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13話:竜矢の悪巧み

竜矢は悪党には遠慮をしないタイプですw


「じゃあ脱出……の前にリーラさん、顔の傷見せて」

「え……あの……」


 牢からリーラを出した後、踵を返そうとした竜矢がまた振り返って言った。

 まだ竜矢に対して警戒心を拭いきれないリーラは、困ったようにラディナを見る。


「リュウヤ殿? 医術の心得がお有りなのか?」」

「術は術でも魔術だけどね。うん、大丈夫。これ位なら……」


 竜矢がリーラの腫れ上がった顔にそっと手を当て、治癒の魔術を使った。

 白い光がその手から放たれると、見る見るうちに腫れが引いていく。僅か数秒で、彼女の顔からは腫れも傷も綺麗に消え失せてしまっていた。


(ち、治癒魔術まで!? しかも呪文の詠唱だけならともかく、魔術式の体外展開も無しか……!)


 ラディナはまたも驚く事になった。こうも何度も驚いていればいい加減慣れてきそうなものだが、今度のは驚きのレベルが違う。


 呪文の詠唱は慣れてくれば心で唱えるだけで力を発揮する。魔術式の体外展開とは、体内で導いた魔力で構築した魔術式を、身体の外側に展開させる事だ。

 魔術式を体内のみで発生させて使うよりも格段に安定性や威力が上がる為、ほとんどの魔術師は簡単な術以外は体外に展開して術を行使するのが当たり前になっている。


 しかし、ラディナが驚いたのはその事だけではない。

 この世界の魔術は、地・水・火・風・くうの五大元素の魔力を使う元素魔術の他に、主に神官が扱う神聖魔術と、ルディヴァールを始めとする邪神を崇める者たちが使う邪神魔術に大別される。


 元素魔術は一人で一~二系統扱う者が主流で、三系統扱えればエリート、四系統扱えれば国家にスカウトされるようなレベルだ。

 五系統扱えた者は大陸の歴史上数えるほどしか存在しない。民衆を率いてソルガ帝国に反旗を翻し、ジュマル王国を建国した初代ジュマル王、シャルベルはその一人である。


 神聖魔術は神の力を借りて行う魔術とされ、修行を積んだ神官が使える魔術だ。主に治癒や魔物に対する浄化・防御的なものをメインとする魔術である。


 対する邪神魔術は邪神の力を借りて他者を傷付けたり、心を操って疑心暗鬼を誘ったり、呪いをかけた対象をゆっくりジワジワと死に至らしめたりするような、えげつない術を得意としている。魔術というより、呪術といった方が近いかも知れない。


 リュウヤが使った魔術のうち、不可視結界や飛行魔術は風に属する元素魔術だ。

 本来、元素魔術の使い手は神聖、邪神、どちらの魔術も使えない。逆もまたそうであり、神聖魔術師は元素と邪神、邪神魔術師は元素と神聖魔術を使う事は出来ない。それぞれの力の源が違うからだ。


 無理に使おうとすれば、身体に染み込んだ元々扱える魔術の力と反発を起こす。過去、それを試した魔術師たちも居たが、ある者は廃人となり、ある者は四肢が腐れ落ちるなどして例外なく心身共に多大なダメージを負った。


 もしも使える魔術師が居たとなれば、あらゆる国から引っ張りだこにされる事だろう。多少手荒な手段を使ってでも、手に入れようとしてもおかしくはない。

 竜矢はその貴重かつ、恐らくは世界で只一人の複数の魔術を扱える人間である事を知ったラディナは、何が何でも竜矢の事を知ろうと決意するのだった。


「よし、もう良いよ」

「あ……ありがとうございます……」

「っ……い、いえ、どういたしまして」


 顔を触って腫れが無くなった事を確認したリーラは、頬を染めて竜矢に礼を言った。気丈に見えても、顔に傷を付けられた事で気落ちしていたのだろう。

 感謝と感動で潤んだ瞳を向けられて、竜矢は慌ててそっぽを向く。


 彼はあまり感謝される事に慣れていない方だ。それがこんな美少女からとなれば照れてしまってしょうがないのだ。

 ぶっちゃければ、ウブな男なのである。


「さ、さあて、逃げようか。ここまで来りゃ、後はどうとでもなる」

「そうだな。出来れば謀反の証拠が少し欲しい所だが、私たちの証言だけでも十分だろう」


「気になるのは、ダルゼットとルーデンが手に入れたロストパーツ何だけど……。結局どんなもんなのか、掴みきれなかったなぁ」

「なに……? 何の事だ?」


 竜矢の言葉にラディナが眉をひそめる。


「ああ、知らなかったんだ。あの二人ロストパーツを手に入れていて、それが切り札らしいよ」

「ロストパーツを? そうか、奴めそんな切り札を持っていたか……」


 ラディナは迷った。

 ダルゼットが有している私軍は約千人ほどだ。王都に帰還してすぐに討伐軍を派遣すれば、体制が整っていない今ならば鎮圧する事は難しく無い。


 しかし、既に有力貴族たちの半数はこの謀反に荷担している。誰が協力者なのかが分からないのは大きな不安要素だ。おまけに謎のロストパーツの存在まで考えなければならなくなった。


