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3話:異世界から来た小さな勇者

主人公の力の一端が見られます。既にチートw



「あ~、まあいいや、無理もねーし。んで、何がどうなってるんだ?」

「この娘が邪教徒に追われておるそうじゃ」


 マナウルフィがシェリカに向かって、顎をしゃくるような仕草をした。

 妙に人間くさい神獣である。


「はぁん。で、こいつらはその手先と。……助けられそうか?」

「残念じゃが……。脳の髄まで薬でやられておるよ」

「そっか……。恨みはないが、せめて痛みを感じる間もなく逝かせてやる」

「リュウヤ、わしが……」


 マナウルフィが立ち上がろうとしたが、リュウヤはをそれを言葉で止めた。


「いいって、お前が獣を殺したくないのは分かってるさ」

「……すまぬ」

「気にすんな。ほんじゃ、行くぜえっ!」


 言うやいなや、リュウヤと呼ばれた妖精サイズの男はマナウルフィの体から地面に飛び降りる。

 そして、姿が消えた。


「えっ!?」

「うぉりゃあ!」


 声は頭の上から聞こえてきた。

 見れば、遥か樹上から男がブラックビーストの一匹に向けて落下している所だった。

 あの体で信じられないジャンプ力だ。

 その足が、最後までリュウヤに気付かなかったビーストの脳天に炸裂する。


「ギャィッ……!」


 ドゴン! と腹の底に響く音がした。

 ビーストの頭は蹴りの衝撃で完全に地に埋まり、足を痙攣させている。

 が、その痙攣もすぐに治まり、息の根が止まった事が分かった。


 凄まじいパワーである。

 シェリカがあっけに取られたのも束の間、再びリュウヤがジャンプする。

 木々を蹴り、地を跳ね、雷光の様に森の中をリュウヤの体が縦横無尽に飛び回る。


 強力なボウガンから放たれた矢よりも速いだろう。目にも止まらぬ速さとは正にこの事だ。単に跳躍しているのではなく、空中でも急激な方向転換をしている事から、確かに空を飛んでいる。


 この世界には空を飛ぶ魔術が有るが、こんな高速・高機動のものではない。

 大人一人を二階の屋根の上まで上昇させ、蝶ぐらいのゆっくりとした速度で進むのがやっとという代物だ。


 飛行と言うより、浮遊に近いだろう。

 初めて見る常識を覆した“超”飛行魔術に、シェリカは声も出ない。


 二匹目のビーストの首筋に、弾丸と化した彼の拳が突き刺さる!

 パギン! と、乾いた音がした。ビーストの首の骨が折れた音だ。

 三匹目には身構える暇すら与えず、その首筋に高速の跳び蹴りを見舞うとまた骨が折れる音が森に響いた。


 わずか数秒の間に、残る二匹のビーストも呻き声一つ上げる事もできずに絶命したのだった。


「フゥ……ごめんな、迷わず成仏してくれ」


 リュウヤが両手を顔の前で合わせ、目をつぶった。

 冥福を祈るかのように。

 これもシェリカには驚きだった。


 一部の例外を除き、魔獣とは人間の天敵だ。殺さなければ、こちらが殺される。

 魔獣が人間に情けをかけたりしないように、人間もかけたりはしない。

 この世界において、人間は生態系の頂点に立ってはいないのだ。

 まして冥福を祈るなど、見たことも聞いたことも無かった。


「片づいたかな?」

「いや、こ奴らを操っておった魔獣使いが……ふん、逃げよったわ」


 マナウルフィがリュウヤの呟きに答える。

 ビースト達を操っていた魔獣使いは逃走したようだ、遠くから戦いを眺めていたのだろう。


 もっとも、マナウルフィを相手にしようなどと考える者はそうはいないだろう。伝説でも、愚かな王が生け捕りにしようとして怒りを買い、天変地異を起こされて国を滅ぼされた、などという話がいくらでもある。


