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12話:双剣姫の初体験

お姫様って、究極の箱入り娘ですよね。

知識とか免疫とか全然無いと思うw


 竜矢とラディナはそれぞれ自分に不可視結界を張った後、尖塔の独房を抜け出した。

 ちなみに、竜矢は普通に歩くと鎧がこすれて金属音が出てしまうので、微妙に宙に浮いて移動している。音を遮断する遮音結界も張る事は出来るが、会話も出来なくなるので避けた。


 互いの姿は見えないが、気配で位置は掴めるのでさほど問題にはならない。

 途中にあった扉は全てダルゼットが開けたままにしていたらしく、何事も無く外に出る事が出来たが、流石に尖塔最下部の扉の前には見張りの兵士が二人立っていた。

 二人は小声で話しあう。


『リュウヤ殿、貴公はどうやって入ったのだ?』

『あー、それは後で話すよ、きっと驚くだろうから。こいつらは……面倒だ、眠らせよう』


 ここで自分の身体の事を話したらショックが大きいと判断した竜矢は、見張りを眠らせてしまう事にした。

 竜矢は静かに扉に近付いて、兵士達がいる位置に合わせて扉に両手を密着させた。


「ふっ!」

「がっ!」「ばっ!」


 竜矢が一瞬の呼気を吐き、その体が僅かに沈み込んだように動いた。

 その途端、二人の兵士は見えない力に弾かれたように身を飛ばされ、反対側の壁に当たって気を失ってしまったのだ。


『おっし』

『え? い、今なにを……?』

『発勁……っても通じないか、ディルワナ国の武僧が使っている古武術の技だよ』

『ディルワナ……だと……』


 ラディナはまたも驚く事になる。

 ディルワナ国とはソルガルド帝国の北東に位置する、北国の事である。


 この世界で武を司る神として崇拝されているディルワルド神の神殿があり、この宗派の総本山となっている。人間が住むには少々過酷な環境なのだが、武を追い求めるストイックな者たちが集まって自然と形成された宗教国家だ。


 規模としてはかなり小さい国だが国民の殆どが伝来の武術を学んでおり、一人一人の単純な強さは半端ではない。高位の武僧ともなれば、ソルガルドの騎士団とも素手で互角に渡り合うとさえいわれている猛者揃いだ。


 神殿に仕え、心身と武を磨く武僧たちはディルワルド神の『その力は弱者救済の為に振るわれるものである』という教えに忠実に従い、戦争などには直接的には介入しない事になっている。


 表面上は中立国だが、いざ他国で戦争が起こって難民などが来た場合は武力をもってこれを保護する為、大国といえども容易には手は出せない。更に国の回りには大きな森や険しい岩山があり、天然の要害となっている。


 ソルガルド帝国にしてみれば目の上のこぶに近い、厄介な国なのだ。

 竜矢が使ったのはディルワナの武僧が使う技法の一つであり、地球の拳法でいう発勁に相当するものだ。


 しかし、この世界では魔術という強力な力がある関係上、徒手で戦う場面はあまり無い。武術といえば、戦争で使われる剣や槍などを使った武器術がメインである。


 ラディナが驚いたのは、ディルワナの武術は門外不出とされたものだからだ。徒手でも騎士と互角の力を発揮するその技は、ディルワナ国によって厳重に管理され、その技が国外で使われた事はあまり無い。


 故に、ディルワナの武術は幻とまで呼ばれる事があるほど、滅多にお目にかかれるようなものではないのである。


(上位魔術を容易く使い、格闘術はディルワナの技を使うとは……! だが、ディルワナの武術は打突系が中心で、先ほど彼が使ったのは投げ技だったな……。まさかこの男、他にも色々マスターしているのか?)


