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16話:竜矢の策

新年あけまして、おめでとうございます!

何とか一日に更新できました。

今年もよろしくお願い申し上げます~。


 竜矢と共に妖精の一服亭に戻ってきた護衛団の面々は、ミルファルナの無事を確認して涙を流しながら喜び、自分たちの不甲斐なさを謝罪した。

 ミルファルナもそれで咎める事などせず、一行の生還を喜び、竜矢に改めて礼を言うのだった。


 ただ、この部屋はシェリカが一人で借りていたものなので、さほど広くはない。そこに二十人近く入っている為にかなり辛い事になっていたが。

 ちなみに、竜矢はいまだに白甲冑を着けたままである。


 余計に話が面倒になりそうだったので、ひとまず自分の正体を明かす事を先送りにしたのだった。

 そして、竜矢が集めた全ての情報を公開すると、全員が眉を寄せて難しい顔をしていた。


「……なるほど、ルーデン伯とダルゼットがな……。まさか二国同時の謀反とはやってくれる」


 ラディナは腕組みをして唇を噛んだ。

 彼女はパルフストとキドニアの内部がここまで危うい状態になっていた事に、王族として責任を感じていた。


 彼女はまだ国政に直接関与はしていないのであまり自分を責める必要は無いのだが、責任感の強い彼女にはそれが出来なかった。

 それはミルファルナも同様で、彼女もキドニア王家の至らなさを嘆いている。


 護衛団の面々も侍女たちも、それを察してはいるものの掛ける言葉が見つからず、彼女らをただ見つめるだけだった。

 そんな重い空気を払うように、竜矢が明るめの声で言う。


「まあ、俺の煽りが上手くいけば連中は二日後にやりあうだろ。この間に、それぞれの国に姫さん達を送り届けて、王都の軍を動かしてもらうんだ。まず謀反に荷担している貴族達を押さえて国内の反乱勢力の動きを封じる。それからルーデン、ダルゼットの討伐軍を送り込む。で、あいつらがドンパチやらかしてる戦場を背後から挟み撃ちにして、片付ける。俺が考えたのはこんな感じの策なんだが、どうかな?」


 竜矢の言葉に全員が目を向ける。

 これが、竜矢がラディナの言葉から思いついた事だった。手を組んでいた筈のルーデンとダルゼットを仲違いさせて戦わせ、その隙に王都の体勢を整えて一気に謀反を潰してしまおうというのだ。


 キドニアとパルフストを戦わせようとしていた、その二人の方を戦わせてしまおうという訳だ。ラディナが言っていた『意趣返し』の意味がこれであった。

 その策を聞き、不安を口にしたのはボアズだった。


「そう上手くいくだろうか? 幾つか不安な点があるのだが」


 近衛騎士団の団長であるボアズは優秀な軍人でもある。

 その視点から、四つの不安要素を指摘した。


 一つ目に、連中が互いに確認を取って竜矢の策が見破られる事。

 二つ目に、それぞれの国内の反乱勢力の詳細が分からない事。

 三つ目に、王都の軍を動かしても、国境まで移動させるには様々な準備を必要とする。二日では時間が足りない事。

 四つ目に、彼らが持っているロストパーツの事である。


 それに対して、竜矢の答えは……。


「まず、連中が連絡を取ったとしてもそれで策がばれる可能性は低いと考えてる。実際に暴れた謎の白甲冑がどちらの陣営にも居ないんだから『そんな奴は居ない、知らん、お前達の仕業だろう』となるのが予想出来る。それにかなり頭に血が上ってたからねぇ~、判断力も鈍ってると思うよ? ロストパーツの事もしっかり含ませたしね」


 竜矢はダルゼット達の顔を思い出し、笑いを堪えながら言った。

 事実、二人は互いへの連絡をしていない。ルーデンから聞き出した情報の中の、『ロストパーツの事は我々二人しか知らない』という情報を上手く生かしたのだった。


「二つ目は、ルーデンとダルゼットの事を全部、貴族達に暴露しちまえばいい。謀反が実行前に全てばれてしまったとなれば、謀反を無理にでも実行に移すか、逃げるか、許しを請うかのいずれかでしょ? そこで反乱勢力が連携を取りたくても、下手に動けば自分が謀反者だと目を付けられる状況を作り出すんだ。まぁ余程のバカじゃない限り、この時点で王の命令に逆らう奴は出ないと思うよ? むしろ、ルーデン達に罪を被せる為に協力的になるんじゃないかな」


「そうか……連携さえ出来なくすれば、それぞれの貴族私軍は孤立した少数の部隊に過ぎん。更に頭のルーデン達と連絡をする暇も与えなければ、動きたくても動けないという訳か……! 確かにその状態なら、王の命に逆らう奴は出まい。自分が怪しまれるだけだからな」