「やれやれ、か。……で、君はどちらさん?」

「はひっ!?」


 呆けていたシェリカは急に聞かれて頭が真っ白になる。

 この短時間で並の傭兵がする何倍も濃い体験をしたのだから無理もない。しかし、助けてもらったお礼だけは言おうと、うまく動かない舌を懸命に動かそうとする。


「わ、わらしはシェリカ・ウォーレンと言いまひて、しがない傭兵でございまふ! こ、この度は命をたふけていたらき、ま、真にありがたうございまふ!」

「気持ちと言いたいことは分かったから、とりあえずちょいと落ち着いてみようか」


 苦笑しつつ、リュウヤはシェリカの前にトコトコとやって来る。

 と、ピョンッとシェリカに向かってジャンプした

 慌てて出したシェリカの手のひらに飛び乗って、妖精のような少年は笑いながら言った。


「俺の名前は竜矢。坂崎竜矢さかざき りゅうや。体のサイズは違ってるが、れっきとした人間だ」

「あ、えと、私はシェリカ・ウォーレン……傭兵やってます……。あの、本当に人間なんですか?」


「ああ。……まぁ、ぶっちゃけちまうと、俺はこの世界の人間じゃないけどな」

「……はい?」

「待てリュウヤ、それは……」


 マナウルフィが少々慌てたように口を挟んできた。わずかに心配が混じった声に、笑いながらリュウヤは答える。


「大丈夫だろ。知ったからって何か出来る訳でもないし」

「奴と関わりを持つ者だったら?」

「それなら逆に好都合さ。奴を誘い出して、叩きのめして、元の世界に戻る方法を吐かせてやる」

「……『慎重』とか『細心』とかの言葉の意味、知っておるか?」


「失礼な。ま、俺がこうやってのほほんとしてられるのも、お前が側に居てくれるからだけどな。頼りにしてるぜスーニア」

「っ……。そんな風に言われたら何も言い返せんではないか。まったく、我が主はお調子者じゃ」


 一瞬言葉に詰まったマナウルフィは、ぷいっとそっぽを向いてブツブツ言っている。

 まるで人間の娘が拗ねるような仕草に、シェリカは呆然と目を奪われていた。


「はっはっは、誉め言葉として受け取っておこう。あ、スーニアってのはこいつの名前、見たまんまのマナウルフィだ。ちなみに女の子ね」

「よろしくな、シェリカよ」


「は、はいっ、こ、こちらこそ……」

「あー……まぁ、話せば長くなるんだが、俺は異世界から来た人間なんだよ、うん」

「異世界……」


 シェリカは神殿の神官から聞いた、この世界の創世神話を思い出した。

 神話では、人間の文明が発展するにつれ、神々に匹敵する力を手に入れるのではないかと危惧した創造神・バルアハガンが文明ごとに世界を分断し、行き来を出来なくした。


 それぞれの世界は独自に発展を続け、この世界とは違う異世界となり、自分たちとは違う人間が生活しているのだと神話には記されている。

 シェリカは、彼はそのいずれかの世界からやって来たと解釈した。


「お、驚きです……。はっ、もしかしたら……! あなたは異世界から来た小さな勇者様では!?」

「は!? 勇者ぁ!?」


 竜矢が素っ頓狂な声を上げた。お茶でも飲んでいたら、間違いなく盛大に吹き出していた事だろう。


「きっとそうです! 今、この大陸ではあちこちで戦が起こり、大国同士が覇権をかけて争っています! あなたはきっと、この戦乱を鎮めるべく神が遣わした勇者様に違いありません!」


