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美しい山山に囲まれた本州の中心部
自然豊かな山国は二十九の百名山があり日本の屋根と呼ばれている
東京駅から新幹線で一時間半前後
盆地特有故か、掃き出し窓の硝子越しから盗み見る
庭先の桜の木は未だ咲く気配はなかった
下手すると四月でも雪が降るらしい
「氷の女王」の御両親は
「氷の女王」の御両親とは思えぬ、何とも物腰柔らかな御夫婦だった
「疲れたでしょう」
「寒かったでしょう」と、優し気な笑顔を向ける
彼女の母親に促がされるまま挨拶も其処其処、居間へと案内された
然うして
将来、義理の父親と成り得る男性と向かい合う
炬燵机の上、八朔の入った果物籠を凝視し続ける自分がいる
将来、義理の母親と成り得る女性と共に台所に立つ彼女が
「東京銘菓云云」と、手土産を切っ掛けに蘊蓄 設定に突入した事に
軽度の絶望を覚えつつも「今か今か」と待ち侘びる
「一秒」が途轍もなく、長い
到頭、炬燵から這い出る義父の姿に罪悪感が湧く
一社会人として物事を円滑に運ぶ為
学んだ伊呂波が事此処(彼女実家)に至っては無意味だ
熟、項垂れる
自分に見向きもせず立ち上がる義父は居間を出て行くのだろう
愈愈、自室か
将又、御手洗か
否否、義母と彼女が会話に花を咲かせる「台所」だろう
良いさ良いさ
自分だけ「独りぼっち」で好い気味だ
等と自棄糞半分、鼻を啜るも
座敷に腰を下ろす義父に気付き、何事かと顔を上げた途端
「「娘」をよろしくお願いします」
座礼をする、其の姿に驚きながらも炬燵から飛び出す
大慌てで義父に向かい合い正座した瞬間、頭に浮かぶ
「男は度胸、女は愛嬌」
「!陰間は最強!」冗談にも宣う自分に
「坊主は御経」と、呆れた口調で切替する彼女との会話
「男は度胸」も何も此処迄してくれた義父に感謝此の上ない
背筋を伸ばした直後、最敬礼所か座敷に額を押し付けて声を張り上げる
「!!「娘」さんを僕にください!!」
食堂から窺っているのか
義母の「あらあら」と、鈴を転がすような笑い声が聞こえてくる
直ぐ様、勢い良く(何故?)居間に駆け込む
彼女が隣に正座するなり自分同様、義父に向かい深深と頭を下げた
任務完了(なのか?!)
肩を並べ「結婚の挨拶」をした結果、義父が改めて述べる
「不束な娘ですが、よろしくお願いします」
一層、額を座敷に擦り付ける自分の手に彼女が其の手を重ねた
正直、胸が一杯だ
正直、胸が一杯で何も言えない
其れでも言うんだ
「必ず、幸せにします」と、言うんだ
突如、居間に鳴り渡る撮影音
不思議顔を上げる三人に携帯電話片手に構える義母が和やかに訊ねた
「(SNSに)上げて、良い?」
当然、三人の返事は「NO」だ