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11話:双剣姫と白甲冑

時間とか距離とか詳しく計算はしておりません、深く突っ込まないで下さいw



「え……?」


 視界から急に消えたダルゼットに代わり、ラディナの眼前に立っていたのは雪のように白い甲冑。


 さっきまで部屋の片隅にあった、飾りだった筈のフルプレートアーマーだった。

 それがダルゼットを蹴り飛ばし、驚いて呆然としているラディナを通り過ぎて追撃をかけていた。


「続いてデスバレーボォォム!!」

「げべへっ!」

「更にツームストンパイルドライバー!!」

「ごばらっ!」


 肩に担ぎ上げて頭から落としたり、頭を足に挟んで落下させたりと派手にダルゼットを痛めつける白甲冑。

 ダルゼットにとって不幸だったのは、侵入者などいる筈がないと高をくくり、この尖塔に上る時には誰も来ないように兵士達に言いつけていた事だ。


 ラディナに対し色々とするつもりで邪魔が入らないようにしていたのだが、それが裏目に出た。ダルゼットは助けが来るどころか、誰にも気付かれずにひたすら攻撃をされる羽目になったのだ。


 とうとう仰向けに倒れて気を失ったダルゼットに、覆い被さるようにして押さえ込んだ白甲冑はラディナに向かって叫んだ。


「レフリー! カウント!」

「な、何? カウント?」

「ワン、ツー、スリーと、三つ数えるんだ!」


 急に声をかけられた上に意味不明の事を言われて狼狽えるラディナだが、勢いに押されて三つ数えた。疑問系で。


「ワ、ワン? ツー? スリー?」

「おっしゃあ! グランプリ優勝決定ー!」


 ダルゼットを片足で踏みつけながら高々と拳を突き上げ、意気揚々と勝利宣言する白甲冑。


 ゴングの音が鳴り響き、何処からともなくスポットライトが浴びせられる。無数の歓声と大量の紙吹雪や紙テープが舞い、彼の勝利を祝う。

 感無量になった白甲冑は、そのまま動きを止めて勝利の余韻に浸っている。


「あ……あの……」

「はっ」


 ラディナの遠慮がちな声で、ようやくそんな脳内幻想から目覚めた白甲冑だった。


「し、しまった。腹が立ちすぎてついプチ切れてしまった……」

「その……大丈夫か?」

「大丈夫です、落ち着きました。だからそんな目で見ないで下さい……」


 ラディナは心配して見つめたのだが、何だか『痛い奴』として見られているような気がして白甲冑は頭を抱える。

 そんな彼を見て、落ち着いてきたラディナが質問した。


「……貴公は何者だ? パルフストの者か? 一体、どうやってこの部屋に……」

「いや、俺の名前は竜矢っていって……えーと、詳しい事は後で話すとして」


 そう、白甲冑の中身は竜矢だったのだ。

 彼はルーデンからダルゼットの居場所を聞くと一旦屋敷を抜ける事にした。念の為に地下牢の護衛騎士達には身を守る防御結界をこっそり張っておき、全速力で移動を開始した。


 この世界の地理は知識として脳にインプットされているので、何ら問題なくダルゼットの領地へと到着し、その屋敷へと忍び込んだのである。


 ルーデンとダルゼットの屋敷は共に国境近くに建っているが、早馬を飛ばしても二時間はかかる距離がある。

 それをものの数分で移動した竜矢の速度は、亜音速に近い。

 桁外れの魔力を持つ竜矢だからこそ出来る芸当であった。


「旅をしてたんだけど、その途中でたまたまミルファルナ姫を助けたんだ」

「なに!? ミ、ミルは無事なのか!?」

「大丈夫、ピンピンしてるよ」


 安堵のため息をつき、ラディナの身体から力が抜けた。


「そ、そうか……ミルは無事だったか……!」

「ああ。ミルファルナ姫だけじゃなく、ラディナ姫もさらわれたって情報を得てね。急遽駆けつけたって訳なんだ。とにかく脱出を……」

「ま、待ってくれ! まだリーラが、私の侍女が一人捉えられているんだ!」


 詰め寄ったラディナを落ち着かせるように、竜矢は彼女の肩に手を置いて静かに言った。


「分かってる、見捨てたりしねーよ。ダルゼットの記憶を読んで、居場所を突き止める」

「記憶を……? 貴公、魔術師だったのか?」

「ああ、まあね」


 気を失ったままのダルゼットに近寄ると、竜矢はその額に手を当てた。その接触部から赤く、淡い光が放たれる。


「……『記憶探りし隠者の手』……!」

「!?」


 竜矢の言葉にラディナは驚いた。

 『記憶探りし隠者の手』は、他者の記憶を探る事に特化した強力な探査魔術だ。


 かつてのソルガ帝国の時代に生み出され、捕虜から情報を得る際に使われた魔術とされている。しかし、戦乱の時代が終るとその習得の難しさから使われる事はほとんど無くなり、今では魔術大国ジュマルの上位魔術師でも数えるほどしか使える者は居ないという。


