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28話:竜矢とスーニア その5

ものすっごい久しぶりの更新です・・・orz

色々とすいません。

 どれだけの間、泣き喚いただろうか。

 気がつけば、竜矢はテーブルの上に置かれた、大き目の籠の中に居た。籠には小さなクッションが収まり、体の上にはハンカチが掛けられて即席のベッドになっている。


 竜矢はいつの間にか眠ってしまい、ステリがここにそっと寝かせていたのだ。

 そのステリはというと、暖かい日差しの入る窓際で、安楽椅子に揺られながら縫い物をしている。スーニアはその足元で、彼女の手元を不思議そうに見つめていた。

 と、ステリが竜矢の視線に気付いて顔を向けた。


「おや、目が覚めたかい?」

「あ……うん、その、ありがとう、ステリさん」

「どういたしまして」


 竜矢は照れ臭そうに言う。

 あれだけ大泣きする所を見られたのだから、恥ずかしくないという方が無理だろう。


「わぅっ、りゅーや、おきた。へーき? へーき?」


 スーニアが籠に駆け寄り、心配そうに眉を寄せて覗き込んでくる。

 竜矢はピョンと籠から飛び出すと、スーニアの鼻の頭を撫でた。


「あ~、大丈夫だよ。心配してくれてありがとな、スーニア」

「わう~♪」


 スーニアの笑顔で癒されていた竜矢は真剣な顔になると、ステリに向かって声を掛ける。


「ステリさん、迷惑じゃなかったらお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな」

「なんだい?」

「俺に、魔術を教えて欲しいんだ」

「魔術を? けれど、君は……」


 竜矢の頭の中には古今東西、この世界のありとあらゆる魔術の知識が詰め込まれている。

 その事を既に聞いていたステリは訝しげな顔をした。


「確かに、俺は知識だけは持ってる。魔術師になるための修行法とかも知ってる。だけど、実践が伴っていない付け焼刃みたいなもんだよ。知識だけの頭でっかちな奴が一人で、しかもこんなバカでかい魔力を扱うなんて、危険すぎると思うんだ」

「ふむ……なるほどね」

「スーニアへの治癒魔術は上手くいったけど、次もそうだとは限らないし。スーニアの首に付けられてる厄介なロストパ-ツも外してやりたいけど、今の俺じゃ危なっかしすぎるんだ、だから……」


 そこで一旦言葉を止めた竜矢は、姿勢を正して頭を下げた。


「俺を、ステリさんの弟子にしてください!」


 ステリは椅子から立ち上がると、編み物を置いて竜矢の側に近づいた。


「頭を上げなさいな、リュウヤ。君の気持ちはよく分かったよ」

「じゃあ……」

「ふふ、もう弟子を取ることも無いだろうと、此処で余生を送るつもりだったけれどね。いいでしょう、リュウヤ。あなたをこのステリ・マグノワイヤーの最後の弟子に迎えましょう」

