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24話:竜矢とスーニア その1

ほんのちょっぴりエッチィ表現があるんですが……十五禁にした方がいいのかなあ……。

基準がいまいち分からん……。



「だあああああああっっ!! 待てっ! 待てってば!! 俺は食いもんじゃないから!! 落ち着いてください、お願い!! たっ……食ーべーなーいーでぇぇぇぇっ!!」


「わぅ……?」


 竜矢を丸かじりしようとした少女が、その叫びに小首を傾げて口から取り出した。

 そっと竜矢を地面に降ろす。


「はあはあはあ……し、死ぬかと思った……! 食い殺されるなんて嫌すぎる……」


 竜矢は精根尽き果てたように、両手両足を地に付いて項垂れた。

 と、何やら頭の上で鼻を啜るような声が聞こえてくる。


「あん?」


 顔を上げた竜矢が見たのは、今にも泣き出しそうな少女の顔だった。


「ひっ……ぅぐ……ぇぅぅ……ひぐっ……」

「ぬぅ!? ど、どうした!?」

「すいた……おなか……しゅいた……」

「……あ~……」


 竜矢の治癒魔術で回復したのは良いが、その分、一気に空腹感に襲われてしまったようだ。

 とはいえ、周囲一体は竜矢が魔力で吹き飛ばしてしまった為か、草木一本生えていない。当然、動物の姿など全く見えない。

 食べ物はおろか、飲み水も近くにはない状況だ。


「弱ったな……ん?」


 竜矢は自分の下の地面が土の感触ではない事に気付く。それは木の板だった。

 今まで居た研究室の床板かと思ったが、よく見てみると鉄製の取っ手があり、人が入れる大きさに四角く切り込みが入っている。

 今まで倒れていた少女の影になっていて気付かなかったのだ。


「これもしかして……地下室の入り口か?」

「ずずっ……わぅ?」

「ちょっと待っててな、保存食でもあれば良いんだけど……」


 竜矢は宙に浮かぶと、取っ手を両腕で抱えてゆっくりと持ち上げる。

 まだ魔力のコントロールに慣れていない為、不安定にヘロヘロとした動きだ。

 苦労して持ち上げると、思ったより明るい空間にハシゴが降りている。


 降りてみると、はたしてそこは地下の倉庫のような場所だった。

 壁には魔術で作られた光を放つ石、『光魔石こうませき』が取り付けられていて中を照らしている。


 六畳間ほどの部屋の中は整然としていて、竜矢と老魔術師の真下にあった為か、爆発の影響をあまり受けていないようだ。

 並んだ戸棚には毛布や油、食器等の生活雑貨が並び、幾つか魔力を感じる品物もある。

 その一角には、干し肉や乾燥させた果物、塩漬けの魚などが入っている壺が置いてあった。


 一際大きな壺の中には、野菜や生肉が丸ごと保存されていた。中に入ってみると、凍えそうなほど冷えている。

 魔力の流れを感じる事から、どうやら魔術を使った冷蔵庫のようだ。


「おお、ラッキー♪」


 竜矢はその中から皿と乾燥品の肉、魚、果物に生野菜と一通り持ち出して、少女の前に運んでいった。


「どうだ? 食えそうな物、あるか?」

「あぅ~♪」


 少女が何となく嬉しそうな声を上げた。

 伸び放題の髪で顔がよく見えないのだが、どうも笑っているようだ。

 干し柿のように乾燥させた果物を手に取ると、ゆっくりと食べ始める。


 乾燥しているので固いのか、噛むのに少々時間が掛かっている。それを見た竜矢は倉庫からナイフを持ってきて、食べやすいようにスライスしてやった。


「わぅ~♪ あぅ~♪」


 食べやすくなったのが嬉しいのか、少女の声が明るくなった。

 喜んでいるのが分かり、竜矢も微笑む。

 しかし、少女が食べるのは果物と生野菜ばかりだ。


「……肉と魚は嫌いなのかな?」

「あぅ?」


 竜矢の呟きに小首を傾げる少女。

 その可愛らしい仕草に、まあいいか、と考えてしまう竜矢だった。


「……しっかし、これからどーすっかなぁ……」


 いつまでもこの場所に居るのは得策ではない。あの老魔術師が戻ってくるかも知れないし、仲間でも連れてこられたら厄介だ。


 まだ魔力のコントロールがろくに出来ない状態であり、次も上手く撃退できるとは限らないのだから。

 竜矢は脳内の情報を探り、現在地や身を潜められそうな場所を調べてみた。


(……ここは……ジュマルとかいう国の東の外れか。荒れた岩山が続いている不毛の土地

……。なるほど、隠れて怪しげな事をやるには打って付けの場所だな)