 地球のエンターメント性に満ちたプロレス技とは露知らず、竜矢への感心をますます深めるラディナであった。


 そんなラディナの横を通り、竜矢は扉を開けて外に出る。ラディナも慌てて後を追った。

 二人は見張りを自分たちが来た通路に放り込むと、彼らが持っていた鍵で扉を施錠した。これで暫く時間が稼げるだろう。


『これでよしと、行こうか』

『うむ』


 進んでいくと、屋敷内はルーデンの屋敷と同様に兵士たちで溢れていた。国の乗っ取り計画は着々と進んでいるようだ。

 やはり、音と光を遮断する小さな魔術式があちこちに描かれている。外の人間たちには静寂に包まれた屋敷にしか見えないだろう。


(……これでは身動きが取れんな……)


 ラディナは心の中で舌打ちした。

 兵士たちが慌ただしく動き回っている為、姿を消しているとはいえ、うっかりぶつかりでもしたら脱走がばれてしまいかねないのだ。


『どうしたものかな』

『ん~……グズグズしてらんないし、一気に抜けるか』

『……どうやってだ?』


 ラディナは竜矢がまた何かやってくれるのかと期待した目で見つめる。

 それに気付いたかは分からないが、竜矢は彼女の側に密着するように近付いた。


『ちょっと失礼するよ』

『リュ、リュウヤ殿?』


 いきなり竜矢の腕が触れた事に、ラディナの身体が緊張する。

 構わずに、竜矢はラディナの身体を持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこという奴だ。

 軽々と自分を持ち上げられて、ラディナは自然と頬を染めてしまう。


『な、な、何を……』

『しっかり捕まってて』


 そう言うと、竜矢は宙に浮かび始めた。

 天井近くに辿り着くと、身体を水平にして飛行を開始した。


『ヒッ……!』

『大丈夫、ジッとしてて』


 間近でそっと囁かれ、言われるままに竜矢の首に回した両腕に力を込めるラディナ。


(ひ、飛行魔術まで……! それもこんなに速く……信じられん……!)


 竜矢は驚くラディナを抱きしめ、人が走るよりやや遅い程度の速度で天井スレスレを滑るように飛んでいく。無駄に金をかけたシャンデリアや装飾の施された柱をすり抜けて、あっという間に地下牢への入り口に辿り着いてしまった。


『着いたよ、ここだ』

『う、うむ……』


 降ろされたラディナは俯き加減で返事をした。勿論姿は見えないのだが、見えたら竜矢は目を奪われていたかも知れない。

 顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっていたからだ。


(ち、父上以外の男に抱き上げられたなど、初めてだ……)


 ラディナには兄姉などはおらず一人っ子である。まして一国の姫であるラディナにとって、身近な異性と言えば王である父親くらいなものだ。近衛の親衛隊や魔術の師は男性だが、当然のように身体に触れられた事など無い。


 むしろ触れでもしたら無礼な事をした、という事で厳罰は免れないだろう。下手をすれば極刑すらも有り得るのだから。


 ラディナはどちらかというと、古い英雄物語や騎士と姫の悲恋物語などを聞いても、ヒロインよりも相手の男の方に感情移入してしまうタイプだ。それが男勝りの原因の一つとなったのだが、それでも年頃の娘である事に変わりはない。


 まさか自分がその物語の中の、ヒロインのように抱き上げられてしまうなど夢にも思っていなかったのだ。

 いわゆる初体験という奴に、自然と動揺してしまっていた。


(ど、どうしたのだ私は? 妙に顔が熱いし、鼓動が早くなっているし、息も少し乱れている……。何か病にでもかかってしまったのか?)


 予想外の事がもたらした自分自身の変化に、少々パニクっている。

 色々と免疫がない為か、自己分析がちょっとずれているのは致し方ない事だろう。


『見張りが二人居るなぁ……また眠らせるか』

『そ、そうだな。一人は私がやろう』


 ともあれ二人はこっそりと見張りに近付いて、竜矢の方は首筋に手刀を一閃させてその意識を刈り取った。だが、ラディナの方は軽く力を入れた“つもり”の拳をモロに鳩尾に叩き込んだ。


「げ……は……っ」


 兵士は胃の中の物を全て吐き出した後、その上に顔面からくずおれた。床の上で涙と鼻水、更によだれと吐瀉物まみれで暫くピクピク悶絶して、その内に気を失って動かなくなった。