「ありがとうございます!」

「そんなに堅苦しくならなくてもいいさ。修行は明日からにして、今夜は二人を歓迎して、ささやかながらパーティーといこうかね」


 こうして、リュウヤはステリの弟子となったのだった。




 翌日から魔術修行の開始となった。


 まず、ステリは竜矢が神聖・元素のうち、どの系統の魔術に適正を持つかを魔術によって調べる事にした。

 調べたい人物に検査する魔術をかけると、その体が光るのだ。


 神聖魔術に適性しているのなら白く光る。

 元素魔術なら元素の対応色である地の黄色・風の青色・火の赤色・水の銀色・空の黒色の光が入り混じったように光り、その中で最も強い適正を持つ元素の光が強く輝く。


 邪神魔術は調べる必要は無い。魔力を持ってさえいれば、全ての人間が修得可能だ。

 これは、邪神の教えが『欲したなら、奪え、騙せ、犯せ、殺せ』等という、人間の欲望を全肯定するものであるせいだとされている。


 神聖・元素魔術に比べて強力な力を発揮する事は稀なものの、欲望に直結しているせいか全般的に習得の容易な術が多いのだ。

 その為、修行に行き詰まった魔術師が道を誤って邪神崇拝者となってしまうケースが少なからずあり、それが魔術師の世界では問題となってしまっている。


「まあ、リュウヤは一度治癒魔術を成功させているからね、白く光る……おや?」


 術を竜矢に掛けたステリは首を傾げた。

 彼の体が光らないのだ。


「どうかしたの?」

「おかしいね、君の体が光らない……。魔力は物凄いのに、適正が分からないなんて、こんな事は初めてだよ」

「光らないって……。もしかして俺、魔術への適正が無いのかな? 異世界人だし……」

「けれど、『万象の癒し手』を使ってスーニアちゃんを治したのだろう? ふむ……リュウヤ、君の知識の中にこんな事象について何かないかい?」

「ちょっと待って……」


 脳内の情報を検索してみる。

 すると、少ないが関連する情報があった。それによると、適性がないのではなく、全ての魔術に適正を持っているらしい。

 本来は有り得ないとされているが、特異体質のように全ての魔術適正を持つ者が極まれに生まれることがある。


 その体質を持った者は検査魔術を掛けても体が光らない。

 だが、その体質を持って生まれる確立は数万人に一人と極めて低い。地球に比べて総人口も少なく、情報伝達手段が未発達なこの世界ではその存在を知る者がほとんどいない。

 熟練の魔術師であるステリといえど、知らないのは無理からぬ事だった。

 地球人だからなのかは分からないが、どうやら竜矢はその特異体質だったようだ。


「……って事らしいよ」

「驚いたね……。魔術に関してはそれなりに極めたつもりだったけど、まだまだ奥が深いということだね」


 ともあれ、竜矢の適正は判明した。

 ここから修行を始めることになる訳だが、竜矢は知識だけはステリをも上回っている。その為、基本的な技術のみを教えることにした。


 この世界の魔術は行使する際に幾つかの段階を踏む。

 魔術式を術者の体内にて構築し、安定を図るため体外に展開。展開した魔術式へ魔力を充填し、魔力力場を展開させて発動させる。

 呪文は唱えた方が良い段階や、省略できる段階があるが、術の難易度や術者の力量によって様々に変化するため、一概にこの方法が良い、というのは無い。


 こういった一連の基本さえ抑えれば、あとは個人の才能や保有魔力量、魔術への理解やイメージする力が物を言う。

 そして、一度だけとはいえ実際に魔術を使った経験と、地球に腐るほど有った『空想世界の産物』達によって無駄に鍛えられた竜矢の力は……。


「これは初日で卒業かね? 正直、私が教えられることは何も無いように思えるよ」

「それはそれで、なーんか寂しいような、嬉しいような……」


 とにかく実践とばかりに基本から初歩の魔術、応用などを一通りやってみたのだが、竜矢は難なく魔術の行使に成功した。

 さらに、熟練の魔術師でも難しい複合魔術もあっさりクリアしてしまったのだ。

 もちろん、神聖・元素両方の魔術で、だ。


「ふふ、喜んで良いと思うよ? しかし複合魔術まで行使してしまうとはね。これまで魔術師として生きてきた中で一番の驚きだよ」

「うーん……まさにチート」

「ちーと?」

「あ、えーと、普通なら有り得ない行為とか力を使うこと……だったかな。『異常』とか、『卑怯技』とかそんなそんな感じの」

「卑怯とは思わないけれど、普通じゃない、という意味では合っているかもね」

「素直に喜べない……」


 微妙に傷つく竜矢だった。




 しかし、基本は大事だということで、ステリは毎日の基本修行を竜矢に課した。

 竜矢も素直に従い、日々修行を行いつつ一ヶ月ほど過ぎた日のことである。


「ステリさん、ちょっと見てくれるかな? 魔術式を俺なりに改良してみたんだ」

「魔術式を……改良?」


 ステリは目を丸くする。

 魔術は、ある家系では秘伝として、またある魔術師から弟子へと何百年もの間受け継がれてきた。

 簡単な魔術は公表されて世界中に広まり、日常生活の中で普通に使われている。

 しかし、既にある魔術式を改良したなどという人物はステリの記憶には無い。


 それは何故かと言えば、魔術式が電子回路の魔術版のような物であり、緻密に構成されている事にある。

 『複雑すぎる』のだ。

 魔術式は、例えるなら無数に繋がった天秤が揺れること無く、一本の針の上に立っているかのような絶妙なバランスの上に成り立っている存在だ。

 改良をしようと考えた者はいる。が、その全員が魔術式を解析した段階でことごとく諦めてしまった。


 魔術式の完成度の高さに、手を出したくても出せなかったのだ。

 下手をすれば魔術が全く発動しない無意味な物になるか、制御できずに暴走させてしまうか、あるいは意図していない別の魔術が発動してしまうか。

 少しでもおかしな所があれば、何があるか分からないのだ。

 が、竜矢はいつもと変わらぬ明るい口調で言う。


「改良っていうか、使われている魔術文字を俺の世界で使われてる文字に置き換えてみたんだ。他にもチョコチョコいじった箇所があってさ、どうなるのかステリさんにも見てもらいたいんだ」