 ボアズが軍隊に例えて言うと、他の護衛隊メンバーも納得してしきりに頷いていた。

 竜矢はそのまま説明を続ける。


「三つ目だけど、これは……俺が手を貸す」

「リュウヤ様が?」


 ミルファルナが竜矢に聞いた。

 竜矢はそれに頷いて答える。


「転移魔術を使って、両国の軍を一気に連中の背後に転移させる」


 その言葉に、スーニアを除いた全員が驚いた。

 転移魔術とは、魔術式を刻み込んだ離れた場所を瞬間的に行き来する事が出来る魔術だ。


 神殿や王城などに魔術式を刻んだ一枚岩などが設置されており、その設備は国によって厳重に管理されている。地脈を通る大地の魔力を利用していて、見習い魔術師でも使う事が出来るという便利な代物だ。


 ただし、一度使う度に魔力を魔術式にチャージしなくてはならず、その時間も一ヶ月ほどもかかる為にそう気軽に使えるものでは無い。

 それに利用するには高額な料金を支払わなければならない為、主な利用者は王族や上級貴族、有力な豪商くらいで一般人が使う事は滅多にない。


 この魔術は魔術式を省いて行おうとするとその難易度は一気に跳ね上がる。本来そう容易く使える魔術ではない。相当な実力を持った上位魔術師でも、実行するには念入りな準備と体調の管理を必要とする上級魔術である。


 更に魔術式無しでこの魔術を行うには、術者本人が最低でも一度は行った事がある場所でなければ行く事は出来ないという制約があるのだ。

 一同が驚いたのは当然といえよう

 特に魔術に詳しいラディナや護衛団の魔術師たちの驚きはひとしおだった。

 ラディナが驚いたまま、慌てて竜矢に言った。


「い、いくら貴公でもそれは無理だ。王都の軍は両国それぞれ三万はいるのだぞ? それを……」

「俺なら出来る」


 きっぱりと言い切った竜矢を、ラディナは信じられない思いで見つめた。

 未だかつて、こんな無茶な魔術を出来ると断言した者も、実行した者もいない。

 いや、一人だけいた事をラディナは思い出した。


 魔術の師から聞いた昔話に、魔術大国ジュマルの建国に多大な功績を残したという伝説的な軍師、ガヤスラムという人物がいた。


 彼はある戦いにおいて転移魔術で一万の軍を転移させる事に成功し、主であるシャルベルの危機を救った。しかし、それによって彼は一年近く床に伏せる事になったという。


 もしも竜矢がこの転移魔術を成功させたなら、ガヤスラムを遥かに上回る偉業を成し遂げる事になるのだ。

 しかし、この策にはキドニアとパルフストの命運が掛かっていると言ってもいい。そう簡単に同意をするわけにはいかなかった。


「し、しかしだな、リュウヤ殿……」

「私は信じますよ」


 そんなラディナの言葉を遮ったのは、部屋の隅で大人しくしていたシェリカだった。

 彼女は全員にお茶を入れた後、両国の関係者という訳ではないので話に参加していなかったのだ。

 そんなシェリカが、にっこりと笑って言った。


「だってリュウヤさんは勇者様ですもの」

「ぶっ!?」


 竜矢は思わず吹き出した。

 甲冑の中身が中身なので茶を飲んではいなかったが、飲んでいたら隣にいたボアズの顔がお茶まみれになっていた事だろう。

 慌てて竜矢が否定しようとするが、それは間に合わなかった。


「いやいや、自分は勇……」

「私も信じますわ」

「ミル?」


 続いて、ミルファルナも竜矢を信じるとはっきりと言い切った。

 この二人は竜矢の正体を目の当たりにしている、だからこその言葉であった。


「マナルフィであるスーニア様を従えている……まさに勇者と呼ぶに相応しい、凄い事ですもの。そうですよね? スーニア様」

「うむ、否定はせん」


 スーニアは大仰に頷いて言った。

 その目が笑っているように見えたのは、竜矢だけである。

 この神獣は面白がっているのだ。


「良いではないか、勇者リュウヤ……中々良い響きじゃぞ?」

「スーニアさん、あなたはどちらの味方ですか?」


 げんなりした竜矢の声に、スーニア、シェリカ、ミルファルナの笑い声が静かに満ちる。

 場の雰囲気が一変し、穏やかな空気に包まれていった。


「神獣を従えるか……。確かに、勇者と言って差し支え無しだな。分かった、私も貴公を信じよう」


 そんな緊張感の欠けたやり取りに肩の力が抜けたのか、ラディナも微笑みながら言った。

 竜矢はがっくりと頭を垂れる。


「勘弁して下さい……。はあ、話し続けるよ。四つ目のロストパーツについては、ルーデンたちが戦闘を開始すれば間違いなく使うだろう。先に使われたら自分たちが危うくなるからね。どんな能力を持っているのかはその時に見極めて、対抗策を練る。手に負えない代物だったら……その時は俺が出張る」


