処かの国の重要な位置にいる人物だという可能性をほのめかしているのだ。


 もっとも、傭兵や冒険者たちが自己責任で、他国へのスパイ活動や戦争に参加するのは話が別である。ギルドは仕事の仲介だけで、依頼内容が殺人などの犯罪行為でない限り関与はしないのだ。

 シェリカも自らを傭兵と名乗る者たちの端くれだ。彼の含みを読み取り、眉を顰めた。


「そうなると、これ以上捜査の手を伸ばすという事は……」

「何処かの国を相手にする危険性が出てきますね」


 こうなると、ギルドとしては表立って動くことは出来ない。

 手が無い訳ではない。

 ギルドに登録している者たちの中には、情報収集活動を主に引き受けている者もいる。シェリカもそういった調査的な仕事が得意な方だ。

 そんな者たちに、老魔術師たちが潜んでいそうな国へ、片っ端から内部調査を依頼するのだ。


 しかし、これは凶暴な魔獣を相手にするより、ある意味難しいだろう。

 敵地のど真ん中に忍び込んで調査をするのだ、周りはすべて敵だらけである。

 それに、依頼料もその危険度に応じた高額なものに跳ね上がってしまう。一介の冒険者がそう簡単に出せる依頼ではないだろう。

 もっとも、この依頼を出している二人は色んな意味で規格外なので、一般常識は当てはまらないのだが。


「なるほど……。分かりました、その事をリュウ、さん達に伝えます」


 一瞬、リュウヤと呼ぼうとしてしまった。

 誤魔化すように、シェリカは席を立とうとする。

 それを止めるように、バートが声を掛けた。


「あ、少しよろしいですか?」

「はい?」

「もし不都合であれば答えなくてもよろしいのですが……。もしや黒帝と魔神姫のお二人は、今は王城に滞在していらっしゃるのでしょうか?」

「え? えと……」


 シェリカの心臓が高鳴る。

 いきなり何を言い出すのだこの人は、教える訳にはいかないというのに。


「ああ、いえね、あの二人は経歴・素性が一切不明の上に超が付くほどの実力者。ギルドにも毎日のように、問い合わせが多く届いてまして……。ここ最近、活動している様子が無かった事。そこへ追加情報の邪教徒三人について、書状を持って来たのが近衛騎士の方だったもので」

「近衛騎士が……あ、あはは……」


 それでは、あの二人が城にいると教えている様なものである。

 もう少しどうにかならなかったのだろうか。


「これは私の推測ですが、二人はあの謀反事件に関わっていたのではないですか? そして、事態の解決に一役買った……。そのまま何らかの理由で王城に滞在している……」

「え、ええっと……」(す、鋭い……)


 ギルドの支部長を務めるだけあり、洞察力はかなり高いようだ。

 シェリカはクロフォード王から直々に、レグリオス王からは書状でリュウヤたちについて口外しないよう命令されている。

 同時にリュウヤたちを二国に繋ぎ止める役を、正式な依頼として引き受けていた。必要経費込みで、一般人の月収約三ヶ月分という高額な報酬が毎月支払われる事になっている。


 といっても、やってる事は名物料理や新作お菓子を二人に持参する事ぐらいなのだが。

 そう、城への訪問は、王たちからの依頼の一環でもあったのだ。

 シェリカは謀反事件解決後、竜矢たちは英雄として扱われるだろうと予想していた。

 そうなれば協力したとはいえ、自分は一傭兵に過ぎない。二人と分かれる事を覚悟していた。


 だが、出来ることなら交友を続けて行きたいと望んでいた彼女は、この依頼を渡りに船とばかりに引き受けたのだ。

 バートの言葉に、シェリカはクロフォードから発行された、直筆の特別入城許可証を入れた上着の内ポケットを思わず上から押さえてしまう。

 それを見透かすような瞳で、バートは彼女を見つめ続ける。

 その目からは、感情が読み取れない。

 彼の顔から、いつの間にか笑みが消えていた。


「あの二人は、ギルドに登録してから二つ名を得るまで、わずか一ヶ月という超最短記録を打ち立てました。通常では考えられない事です。二つ名とは冒険者や傭兵、あるいは武術家や軍略家として活躍していくうちに、自然と呼ばれるようになるものです。どんなに早くても、数年は掛かるのが普通、それを……」

「す、凄いですねー」


「受ける依頼も、一日に数件は当たり前、多い時には十件の依頼を一日で完遂。そんなハイペースで依頼をこなしているのに、依頼達成率は何と百パーセント」

「す、凄ーい、ですねー」


「それだけの実力があれば、あの謀反事件でも相当な活躍ができたでしょう。ちょうどその頃から、二人の消息がぷっつりと途絶えてしまっています。そして、あの噂……」


 バートはそこで言葉を一旦区切る。

 まるで、剣で切りかかる直前の溜めをするかのように。


「う……噂?」

「妖精と神獣」


 棒読みの返事しか出来なかったシェリカは、引き攣った笑みしか返せなくなった。

 竜矢たちの噂は、今でも収束することなく広く流れている。まだ当分の間は街の住人たちの口に上り続けるだろう。


「黒帝は素顔はおろか、肌を見た者すらいない。あの包帯の下がどうなっているのか、誰も知らない(・・・・・・)。魔神姫は……神獣が人間の姿をとる民話があるんです、ご存知ですか? ……色々な事が、あまりにもタイミングよく重なっていますので……。もしかしたらあの二人が……と想像してしまいまして」


 背中に冷や汗をダラダラ流しながら、どうやって言い逃れようかと必死で考える。

 が、急にバートの顔に笑みが戻り、明るい口調になった。


「はっはっは! いやいや、下らない妄想を語ってしまいましたね。お引止めして申し訳ありませんでした」

「え、……え?」

「私は支部長という仕事をしていますが、趣味であちこちの伝説や民話を集めてまして。もしも妖精や神獣が今のこの世界に現れるとしたら、どうするだろう? とか考えている所にあの噂を耳にして妄想が膨らんでしまいましてね。どうでしょう、私、実は作家の才能があったりしませんかね?」


「は……え、ええ! あ、あると思いますよぉ! 面白かったです! そ、それじゃあ、私はこれで!」

「はい、サカザインさんとマナウルさんによろしくお伝えください。ああ、出るなら裏口からの方がいいですよ、あなたの事を待ち構えている人たちがいるみたいですから、ホラ……」


 バートはシェリカを促して窓からギルド前の道を見せる。そこには金髪美女のパーティや、横方向に巨体の商人がギルド入り口前でウロウロしているではないか。


 泣きそうな顔で愛想笑いを浮かべつつ、逃げるように退出したシェリカだった。


「……まぁ、彼女なら大丈夫かな。潜入調査が得意のようだし、逃げ足も速いだろう」


 苦笑しつつ、バートはシェリカの身を少しだけ案じた。

 その顔からまた笑みが消え、誰に聞こえるともなく呟きがもれる。


「……しかし、嘘をつくのは下手だな。顔に出過ぎで丸分かりだ。……さて、どうするか……」


 その仮面を被ったような表情からは、内心を読み取ることは出来なかった。



評価等していただけると、ありがたいです。

読んでくれたんだなぁと実感が沸いてきて、嬉しくて励みになります。


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