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26話:竜矢とスーニア その3

深い森って、何か居そうですよね。



 洞窟でのキャンプ生活を初めて約一ヶ月。

 少女に関してのトラブルは色々とあった。

 一度、肉を一切使っていない料理を食べて何故か吐いてしまった事があった。


 不思議に思って食材を調べたら、使っていた調味料の中に動物の内臓を乾燥させて粉末にした物が少量混じっていたのだ。

 それ以来、料理には最新の注意を払って作るようになった。


 後は、無邪気に裸で転げ回ったり、竜矢を服の中に放り込んで寝たり、寝ぼけて食べようとしたり、その他諸々である。

 苦労しつつも、何とかここまでは無事に過ごす事が出来た二人だった。

 しかし、ここに来て重大な問題が発生した。


「……食料はあと少しか……」


 地下倉庫から持ってきた食料を、あらかた使ってしまったのだ。

 少女を一人にする訳にはいかなかった為、新しい食材探しをする時間が中々取れなかったのが大きな理由だ。


 それでも幾つか果実のなっている木を見つけたので少しは足しになっていたのだが、それも季節的に食べられる時期を過ぎようとしている。


 川で魚を捕ろうとしても、魚の姿が見えなくなってしまっている。どうやら竜矢の持つ力に怯えて別の場所に移動してしまったらしい。

 ならばと、動物を捕ろうと幾つか罠を張ってみたが、やり方が悪いのか一匹も捕らえられずにいた。


「何がマズイのかなぁ、ちっとも獲物は掛からねーし。まあ、取り敢えず見てくるか……おーい、スーニア」

「あぅー?」


 少女を呼ぶと、洞窟の奥からトテテテッとやって来た。

 彼女の身体も大分良くなり、一人で歩けるようになったのだ。

 まだ長い時間出歩くには無理があるが、竜矢と一緒に薪拾いに行けるくらいには回復していた。


 スーニアというのは、いつまでも名無しでは困ると竜矢が付けた名前だ。

 名前の由来は、とあるコミックに出ていたインド神話の太陽神から来ている。


 本来は“スーリヤ”という名前だが、この神は男性神だったので少しいじって“スーニア”にしたのだ。

 まるで太陽のような輝きを持つ、彼女の黄金の髪から連想した名前だった。


「罠を見に行くから、一緒に行こうぜ」

「わぅ~♪」


 展開した人型で頭を撫でると、にこやかに返事をする。血色や肌の艶も良くなり、もう少しすれば健康を取り戻すだろう。

 ともあれ二人で罠を見回っていくが、やはりどれにも掛かっていない。

 だが、最後の罠にようやく待望の獲物が掛かっていた。


「おおおっ! いたっ! 掛かってたぁぁぁ!」

「わわぅっ?」


 思わず上げた大声に、スーニアが驚いて飛び退いた。罠には地球のウサギに似たパロツという動物が掛かっていたのだ。

 竜矢は慣れない手付きで暴れるパロツの足を縄で縛り、洞窟へと戻った。

 スーニアは不安そうにパロツを見つめている。


「……よし、可哀相だけど……勘弁な」


 ナイフを手に、そのパロツを絞める為に押さえつけた。

 パロツは逃れようと、キュー、キューと鳴き声を上げて藻掻いている。

 手の平に伝わるパロツの体温が、生きているという事を否応なしに実感させてくる。


 地球で普通の高校生であった竜矢に、動物を締めて解体した経験など無い。可哀相だと思う気持ちもあるし、殺したくないという気持ちもある。

 しかし、今の竜矢にはスーニアという守らなければならない存在がいる。

 竜矢は覚悟を決めてナイフを振り下ろした。


「わぅぅっ!!」

「んなっ!? な、何すんだ!?」


 ナイフがパロツに刺さろうとした瞬間、スーニアが竜矢の腕にしがみついて止めに入った。

 パロツを逸れて、ナイフが横の地面へと突き刺さる。

 竜矢はスーニアを引き剥がそうとするが、中々離れようとしてくれない。


「わぅっ! だぁめぇっ! わぅぅ~っ!」

「こ、こら、危ないって! と、取りあえず落ち着け!」

「わぅぅ~~……!」


 スーニアは竜矢からは離れてくれたが、今度はパロツに覆い被さるようにして離れようとしない。

 まるでパロツを守ろうとしているかのようだ。


「えっと……殺しちゃ、駄目だってのか?」

「わぅっ」


 スーニアが力強く頷いた。


「い、いや、そこで思いっきり頷かれてもなぁ……。ほら、もう食べ物が少ないだろ? だから干し肉とか作って……」

「わぅ~っ! わぅあぅ~っ!」


 今度は力強く頭を横に振る。

 何が何でも、パロツを殺したくないようだ。


