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おじさん募集中  作者: しいな ここみ
第二章:笑えるおじさん
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笑えるおじさん Part2

 明治時代に建てられた古い屋敷がはなさんの家だ。

 私は木の扉を潜ると、縁側で緑茶を楽しんでいる彼女の隣になるべく大きな音を立てて座り、買って来た茶せんをそっと手渡すと、怖い顔をして言った。


「はなさん」


「はい」

 彼女はにっこりと振り向いた。


 眩しい。もうすぐ夕方だというのに朝の逆光を浴びるように眩しい。

 決して凄い美人というわけではない。私の好みからも外れている。髪も青い。それなのにこれほどまでにはなさんに引かれる理由が自分でもわからない。わからなくてもいいような気もする。


 私は聞いた。

「花屋の先の看板、見ました」


「ああ」

 と、はなさんは『Twitterのつぶやき見ました』と言われた程度の反応で、

「楽しそうでしょ?」


「どういうことですか?」

 私は食い下がった。

「もう私に飽きてしまったんですか? まだ大してわかり合ってもいないうちに」


「どういうこと?」

 はなさんが丸くした唇に指をあて、首を傾げる。


「私に心を許してくれたじゃないですか! それなのに、もう他のおじさんを募集するだなんて……!」


「はなさんはあなたに、はなさんのことを知ってもいいと言っただけですよ?」

 そう言ってはなさんは心底不思議がる表情で私を見た。

「それだけなんですが……。何か……」


 私は思い知った。

 はなさんは私のことを好きなわけではないのだ。

 一緒に住んでいながら、彼女が好きなのは私ではないのだ。

 きっと……


「はなさんは……、おじさんが、好きなんですか?」


「はい!」

 大好きなものを語るひとの顔で笑った。

「はなさんはおじさんが大好きなんです。それも歳だけ重ねて、まだ何者にもなってないようなおじさんが。若い子が可能性に満ちあふれているのは当たり前のことですけど、おじさんが可能性に満ちあふれているのを見るのはとても心をくすぐられます。そういうのを見るのが大好きなんです。だらしなく出たお腹とか、皺が寄った目元とかで、重そうな体を引きずりながら、ちょっと動いただけでハァハァ息を荒くしながら、あくまでも新しい自分を追い求める、そんなおじさんが、はなさんは大好きなんですよ」


 私は言葉を失った。


 結婚適齢期を過ぎた女性はすべて、自分をしっかりと確立した、頼れる男が好きなのだと思っていた。あるいは逆に、少年性を残す若い子のことを好むのだと。


 はなさんは、いい歳をして未だ何者にもなっていないおじさんが好きなのだ。


 そうだったのだ。


 私はデキるおじさんになってしまった。だから私のことにはもう興味がないのだ。

 あるいは自分が育てた完成品として、コレクションとして側に置いておきたいだけなのかもしれない。


 しかし、まだチャンスはある。

 私は自分に絶望的にユーモアのセンスがないことを知っていた。


 前回の『デキるおじさん』に応募したのは私1人だったが、今回は何人かやって来そうな気がする。


『笑えるおじさん』という表現は幅広いと思った。『デキるおじさん』は何がデキるのかの解釈は幅広くても、有能なおじさんでなければならない。しかし『笑えるおじさん』は、ギャグの天才的なおじさんでも、見た目がぶさいくすぎて思わず笑われてしまうようなおじさんでも、あるいは何を見ても笑えるようなピュアなおじさんでも、単に笑うことが出来るおじさんでも、なんでもいいのだ。


「私も参加します!」

 私は縁側を叩き、宣言した。

「私も『笑えるおじさん』に応募します!」


「あら。なんで? あなたはもうデキるおじさんなのに……」


「しかし私はあなたを大笑いさせたことがない!」

 私は声に力をこめた。

「腹を抱えてあなたが大笑いするような、そういうギャグもデキるようなおじさんに、私はなりたいのです!」





 応募者はその日早速やって来た。

 意外に少なく、2人だけだった。


「はいはーい! 笑えるおじさんでっせぇー! 見事あなたのこと笑わせてみせまひょ!」

 40代前半といったところだろうか。今まで見たどのドラマや映画の『西遊記』の猪八戒よりもイメージにぴったりな、太ったおっさんが明るい大声で自己紹介した。

千代田ちよだ八郎はちろう言います~。よろしゅうお願いします~」


 関西弁だがなんとなくニセ関西弁のように思えた。それで私は聞いてみた。


「ご出身はどちらですか?」


「岡山です~」


 やっぱりだった。


 もう1人は50代半ばといった感じで、とても陰鬱な顔をした肌の黒い、背の高いおじさんだった。笑えるというよりは、どう見ても誰からも怖がられそうな。


馬場ばば安則やすのりです」

 彼は呟くような声で自己紹介した。

「どうぞよろしくお願いします」


 はなさんが私を紹介してくれた。

「こちらは工藤くどう大介だいすけさん」

 はなさんが初めて私を名前で呼んでくれた。記念日となった。

「工藤さんは何でもデキるおじさんです。まるでフローネのお父さんみたいなんですよ~」


『フローネのお父さん』がわからない目をして、3人のおじさんはそれぞれ無言でうなずいた。


「何でもデキる言うことは……」

 猪八戒が私を侮る目つきで見て、ニヤリと笑った。

「よっぽどのギャグ、かましてくれますのんやろなぁ~。そうは見えまへんけどなぁ~」


 私は何も言えなかった。

 はなさんのほうを見、何をすればいいのか指示をただ待った。



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