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25話:竜矢とスーニア その2

異世界キャンプの始まりです。



「あぅ~♪ わぅあぅ~♪」

「お、終った……。あのジジイとやった時より……いや、ネバーエンディング・テストを受けた時よりも疲れたぜ……」


 タオルで濡れた身体を拭いてやりつつ、竜矢は溜め息をついた。

 少女の方は汚れが落ちてスッキリしたのか、まるで鼻歌でも歌っているようにご機嫌である。


「……まぁ、これだけ喜んで貰えたんだから良しとするか。しっかし、金髪だったとはなぁ……」


 汚れの落ちた少女の髪は、美しい金髪だった。

 栄養状態が悪かったせいで艶を失っているが、それでいて本物の黄金で出来ているかのようなストレートのブロンドヘアーだ。


(綺麗だけど、いくら何でも伸びすぎだな。戻ったら少し切ってやるか)


 少女のお漏らしで汚れてしまった毛布は後で回収することにして、汚れた箇所を洗って近くの木の枝にかけておいた。

 少女を抱き上げると、再び洞窟へと歩き出す。

 川と洞窟の間は五分と掛からない距離なので、大して時間は掛からない


「おし、髪を切ってやるか」


 洞窟に辿り着くと、バッグからハサミを取り出した。

 ハサミを見て少女は少し怖がったが、宥めつつ切っていき、何とか肩口までのセミロングに整えた。


「……どっかの神様の、生まれ変わりの少女みたいになっちゃったな……。これでにぱ~とか言ったら外人のコスプレで通じるわ」

「あぅ? にゃぱ~?」

「い、いや、こっちの話だから。……にしても……」


 顔がはっきり見えるようになった少女は、目の覚めるような美少女だった。

 金糸のような髪、白磁の陶器のように透き通るかのような白い肌、金と銀の神秘的な瞳。


 痩せていてもなお失われていないその美しさは、竜矢の目を一時ひととき釘付けにした。

 健康を取り戻したら、本当に神の生まれ変わりと言われても納得してしまうかも知れなほどだ。


「ックシュ!」


 と、少女が可愛らしいクシャミをした。

 身体を洗った後、新しい毛布で身を包んだが少し冷えたのかも知れない。


「あ~服が欲しいとこだよなぁ……よし」


 竜矢はバッグから洋服に使われる薄手の白い布とハサミを取り出した。

 脳の情報を検索して服の作り方を調べてみると情報はあった。しかし、自分の器用さと手間暇を考えて当座は簡単な物で十分だなと判断し、貫頭衣を作ることにした。


 肩幅の長い布を二つ折りにし、折り目に当たる部分を半円形に切り取って頭を通す穴を開ける。

 後は腰に当たる部分に幾つか切れ目を入れて、ベルト代りの紐を交互に通せば出来上がりだ。


「あぅ?」

「ほい、出来たっと。取りあえず、これを着てくれな」


 貫頭衣を少女に着せる。特に嫌がったりもせず、素直に着てくれた。


「うん、即席で作ったにしちゃ上出来だ」

「あぅ~……わぅ~♪」

「お、気に入ったみたいだな」


 少女は貫頭衣を触って嬉しそうに笑っている。

 竜矢も自分の分も含めて予備に二、三着作り、身につけた。


(んー下着も作ってやりたいとこだけど、裁縫なんてやった事ねーからなぁ……取りあえず後回しだ。お次はっと……)


 次にバッグを漁って取り出したのは、桶やロープ、大きめのナイフだ。


「いい子で待っててくれな、水汲んで、毛布回収して、えーと薪拾いしてくるから」

「あぅ?」

「じゃー、行ってくる」


 竜矢は軽く手を振って洞窟を後にした。

 薪は乾いている枝を拾いたいところだ、生木は水分を含んでいるので燃えにくい。


 幸い、森の中だけあって薪になりそうな枝は豊富に落ちていた。それをロープで縛り、大分乾いていた毛布と一緒に人型の肩に担ぐ。更に水を汲んだ桶を持って洞窟へと向かった。