「ちょっとお待ち下さいなお嬢さん! 何でそうなる! 確かに腕っ節には少々自信あるけど、俺はそんな大層なもんじゃない!」

「何を言ってるんですか! 伝説の神獣であるマナウルフィを従えてるんですよ!? もの凄い大層な者じゃないですか!」


 冷や汗を流しながら竜矢は賢明に否定するが、目を輝かせて自分を見つめるシェリカに少々気圧され気味だ。


「ふむ、それは言えておるの。リュウヤはわしが認めた唯一の人間、唯一の主じゃ」


 更にスーニアが口を挟む。その口調は真剣ではあるが、何処となく笑いを堪えてるような気配も含まれている。


「ほらやっぱり!」

「スーニア! ちったあフォローしろ!」


「我が主が戦乱を鎮める救世主か、悪くない話じゃ。いや、むしろそれ位でなくてはわしも尽くし甲斐が無いというものよ」

「お前、絶対面白がってるだろ。……あーもう、とにかく場所変えるぞ! さっき逃げた魔獣使いが仲間を連れて戻ってくるかも知れないから!」


 ピョン、と竜矢はシェリカの手のひらから、スーニアの頭の上へと飛び移った。


「そうじゃの。ほれ、シェリカよ、何をしておる。お前もわしの背に乗れ」

「えっ!? い、良いんですか!?」


「いいから乗りなって。人間の足じゃマナウルフィに追いつけないよ。あ、その前に焚き火に土をかけて消しておいてくれるかな? 火事になったら大変だから」

「はっ、はい!」


 竜矢に言われ、シェリカは焚き火に土をたっぷりかけて消火する。

 そして、おっかなびっくりといった風にスーニアの背に乗った。


「良いか? では行くぞ、しっかり掴まっておれ」

「はい! えっ……ひにゃああぁぁぁーっ!?」


 スーニアが軽く地を蹴ると、一瞬にして生い茂る木々の上へと飛び出した。

 頭上に輝く地球よりも大きな月は、鮮やかな銀色をしている。その月光を反射して、スーニアの体が淡く光る。


 そのまま木々の先端を跳躍し、金色の軌跡を残しながら軽やかに森の上を走り出すのだった。夢の中のような幻想的な光景を、シェリカは呆然と眺める。


「……す、凄い……! 空を飛んでるみたい……!」

「だなぁ、俺も最初は面食らったよ」


 シェリカの声に、竜矢が毛の中から顔だけ出して言った。


「ひとまず、森の外れまで行こうかの?」

「そうだな。そこでシェリカさんを降ろすか……それでいいかな?」

「あ、はい! で、でも……」


「ん?」

「た、助けてもらったのに、何もお礼をしない訳にはいきません! よ、よろしければ、私の泊まってる宿屋に来ませんか?」


 何といっても命の恩人である。お礼をしなければ、と思ったのは本当だ。

 だが、シェリカには別の思いもあった。

 この出会いをすぐに終わらせたくないと。


 何か、大きな変化が自分にやって来ているのではないかと、そう思えたのだ。

 これほど強烈な体験は、自称ベテラン傭兵の嘘が半分混じった自慢話でも聞いた事は無い。シェリカがそんな風に思ったのも、無理もない事だった。


「……いいのかい?」

「勿論ですよ! 少し離れてますけど、ネクロイアの街にありますから、ぜひ!!」

「……そこ、風呂ある?」

「お風呂ですか? ありますよ!」


「よし世話になる! いや~、ここ最近風呂入ってなくて、そろそろ恋しくなってたんだ。やっぱり日本人には風呂だよなぁ」

「ニホンジン?」


 聞いた事のない単語について、シェリカが聞いた。


「ん、ああ。俺の故郷は『ニホン』って名前の国でね。ニホンジンは風呂好きなんだ。いや~楽しみだな~」

「へぇ……」


 ニカッと笑いながら竜矢は答える。

 嬉しそうに笑うのを見て、本当にお風呂が好きなんだなぁ、とシェリカは思う。


「その気になれば、どんな器でも風呂になるだろうに」


 スーニアが少々呆れたように言った。

 確かに竜矢のサイズなら、小さな器でもお湯さえそそげばインスタント風呂になるだろう。実際に竜矢はそうやって入った事もあるが、いつも不満だった。


「小さい器にお湯入れても、すぐに冷めちまうんだよ。俺は長湯派なんだ、ぬるめの温度でじっくりゆっくり入りたいんだよ」

「ああ、なるほど。長い時間は無理ですよね、すぐ冷めちゃうだろうし」


「そ~なんだよ~。ちょっと前まで結構寒かっただろ? 野宿すると冷えるのも早くてさ~」

「何じゃ、そんな事か。言ってくれればわしが魔力で湯を温め直してやるものを」


「こんな事でお前の手を煩わせるのも悪いだろ? いくらマナウルフィの魔力が桁外れに強いっていってもさ」

「……鈍い男じゃ」

「ん? 何だって?」

「何でもないわ」


 スーニアの少し怒ったような声に、竜矢は小首を傾げた。

 考えても分からなかったので、今度はシェリカに思っていた疑問をぶつけてきた。


「それはそうと、シェリカさん一人でその邪教の調査に行ったの? もしかしてかなりの凄腕とか?」

「い、いいえ! 私はまだまだ未熟です……。少しは名前を知られるようになったんですけど……」


 シェリカはこれまでの経緯を詳しく話すことにした。

 慢心して単独行動を取ったこと。

 些細なミスで追われる羽目になったこと。

 逃げる途中、焚き火の光を見て助力を頼もうとした事など。


「そりゃ、かなり危ない所だったって訳か」

「はい! 本当にありがとうございます! リュウヤさんのような強い方に出会えたのは幸運でした!」


「はは、照れるね。んで、そのミスってのは何をやっちまった訳?」

「それは………………………………あ」


 ここでようやくシェリカは思い出した。

 自分がミスをした、そもそもの原因を。


「あーーーーっ!! あの子!!」

「うわっ!?」

「何じゃ、急に大声を出すでない!」


「すっすいません! ああ、でも、どうしようどうしよう、もう間に合わないかも、でもでも……」


 竜矢は泣きそうな顔で急にオロオロし始めたシェリカに、心配そうな顔を向ける。


「……何かあったの?」

「女の子が、生け贄にされそうになっていたんです!」


「えーーーーっ!?」

「戯け者が!! 何故その事を早く言わんのじゃ!!」


 竜矢の驚く声と、スーニアの叱責が森の空に響いた。


「す、すみませぇん! 安心してつい……!」

「スーニア!」


 竜矢がスーニアに急いで声を掛けた。すべて分かっている、といった感じでスーニアが返事をする。

 スーニアは方向転換して、元来た方向へと駆けだした。


「うむ、それでこそわしが認めた男よ。シェリカよ、案内せい!」

「え? まさか……」

「その邪教徒どもの巣窟にじゃ!」

「助けるんだよ! その子を!」


「で、でも、連中は少なくとも百人はいましたよ!? 一度町に戻って、領主様に報告して兵隊を……」

「間に合わねーって! 大丈夫だ、俺とスーニアに任せとけ!!」

「うむ」


「……はい」


 とてつもない力を秘めた、小さな勇者と金色の神獣。

 その力強い言葉に、シェリカは思わず頷いていた。



少し書きためているので、あと二回位、この程度の文章量でのアップになりそうです。

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