 再び竜矢自身が動くと聞き、それまでむしろ大人しかったスーニアが少し焦りの混じった声を上げた。


「リュウヤ、大規模な転移魔術を使った後、二つのロストパーツを相手にしようというのか?」

「しゃーねーっしょ。結局正体が掴めなかったからな」

「……正直、わしは賛成しかねるぞ」


 スーニアは心配しているのだ。

 いくら竜矢自身がロストパーツと同レベルの強大な力を持っているとはいえ、前代未聞の転移魔術を、それも二国の軍を転移させるという事は最低二回行う事になる。その上で二つのロストパーツの力と戦おうというのだから。


 そんなスーニアの心を悟り、竜矢は側に行くとその頭を優しく撫でた。


「ありがとよスーニア、心配してくれて。なぁに、俺だって死ぬ積もりなんざこれぽっちもありゃしねーよ」

「……やめろと言っても、やめる主ではないのう……分かった。ただし、ロストパーツを相手にする時はわしも行くぞ」


「いや、それは……」

「行くからの」

「あの……」

「行くと言ったら行く」


 しばし見つめ合う竜矢とスーニア。

 金と銀の瞳が、何かを語るように黒い瞳を見る。

 今度は竜矢は折れる番だった。


「誰が何と言おうと、一緒に行くと言ったら行くのじゃ」

「分ーかった、分かったよ。その時は二人で行こうぜ、相棒」

「うむ、当然じゃ」


 伝説の神獣が人間の子供のように駄々をこねる。

 その場にいた者たちは、ただその光景を呆気に取られながら見つめていた。

 そして竜矢が立ち上がり、全員の顔を見回した。


「他に質問はあるかな? 無いならすぐに作戦実行だ。この策はスピードが命だからね。みんな、今夜は徹夜を覚悟しといてくれ。んじゃ、まずはミルファルナ姫さんたちをキドニアに送ろうか」


 それを聞いたボアズが途端に顔を強張らせた。


「リュウヤ殿……もしや、また空を飛ぶのか?」

「その積もりだけど? キドニアにもパルフストにも行った事ないから、転移魔術は使えないしね」


 竜矢の頭の中には大陸の地理的な事や、どの地方にどんな特徴があるか等は脳に入っているが、それらは結局知識として『知っている』だけだ。

 実際にその場に立ち、五感で感じ、体感する事が転移魔術には必要なのだ。


 だが、その言葉を聞いた一同は一斉に顔を曇らせた。

 というか、顔の上半分に縦線がびっしりと書き込まれたように暗い表情になっている。


「……他に方法は無い……のだな……。やむを得ん、か……」

「はぅぅぅぅ~~……」


「ボアズ殿、自分は自身がありません……」「わ、私も……」

「天国のお祖母ちゃん、私もそっちに行くかも……」

「バルアハガンよ、どうか我らにご加護を……」


 陰鬱な声と表情で、諦めやら覚悟やら祈りやらを口々に呟いている。

 どうやら空を飛んだ事が余程恐ろしかったらしい、軽くトラウマになっているようだ。

 竜矢は思わず苦笑しつつ聞いてみた。


「そんなに怖かったの?」

「何しろ、初めての経験だったのでな……だが、事態は一刻を争う。キドニアの諸君も、国を守るつわものとして覚悟を決められよ」

「……は、はいっ!」


 ラディナの言葉にボアズ達も顔を引き締め、背筋を伸ばして敬礼した。

 半分くらいは自棄になっているようにも見えるが。

 それを見て、シェリカが恐る恐るといった感じで発言した。


「あの~、スーニア様が乗せて送るのは駄目なんですか?」

「ああ、それならきっとみんな怖くなんてありませんわ。スーニア様の背はとても柔らかくて温かくて、森の上を飛ぶように走って……夢のような体験でしたもの」


 シェリカもミルファルナも、スーニアの背に乗って走った光景は一生忘れる事が出来ないであろう、素晴らしい体験だった。


 それを聞いて、一同は顔にささやかな期待を浮かべてスーニアを見る。

 何の支えも無しに空を高速で飛ぶよりは、そちらの方がまだ安心かつ魅力的に思えたからだ。乗馬などで動物の背に乗る事にも慣れている為、抵抗も少ない。


 まして伝説の神獣に乗る事が出来るなど、一生に一度のチャンスと言える。期待が膨らむのを誰が止められよう。

 しかし、現実は冷たかった。


「無理じゃな、わしが乗せられるのは二人が限度じゃ。それに竜矢が本気を出せば、わしの足でも追いすがる事すら出来んしの。諦めて竜矢と一緒に飛んでいくが良い。なに、失神するまでには国に帰れるじゃろ」


 スーニアの冷たい言葉に、ボアズ達は目に見えて気落ちする。

 頭の上にも縦線が書き込まれたかのようだ。

 そんな彼らを見て、竜矢は思う。


(失神て……俺はジェットコースターかよ? 途中で宙返りでもしてみたくなってきたな)


 何やら悪い笑みを甲冑の中でこっそりと浮かべる竜矢であった。



駄々っ子なスーニアちゃんは如何だったでしょうかw

いずれ、もっと可愛いらしい所を書いてあげたいです。


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