「キミの世界の文字かい? ふむ、それは興味深いね。ぜひ見させてもらおうかね」


 家の前にある小さな広場に出た二人を見て、パロツと遊んでいたスーニアが駆け寄ってくる。

 命の恩人だと分かるのか、ステリの使い魔のパロツはスーニアによく懐いて遊び相手になっていた。


 反面、竜矢にはあまり懐いてくれない。キミの力に怯えているのだろう、とステリは言っているが、竜矢が自分を食べようとした事を覚えているのかもしれない。

 けっこう動物好きな竜矢は何気に寂しかったりする。


「りゅーや、あそぶ! わぅっ! あそぶ!」

「あー後でな、ちょっと待っててくれ。危ないかもしれないから、ステリさんの側にいてくれな」

「わぅ?」


 竜矢はパロツを抱きかかえたスーニアとステリを背にする。ステリは念の為に彼女たちと家を丸ごと防御結界で包み込んだ。

 結界の外で術を発動すべく、竜矢は精神を集中させる。


「元の魔術は『星屑の灯火ともしび』なんだけど、やってみるよ」


 『星屑の灯火』は指先に小さな火を生み出す魔術だ。一般市民でも使える簡単な魔術であり、主に台所での火付けや、懐中電灯代わりに使われている。


「ああ、見ているよ。けれど、少しでも異常を感じたらすぐに術を止めるんだよ」


 ステリの言葉に頷き、竜矢は日本語版魔術式を体外展開した。

 地面に広がったそれを、ステリは興味深く観察するが何が書いてあるのかさっぱり分からない。


「……『星屑の灯火』」


 竜矢が右手の人差し指を空に向けて呪文を唱える。

 その指先に、周囲に目も眩むような強烈な光と、空を焼き焦がさんとするような巨大な炎が指先から生み出された。


「うわっ!?」「!?」


 小さな家なら丸ごと飲み込んでしまいそうな赤い炎に、竜矢は一瞬我を忘れて見入ってしまった。

 が、すぐに気を取り直し、慌てて魔術を止めて炎を消した。


「あ……えっ……?」

「こ……これは……」

「わ~~……ぅ~~……」


 三人とも驚きで声が出ない。

 パロツに至っては、スーニアの腕の中でガタガタ震えてしまっている。


「……リュ、リュウヤ、今のは本当に『星屑の灯火』かい……?」

「その筈……なんだけど……。どうなってんだこりゃ」

「ふむ……。リュウヤ、その魔術式をどう改良したのか、詳しく教えておくれ」


 竜矢たちは家の中に戻り、日本語版魔術式を絵に描きながら詳しく説明する。


「……でもって、ここん所の魔力の流れを二分割して、炎の大きさと光の強さを同時に増幅・制御出来るようにしたんだ」

「……ふむ……。キミは力だけが『ちーと』じゃなかったようだね」

「え?」

「キミの持つ異世界の知識や発想だよ。それはこの世界では恐ろしい力を発揮しかねない。それこそ君の持つ魔力以上に強く、危険な力だね」


 文明の発達というものは、平和な時代には芸術や文化が、戦乱の時代には武器や破壊兵器が主に発展していく。

 一つの発見がある度に、それを使って様々な実験や考察がなされ、基礎が作られ応用法が生まれていく。

 だが、竜矢の知識や発想力は、数千年に及ぶ地球の歴史の中で育まれた物だ。


 魔術という力が有るとはいえ、まだまだ発展途上のこの世界において、それは文明を一足飛びに発展させてしまいかねないのだ。

 これは良い事ばかりではない。

 竜矢の知識を元に、何処かの国が魔術や武器に限らず、道具、法律、制度、農耕など、様々な分野で画期的な発明をしたとしよう。

 その国は経済的にも、文化的にも潤う事になるだろう。


 だが、別の国がその技術や発明を欲しがらない訳がない。何らかの争いが起こることは想像に難くない。

 平和的にそれが公開され、世界に広まり活用されれば良いとも思える。

 本当にそうだろうか?

 その技術・発明を元に、強力な武器や魔術が生み出されるかもしれない。

 それが争いに使われないなど、誰が断言できるのか。


「恐らくは、キミの世界の文字に、この世界の魔術文字をも上回る力が長い歴史の中で宿ったのだろうね。けれどキミの世界には魔術がない。故に問題にはならなかったのだろうね。……リュウヤ、よくお聞き」

「はっ、はい?」

「キミの作り出したニホン語の魔術式は、もはやキミのオリジナル魔術式と言っていい物だ。優れている……いや、優れ過ぎている(・・・・・・・)。これは師としての命令です、このオリジナル魔術は、よほどの事がない限り、使用を厳に禁じます」


 新しい魔術式を生み出すという事は、すなわち新しい魔術を生み出す事。

 これまで柔和な顔しか見せなかったステリの、厳しく真剣な表情に、リュウヤは改めて自分の作り上げた『オリジナル魔術』の危険性を悟る。


「……分かりました、ステリさん」

「うむ、決して忘れてはなりませんよ……。ふぅ、それにしてもこの歳になってこうも驚く事ばかり続くとはね。リュウヤ、少しは手加減しておくれ」

「あ、あははは……」


 笑って誤魔化すしかない竜矢だった。




色々と忙しく、不定期更新になります。

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