「……ん? 何だこの声……」


 小さな、啜り泣くような声が微かに聞こえてくる。

 嫌な予感がして洞窟へと急ぐと、やはり声の主は少女だった。

 壁を背に、体育座りで顔を足に埋め、小さなか細い声で泣いているようだ。


「ひぅぅ……ひぅぅ~……」

「ど、どうした!? 何かあったのか!?」

「ひぅっ!?」


 慌てて駆け寄れば、少女は涙と鼻水でグシャグシャになった顔を上げた。竜矢の姿を認めると、痩せた手足を懸命に動かして竜矢に縋り付いてくる。


「ひぅっ、ひぅぅ~、ひぅあぅ~」

「よしよし、大丈夫だから……って、何も異常ないけど……?」


 小刻みに震える身体を抱き、優しく頭を撫でると少女はようやく落ち着きを取り戻した。


「もしかして……一人にされて怖かったのか?」

「あぅ~、わぅ、はぅ~」


 離れたくないという意思表示のように、少女は細く、小さな指で人型の腕を握りしめてくる。


「……そっか、ゴメンな。大丈夫だよ、もう一人にしねーから」

「あぅぅ~……わぅ……♪」


 人型の中で浮かぶ小さな竜矢の笑顔を見て、少女はやっと微笑んでくれた。




 体験学習で行ったキャンプを思い出しながら、火打ち石で火を起こしてカマドを作ったりしている内に日も沈み始めた為、竜矢は夕食の支度に取りかかった。


 だが、これまで料理などろくにやった事が無いため、全てが脳内の情報頼りだ。簡単な病人食を調べ、持ってきた食料から悪戦苦闘してスープを作った。

 恐る恐る、味見をしてみる。


「……おおぅ、美味い! 我ながら良く出来たじゃねーか。ほーい、メシだぞ~」

「あぅ~?」

「ふー、ふー……。ほい、口開けて~、あ~ん」

「あ~ん?」

「いや、口の動きを真似しなくていいから、あ~ん」


 スプーンで掬ったスープを少女の口元に持っていくが、中々口を開けてくれない。

 匂いを嗅ぐと、何故かちょっと顔を顰めている。


「どうした? 結構美味しく出来たんだぞ~? 一口で良いから食ってみ、あ~ん」

「あぅ~……あ~……」


 怖々といった風に少女が口を開ける。

 竜矢はそこにスプーンを運んでスープを飲ませてやった。


「どーだ? 美味しいだろ?」

「あぅ……。っ、げ、うげぅっ!」

「なっ!?」


 スープを飲み込んだ少女がいきなり咳き込んだと思ったら、スープを吐き出してしまったのだ。

 竜矢は慌てて少女の背中をさすって介抱する。

 飲んだスープが少量だったのが幸いし、吐くのはすぐに収まったが竜矢は訳が分からない。


「げぅぅっ、はぐぅ……あぅぅ~……」

「も、もう大丈夫か? ほら、水……」


 水を飲んで落ち着いた少女を見て、竜矢は胸を撫で下ろした。


「ふぅ~……。どうなってんだ? 失敗はしてない筈だし、食材も間違えてない……。消化を助ける薬草だろ、滋養強壮の薬草だろ……干し肉は少しだけだけど、細かくして柔らかく煮込んだのに……」


 首を傾げるが、まるで分からない。

 はた、と思いついて脳内で少女について調べてみたが、情報はなかった。

 どうやら、あの老魔術師のプライベート的な情報は脳に送られなかったようだ。


「あぅぅ~、お腹すいた……」

「……食欲はあるんだな。じゃあ……」


 干した果物と生野菜をバッグから取り出して一口大に切ってやると、少女は嬉しそうにそれを食べ始めた。


「あぅ~♪」

「うーむ……筋金入りのベジタリアン、か? 何だそりゃ」


 少女を見て口をついた言葉に自分で突っ込みを入れてしまう。


(そーいや、あのジジイ……この子の事を、人の姿をしているが、人ではないとか言ってやがったな……)


 美味しそうに干し果実と野菜を食べている少女を見ても、人間の女の子としか思えない。


(……念の為に、肉は避けた方が良さそうだな。この子の分は、果物と野菜を調達するしかないか……この森にあれば良いけど。ぶっちゃけサラダになっちまうが、しょうがねーよなぁ……)


 自分用に小枝を切って作った爪楊枝のようなスプーンでスープを飲みながら、竜矢はこれからの事を考える。


 ふと空を見ると、星が幾つかまたたき始めていた。

 今まで居た所は昼と夜が分からなかったので、これが初めて見る異世界の夜空だ。

 次第に数を増やしていく星を眺めながら、竜矢は想いを巡らせる。


(ま、成るように成るしかねーよなぁ、取りあえずの生活は何とかなりそーだし……。この子も守ってやらにゃならん……この歳で保護者になるとは思わなかったけど。何とかして地球に戻る方法を見つけ……待てよ!?)


 竜矢は急いで脳の情報を調べてみた。元の世界、地球に戻るための方法をだ。

 あの老魔術師の知識が全て詰め込まれているのなら、その方法も含まれていなければおかしいだろう。

 ところが……。


(あのクソジジイ! 異世界召喚に関しての知識は全て空白ブランクにしてやがる! 万一を考えて、か……だてに長生きしちゃいねぇってか! くそ!)


 情報は無かった。

 恐らく、不測の事態を考慮して意図的に消していたのだろう。

 竜矢の表情が怒りによってわずかに歪む。


「……あぅ~?」

「……ん? どした?」


 怒りの雰囲気を感じたのか、少女が不安そうな表情で竜矢を見た。

 それを理解した竜矢は怒りを消し、笑みを浮かべて少女の頭を撫でる。


「あ~、何でもねーよ。腹も一杯になったし、今日はもう寝るか」

「わぅ~♪」


 カマドの火が消えたのを確認して、寝床の準備をする。

 出来れば火は燃やし続けて番をしたい所だが、竜矢も慣れないことの連続で結構疲れていたのと、火事の可能性を考えて消す事にしたのだ。


 幸い、季節的には地球でいう夏の終わりに当たる時期なので、まだそれほど寒くはない。

 旅人が使う厚手のマントや毛布を使って少女をくるむと、竜矢は人型を消して毛布の端っこの方に潜り込む。


 いずれはちゃんとした家を手に入れなきゃならんだろうな~、等と考えていると、竜矢の身体を少女がそっと掴んだ。


「ん? どーした?」

「わぅぅ……」

「え、ちょ……」


 少女は竜矢を両手で包むように抱くと、自分の胸に押し付けるようにした。

 暫くそのままでいると、少女の規則正しい寝息が聞こえてきた。

 程よい強さで押し付けているので、苦しくはない。

 が、竜矢は別の意味で苦しんでいた。


(……っ……む、胸が……柔らかい……!)


 痩せ細ってはいても、胸にはわずかに膨らみが有るのだ。二つほど。

 ほのかに石鹸の香りがする少女の体に、竜矢は中々寝付けずに夜中まで身悶えする羽目になるのだった。



まぁ、何だ……。

ガンバレ、竜矢クンw(前回と同じw)



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