 それを習得しているこの竜矢という人物は一体何者なのか、ジュマルで修行を積んだ凄腕の魔術師なのか。

 ラディナは内心で警戒心を抱いたが、今は彼に頼るしかないと思い直してひとまず内心を悟られないように気を付ける事にした。


「……よし、分かったよ。ここの地下牢だ」

「そうか……。ならば何とかリーラを助けて王都へ連れて行ってやってくれ。私はここから動けないのでな」

「えっ? あ、もしかしてその首輪の?」


 ラディナは『強制のリング』の事を竜矢に説明した。どうやらこれを外す事が出来るのは、使用者であるダルゼットだけらしい。

 説明を聞いた竜矢が試しにダルゼットの指輪を取って命令の取り消しを命じてみたが、受け付けなかった。


「じゃあ、しょうがないなあ」

「うむ、だから貴公はリー」

「ぶっ壊そう」


 竜矢はそう言うと、首輪にそっと手を触れる。

 パンッと軽い音がして、首輪が粉々にはじけ飛んだ。


「ラと一緒に……え?」

「壊したよ、もう大丈夫でしょ?」


 呆気に取られたラディナが首に手をやると、確かに首輪が無い。床の上には首輪の残骸が散らばっている。


 ロストパーツであるこの首輪はそう簡単に壊れる事はない。通常の剣などでは傷一つ付けられない、正体不明の素材で出来ている。

 それをダルゼットから自慢気に聞かされていたラディナは、呆然と呟いた。


「な……ど、どうやったのだ? これはロストパーツだぞ? それをいとも容易く……」

「ああ、そいつが押さえる事の出来る魔力の許容量を越える魔力を、一気に注ぎ込んだだけだよ。万一姫様の身体が傷付かないようにちゃんと結界張っといたから、痛くなかったでしょ?」


 あっさりという竜矢に、ラディナは唖然とする。

 彼女も竜矢と同じように、自身の魔力で首輪の破壊を試みた事があったのだ。


 ラディナは魔術の才に長けており、その魔力は並みの魔術師数十人分に相当する。魔術の師である宮廷魔術師に太鼓判を押されたほどの力の持ち主だ。

 その彼女が限界まで魔力を注ぎ込んでも、首輪はびくともしなかったというのに。


(け、桁が違う……!)


 自分を上回る魔術師など、師以外で会った事が無いラディナは、警戒心の他に少々の恐怖心も抱いた。

 そして、それ以上に尊敬の念を抱いたのだった。


(声からすれば私とさほど歳は変わらないようだが、この若さでこの力……! それに、さっきの技も見た事もないものばかりだった。魔術だけではなく、恐らくは格闘術も達人クラス……。もっと知りたくなったぞ、この男の事を……!)


「さてと、リーラさんを助けに行こうか。不可視結界を張って行こう」

「ああ、私もそれ位の魔術ならば使える。急ごう……っと、その前に……」

「?」


 ラディナは倒れたままのダルゼットの方に行くと、ベッドのシーツやカーテンでグルグル巻いて彼をす巻き状にした。念の為に縛り上げておくのだ。

 それが終ると、ラディナはいきなり渾身の正拳突きをダルゼットの顔面にめり込ませた。


「ぴぎゃっ!」


 竜矢には彼女の拳が顔に完全に埋もれてしまったように見えた。……というか、実際に顔面が少し陥没しているように見える。

 鼻の骨が折れる激痛で目を覚ましたが、すぐに痛みで再び気絶したダルゼットだった。

 自業自得だが、悲惨である。


「ふ、少しすっきりしたわ。よし、行こう!」

「はい、行きましょう。姫様」

「……ん? どうした? 何だか口調がさっきまでと違うぞ?」

「何でもありません、ささ、参りましょう」


 思わず敬語になってしまう竜矢であった。



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