 更に情報を探り、ここから東に行った所に森がある事が分かった。


「森の中に川も流れてる……取りあえずこの森に行くか。問題はこの子が歩けるか……」


 少女を見ると、満腹になったのか満ち足りた感じで竜矢をジッと見つめている。

 その体は痩せ衰えており、とても自力で歩く事など出来そうに見えない。


「ん~、さっき俺は自分のオーラというか……“気”みたいなもんを人間大に固定できた……。あれが出来れば……」


 竜矢は意識を集中し、自分の中にあるエネルギーを探ってみる。

 すると、大きな力が脈動しているのが感じられた。

 あの老魔術師によって植え付けられた魔力だ。


 しかし、魔力はその源といえる更に大きな力……生命エネルギーの一部に過ぎなかった。

 気やオーラ等と表現されるその力は、竜矢の想像を遥かに超える強大なエネルギーを内包していたのだ。


(あのジジイのせいなのか、それとも地球人の力がこの世界では、とんでもない物になるのか分からないけど……。扱いに気を付けないと、俺自身も滅ぼしかねんなーこりゃ……)


 慎重に力を引き出し、それを自分の周囲に広げて人型への固定化を試みる。

 それは思った以上に上手くいき、赤いオーラが光の人型となって竜矢を包み込むように展開していた。竜矢の身体は人型の胸の辺りで浮いている。


「よし、これならこの子を運ぶ事も出来そうだな」

「ひぅ……」

「ん?」


 少女を見ると、また泣きそうな声を上げて小さく震えていた。


「ど、どうした?」

「ひぅ、ひぅ~」


 竜矢が近付こうとすると、少女はジリジリと後ずさる。

 どうやら、赤い人型を怖がっているようだ。


「あああ、だ、大丈夫だから、怖くないぞ~? ほ~ら、ヨシヨシ……」

「ひぅ、ひぅ……?」


 優しく声を掛けながら、そーっと頭を人型で撫でる。

 少女は最初こそ身を縮ませて震えていたが、次第に落ち着きを取り戻していった。

 人型が危険なものでは無いことが分かったようだ。頭を撫でて貰うのが気持ち良いのか、再び嬉しそうな声を上げた。


「わぅ~♪」

「ヨシヨシ、怖くないだろ~? ふぅ、やれやれ……。それじゃあ、使えそうなもんを運び出すか」


 竜矢は倉庫の中を物色し、記憶を検索しながら魔術の掛かった道具や食料を片っ端から運び出し始めた。

 記憶の中に亜空間バッグのことがあったのが幸いし、それらを全てバッグに放り込んだのだ。


「よし、水も少しあったし、これだけあれば暫く困るこたねーだろ。行くとするか」


 竜矢は少女を毛布でくるむと、抱っこして持ち上げた。

 重さはまるで感じない。人型で持っているせいもあるが、少女の身体が異常に痩せてしまっているのだ。


「……あのクソジジイめ……」

「あぅ?」

「あー、何でもねー。ちょっと辛抱しててくれな」

「わぅ~♪」


 竜矢の優しい声に、少女が嬉しそうな声を上げる。

 それに竜矢も微笑むと、異世界の旅へと足を踏み出した。




 歩き続けること約半日。

 疲れをほとんど感じないので急ぎ足で、かつノンストップで歩いた結果、常人なら丸一日はかかる距離をこの時間で踏破してしまった。

 目の前には、目的地の森の入り口が見えている。


「思ったより早く着いたなー。我ながら便利な身体になっちまったもんだ」

「んぅ……?」

「起きたか? もうちょっとで着くからな」

「わぅ~……」


 道中退屈だったのか、少女は眠ってしまっていた。

 まだウツラウツラとしている少女を見て微笑むと、竜矢は森の中へと入っていく。一時間ほど歩くと、小川が流れている開けた場所に出た。


 更に周囲を調べると、小さな洞窟がある場所を発見した。

 中は動物が先客として利用中でも無いようだったので、ここを仮の住まいとして使うことにした。

 亜空間バッグから毛布を何枚か出すと床に敷き、そこに荷物を置く。


「まずは……この子の身体を洗ってやるか」