 協力の証となるような物的証拠……例えば連盟の血判状などがあれば、謀反者たちが動く前に一気に押さえる事も出来るが、現状では難しいだろう。


「……リュウヤ殿、貴公を信じて我が国の現状をお話しする。これから話す事は他言無用に願いたい。リーラもよいな?」

「あ、ああ」

「はっ、はい」


 ラディナは自国の有力貴族たちの内、半数がダルゼットに与している事を竜矢に告げた。横で聞いていたリーラは顔面蒼白となっている。


「う~ん、国内の反乱分子たちと連携されると厄介って事か。ロストパーツの事もあるしなぁ」


「うむ。反乱分子の方はダルゼットさえ倒せば、一時的にだろうが大人しくなるだろう。今までジッと機を待っていた連中だ、ヤケを起こしていきなり反乱を起こすとも思えん。上手くダルゼットを押さえる事が出来れば後で対処する事も可能だと思うが、ロストパーツは危険すぎる。せめてどんな力を持ったロストパーツなのかが分かればいいのだが……」

「ふ~む……」


 竜矢は腕を組んでじっと考え込む。

 今ラディナに明かされた事は、そのままミルファルナのキドニア王国にも共通する事だ。


「出来る事なら双方の謀反の証拠を掴み、ロストパーツの正体を知る事が出来ればベスト、か……」


 自分の力を使えば、ダルゼットにしてもルーデンにしても簡単に倒す事が出来る。だが、竜矢はなるべくならそうはしたくなかった。

 竜矢はこう考えているのだ。


『この力は努力で手に入れたものじゃ無い。これを自分の感情にまかせて使ってしまったら、俺は堕落しかねない』、と。


 自分を召喚した魔術師との戦いで暴発した自身の強大な魔力。あの時は制御もろくに出来なかった為に周囲一体を粉々に吹き飛ばしてしまった。


 そして、それから制御が出来るようになるにつれて分かった事があった。自分がフルパワーを出したらあの時の数倍、あるいは数十倍の力を発揮する事も可能なのだと。

 制御できるという事は、魔力を効率よく扱える事を意味する。自然と魔術もパワーアップするのだ。


 下手をすれば、自分の魔力で自分を滅ぼしかねない。今や大切な存在となった相棒のスーニアを巻き添えにしてしまう事もあるかも知れない。

 そう思うと、不用意に自分の力を振るう事に躊躇ってしまうのだ。


「いっそダルゼットとルーデンとやらがやり合って、双方自滅でもしてくれれば有り難いがな……。いや、すまない、今こんな事を言ってもすぐに解決策など出る筈もないな。とにかく脱出し……」

「ん……? それだ!」


 ラディナの希望的観測な呟きに、竜矢が顔を上げた。


「な、何だ?」

「い~いこと思いついたよ、ちょっと耳貸して……」


 竜矢が二人を手招きして、顔を寄せ合ってボソボソと思いついたいい事を教える。

 話し終わって顔が離れると、ラディナの顔には何やら悪い笑顔が浮かんでいた。


「それが上手くいけば、私たちにとってはこの上もない意趣返しだな。……ククッ、貴公、中々あくどい事を考えるな」

「あくどいはヒデーなぁ、まぁ、否定はしねーけど」


 肩を小刻みに振るわせて笑うラディナと竜矢を見て、内心で冷や汗をかきながら身震いするリーラであった


「そ、それで、具体的にどうするんですか?」


 リーラが話の先を促した。時間が無い事に変化はないのだから、急ぐに越した事はない。


「そうだな、紙とペンでもあれば……。お、あったあった」


 牢の通路の手前、降りてきた階段の横に小さな机があった。

 牢の番人が使う物なのだろう、机の上には日報用の書類と、ペンが何本か転がっている。竜矢はそれを使って、何やら文字を書き込み始めた。


「ん~っと……………………。こんなもんで、どう?」


 書き終わった書類を見せられて、ラディナとリーラは吹き出して大笑いしそうになるのを必死に堪える事になった。


「クッ、こ、これは……、け、傑作、だ、な……! ク、クククッ……!」

「こ、これなら……ププッ、ぜ、絶対上手く、いきますよ……!」

「おっしゃ、決まりだ」


 竜矢はその紙を持って、リーラが入れられていた牢の中に戻っていった。

 半地下になっているこの牢の上部には鉄格子の嵌った小さな窓があり、そこから月明かりが差し込んでいる。

 竜矢はその窓のある壁際まで行くと、ラディナたちに振り返って言った。


「それじゃあ脱出だ。二人とも、耳を塞いでいて」


 顔に疑問を浮かべながらも、言われるままに耳を両手で塞いだ二人を確認して竜矢は腰の横に右拳を構えた。


 その拳から、赤い光が放たれる。

 ラディナには、それが強力な破壊の力を込めた魔術である事が分かった。


「おおらぁっ!!」


 雄叫びと共に放たれた拳は、牢の壁に大穴を穿つのだった。



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