「……まいったな、こりゃ……」

「わぅぅ~……!」


 スーニアは竜矢を睨んでいたが、急に泣きそうな顔になった。

 竜矢の服を掴み、止めさせようと懸命に引っ張ってくる。


「わぅ~っ、だぁめっ、わぅ、わぅぅ~っ!」

「……ふぅ」


 竜矢はスーニアを脇にどかせると、パロツの前にしゃがみ込んだ。

 身体にしがみ付いて揺らしてくるスーニアを無視して、パロツを縛っているロープに手をかける。


「……ほれ、これで良いんだろ?」

「わぅ?」


 二人の脇を、パロツが走り抜けて洞窟から出て行った。

 竜矢はパロツのロープを解き、逃がしてやったのだ。


「わはぅ~っ!♪」

「わっ、こ、こら」


 スーニアは満面の笑顔で竜矢に抱き付いた。

 竜矢の顔に自分の顔をスリスリと擦り付けてくる。

 嬉しくてしょうがないようだ。


「たはは、やれやれ……。さて、どーしたもんかね……」


 溜め息をつきつつ、解決しなかった事を含めて色々と考える。


(干し肉にはこんな反応してなかったから、元から肉の状態なら良い訳か……。食料を手に入れるには、人の住んでいる場所に行くしかなさそうだな。そろそろ肌寒く感じる事も多くなってきたし、ここを出る良い機会かもな……)


 そう判断したものの、さて何処に行ったものか。

 脳の情報を調べてみたが、この森はかなり大きく、近場には村や町などは存在しないようだ。


「一番近い村まで、歩いて六日はかかるか……。まぁ、俺がノンストップで行けば半分以上時間を短縮出来るだろ、食料もギリギリ持ちそうだ。問題は、着いた時に俺の事をどう誤魔化すかだけど……。全身を覆う鎧みたいなもんがあれば何とかなるか?」


「あぅ?」

「ん? ……まぁったく、お前にゃ負けるよ、ははは」

「わぅ♪」


 スーニアは人型で頭を撫でられて、嬉しそうにしている。

 いつまでもクサっていても仕方がない。竜矢はそう考えて心を切り替え、洞窟を出る準備を始めるのだった。




 翌日、竜矢たちは朝一番で洞窟を後にした。

 スーニアの筋力回復を考えて、彼女が疲れるまでは一緒に歩き、疲れたら竜矢が抱き上げる。


 さすがに睡眠は取らなければ竜矢も参ってしまうので、夜だけは野宿をして昼はノンストップで歩き続けた。

 そうして二日が過ぎ、三日目の朝のこと。


 このペースで行けば予定通りに村に着くな~、と考えながら出発しようとした竜矢は、いつの間にか周りに霧が立ち込めているのに気が付いた。


「……なんか……変な霧だな」


 竜矢が感じたように、奇妙な霧だった。

 まるで竜矢たちの身体に纏わり付くように流動しているのだ。

 何者かの意志が介在している気配を感じ、竜矢は不安気な表情を見せるスーニアを人型で抱き上げた。


「スーニア、俺にしっかり掴まってろよ」

「わぅ~……」


 亜空間バッグを肩に掛けようとした時、不意にバッグがその手から消え失せた。


「えっ!?」

「あぅっ、あそこっ」


 スーニアが指さした方向を見ると、少し離れた場所でバッグを咥えてこちらを見ているパロツがいるではないか。


「キュー」

「こら、返せ!」

「キュキュッ」


 パロツはバッグを咥えたまま、森の中へと走って行ってしまった。


「こ、この! 待て!」


 あのバッグには荷物が全て詰め込んである、絶対に失う訳にはいかない。

 急いで後を追い掛ける。

 だが、木々の生い茂る森の中では小さなパロツの方が圧倒的に早い。パロツは地球のウサギ並みに俊敏なのだ。


 どれくらいの距離を追い掛けたのか分からないが、急にパロツの動きが止まった。

 パロツは咥えていたバッグを離して地面に置くと、竜矢たちを待つようにジッと二人を見つめている。


「何だ、あいつ……?」

「あぅ? ……わぅっ」


 スーニアがパロツのいる後ろの空間を指差した。

 竜矢がそこを見ていると、波が引くように霧が晴れていく。

 霧が晴れると、そこは森を切り開かれて作られた広場のような空間だった。


「い……家?」


 直径二十メートルほどの広場の中心に、ログハウスのような小さな家がポツンと建っている。

 と、その家のドアが二人の見ている前で、軋む音を立てながらゆっくりと開いていく。


「……よう来たの、不思議なお客人」


 出てきたのは、やたらに長い杖を持った、スーニアよりも背が低い老婆だった。



……むぅ、この竜矢とスーニアの章、当初の予定より長引くかも知れない……。


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