 少女はお世辞にも綺麗とは言えない状態だ。

 荷物から石鹸とタオルを取り出すと、竜矢は小川で身体を洗ってやるべく洞窟を後にする。

 その途中、少女が目を覚ました。


「ぅ……」

「お、今度はちゃんと起きたみたいだな。川で身体を洗ってやるよ、気持ちいいぞー」

「あぅ~? ……んぅ~……」

「ん? どした?」


 少女が腕の中でプルルッと身体を小さく震わせた。

 寒いのかな? そう思った時、何かが人型の腕を濡らしていった。


「え? ……あ、お漏らし……」

「ふゅ……おしっこ……」

「……今度から、漏らす前に言ってくれると嬉しいな~……」

「あぅ? わぅ~♪」


 分かっているのかいないのか、少女は嬉しそうな声を上げて竜矢を見つめた。

 竜矢は髪の間から覗いた少女の瞳が、右目が金色、左が銀色というオッドアイだという事に気が付いて少し驚く。

 しかし、今は身体を洗ってやる事が先決と、慌てて小川に向かうのだった。




「わふぅ~♪」

「こらこら、動くんじゃない。……いやぁ、この世界に石鹸があって良かったわ」


 小川で石鹸を使って少女の身体を洗うと、それはもう汚れがドンドン落ちていく。

 下流で利用するかも知れない動物たちに心の中で謝りながら、竜矢は洗い続ける。

 少女は水を浴びるのが気持ちいいのか、そんな事は全く気にしていないようだが。


(しっかし……ガリガリだな)


 骨と皮だけという表現がピッタリの身体を洗いながら、竜矢は老魔術師への怒りを感じていた。

 と、彼女の首に嵌ったままの首輪に目が行く。

 黒い大理石のような素材で出来たそれは、少女の身体には痛々しく見える代物だ。

 竜矢は脳の情報を調べ、これがロストパーツという物だという事を理解した。


(……こいつは嵌めた者の知性を低下させ、身体の自由を奪う。その上、対になっている指輪を嵌めた者へ、強制的に魔力を吸い取って与えてしまう……。って、なんつーろくでもない代物だ)


 老魔術師は両手に幾つもの指輪を嵌めていた。その内の一つがこの首輪の対になっていたのだろう。

 外してやりたい所だが、今の自分では勢い余って少女の身体を傷付けてしまいかねない。


 申し訳ないと思いつつ、魔力のコントロールを練習し、必ず外してやると誓う竜矢だった。

 そうこうしている内に、上半身を洗い終わると緊張で手を止めていた。


「あぅ~?」

「……むぅ……こ、ここも洗わないとマズイよなぁ……さっきお漏らししたし……」


 年端もいかぬとはいえ、少女は少女。

 まだ上半身の前面は耐えられたが、健全にして彼女居ない歴すなわち年齢の竜矢にとって、ここから先はある意味試練である。


「な、なるべく見ないように……ブッ!?」

「わぅ~♪」


 少女が急に川の中に仰向けで寝転んだ……足を広げて。

 見まいと思っていた所を水越しにとはいえ直視してしまい、頭に血が上り、心臓が一気に加速する。

 ちなみにこの小川の水はとても澄んでいて美しい。水底が見えるくらいに。


「ももも、餅を付け、オレ、いや、落ち着きたまえキミ。キミはロリコンじゃないだろ、そうだ、こんなもん地球なら、ネットでチョイチョイと検索すりゃー幾らでも出てくるじゃねーか。深呼吸して…………よし、さっさと終らせよう」


 目を閉じて、端から見たら危ない種類の人物に見られそうな感じで、自己暗示を掛けるようにブツブツと呟く。

 何とか平静を取り戻して目を開いた。


「んわぅ」

「ブガッ!?」


 身体を起こそうとした少女が、今度は四つん這いになっていた。

 なお、下半身が竜矢の方向を向いている。まっすぐに。

 色々と限界的なアングルに、竜矢は心の中で悲鳴を上げながら少女の身体を何とか洗い終わるのだった。


今回はちょっとコミカル色が強いですね。

ガンバレ、竜矢クンw


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