 竜矢の背筋に冷や汗が流れる。


『ちょ、ちょっとやり過ぎじゃ……』

『そ、そんな事はないさ。腐ったりとはいえパルフストの兵だ、この位でどうにかなるほどヤワではない……筈だ。うん、大丈夫だ』

『そ、そっか……。まぁ、とにかく行こう』


 あまりの哀れさに、心の中で名も知らぬ兵士に合掌する竜矢だった。

 兵士の腰に付いていた鍵を使って音のしないようにそっと扉を開けると、薄暗い空間が広がっていた。少し下った階段があり、そこを降りると鉄格子が嵌められた牢が並んでいた。

 その内の一つに、女性が一人閉じ込められていた。


「リーラ!」

「えっ……ひ、姫様!?」


 足に鉄球のついた鎖を嵌められた女性は、自分の名前を呼ばれて弾かれたようにその顔を上げた。

 彼女はラディナと同い年の十七才で、明るい茶色の髪を長めのセミロングに伸ばし、それを夜会巻きにしてまとめている。


 一国の姫に付く侍女だけあって、整った顔立ちをした美しい美少女だ。

 だが、誰かに殴られでもしたのか、その顔の左側は酷く腫れ上がっていた。内出血を起こして青くなった頬が痛々しい。


「リーラ……っ! 待っていろ、今開け……」

「来ないで下さい、姫様」


 リーラは鉄球を引きずりながら、牢の奥へと後ずさっていく。

 その目には、涙が浮かんでいた。


「リーラ? どうしたのだ、助けに来たのだ。一緒に逃げるぞ」

「わ、私は……、我が身可愛さに姫様をこのような目に会わせてしまいました。仕える者として失格でございます。どうかお見捨て下さい、姫様は一刻も早くお逃げ下さい」


「何を言っているリーラ、私は気にしてなどおらん! お前は何も悪くない、仕方がなかったのだ」


「いいえ、私はこの身を盾にしてでも、姫様をお守りしなければならなかったのです。それが出来なかった私には、もう生きている資格すらありません。それに私が一緒では足手纏いになるだけです。どうか、早く……」

「リーラっ……!」


 彼女は普段から、もしもラディナの身に危険が迫れば身を挺してでもお守りしようと思っていた。だが実際に事件が起きて自分の背中に刃物を押しつけられた時、そんな事を考える余裕は消え去っていた。


 恐怖心から言われるままに悪漢たちの命令に従ってしまい、自分が人質に取られたが為にラディナを危険に晒してしまった。その事でずっと自分を責めていたのだろう。

 その上こんな地下牢に閉じ込められ、彼女の精神はどんどんネガティブな方面に追い詰められてしまったのだ。


 暫く押し問答をしていたが、彼女の意志は固く、聞き入れる様子はなかった。

 そんな状況に痺れを切らした竜矢が口を開いた。


「えーと、リーラさん? 君がここでワガママ言ってると、ラディナ姫は絶対に逃げないと思うよ?」

「えっ……。あ、あなたは……?」


 リーラが驚いて身をすくませる。

 今までラディナの影になっていた為に、竜矢の姿に気が付かなかったのだ。


「リーラ、彼は私を助けてくれたリュウヤ殿だ、私よりもずっと強い御仁だぞ?」

「姫様よりも……?」


 リーラは驚いた。

 双剣姫ラディナの強さはパルフスト王国最強と言っても良いほどのものだ。身近に仕えていた自分はそれをよく知っている。

 そのラディナの口から自分よりも強いと言われた白甲冑を、リーラは涙を拭いながら見つめた。


「大丈夫だ、きっと逃げられる。お前の事は私が守る、だから何も心配するな。……全て終ったら、またテラスで一緒にお茶を飲み、私の話し相手になってくれ」


 優しく諭すように言うラディナの言葉に、ようやくリーラは首を縦に振ったのだった。

 後悔の涙を、自分を大切に思ってくれる姫への喜びの涙に変えながら。



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