炎上
イフリートが放った大爆発にて部屋一面が煙で覆われ、視界が遮られる。
その部屋でただ三神 オルガナイザの叫び声だけが響いていた。
徐々に視界は回復し、オルガナイザは体の半分以上を失っていた。
正確にはその「存在」自体を燃やされたのであった。
イフリートとなった正志の「聖」の能力には概念や存在そのものを燃やす力が宿っている。
ICEの中でも特異中の特異。
宇宙創造の神として拝められたメルフェンティスの力を継ぐ者として相応の力と認めざるを得ないだろう。
その力を直に食らったオルガナイザは、その能力を行使しても正志の炎で能力ごと焼かれている。
三神と讃えられてきたオルガナイザという圧倒的な存在でも、
その力には歯が立たずにもがき苦しんでいる。
「スパルスヨ……イマヒトツニ……」
イフリートと化した正志は既に自我は無く、そのままオルガナイザが守っていた扉へと進む。
扉は呆気なく燃やされ、正志はWONK最上階へと到達した。
正志が去った後も、オルガナイザはもがき苦しんでいた。
グオォォォ……とその方向には生気はない。
オルガナイザの身体の1/3が焼けた時正志に空間事焼かれたはずの入り口が歪み、
外から大きな翼の生えた巨体が室内へ入ってきた。
三神 フォア=カンタであった。
フォアは燃え尽きようとしているオルガナイザを一瞥し正志が進んだ奥の扉を見た。
「シルヴァネスは既に去ったあとか。この様子だと、オルガナイザ相手にも苦戦することもなく進んでいったようだな」
フォアは再度オルガナイザを見下ろし、胸のハッチを開く。
「オルガナイザ。貴様の能力は獣が持つには実に惜しい。私がその力引き継ぐぞ」
そう言い放つと、胸のハッチが開けられた穴は大きく空気を吸引し始め、
燃えカス同然のオルガナイザを体内に吸収した。
フォアはオルガナイザを吸収し終えるとハッチを静かに閉め、
当たりは静かに火炎音だけがゴォっと響きわたる。
*****
正志は正気に戻ることなく、炎魔の姿のままオルガナイザを後にどんどん上階へすすむ。
もちろん進んでいる間にWONKの戦闘兵や機械が行く手を阻もうとするも、
邪侵(9)の階級を一撃で打ち負かしたそれは止めることはできず、
ただ突き進むだけの正志に手も足も出なかった。
光線、爆撃、剣劇すべては業火に焼かれ正志は反撃せずとも周りが勝手に燃えていく。
目に映る光景がすべてが地獄と化す。まさに炎魔にふさわしい能力を保持していると言える。
正志は止まることなく上階へ進み続け、ついに最上階であろう大門の前に到着した。
その見るにも頑丈そうな鉄の大門はその姿からは虚しく正志の業火に焼かれその役目を果たせなかった。
最上階へ到着。
そこは大きなホール状の部屋で円形となっていた。
部屋の中心にはおそらくすべての機械を司っているであろう巨大な機械が聳え立っていた。
その陰から、二人の人物が姿を現した。
「素晴らしい!あのオルガナイザを一撃で葬ったとはな。……その力は神にも匹敵するだろう。」
二人のうち一人のが口を開いた。大きなローブに身をくるんだ老人。
WONKの最高司令のオッドクックだった。
さらにもう一人が口を開く。
「たかが片割れの力が…シルヴァネス。私こそが真の業火の使い手として、父アントムの息子として、
貴様とここで決着をつけさせていただく」
口を開いたのはICEを裏切った炎のICEベルモンテだった。
その口調から怒りがこぼれており、その対象は炎魔と化した正志に向けられていた。
正志は何も答えず、ただその場に止まり様子をうかがっているようだった。
「ここはお前に任せるとする。ここは特殊なフィルターがかけられているので大暴れしてもびくともせんだろう。私は最後の仕上げに取り掛かる」
「了解した。こいつを殺しそちらへ向かう」
オッドクックは不敵な笑みを浮かべ、そのまま奥のエレベーターのようなものに乗り込み姿を消した。
その場は正志、ベルモンテの二人のみとなりしばらく沈黙が続く。
「シルヴァネスよ。貴様だけは…貴様だけは私だけの力で越えなければならない!」
ベルモンテの口調がどんどん熱くなり、怒りが込み上げてくるように次々に言葉が紡がれる。
「貴様が現れた途端に、ICE内は一気に話題は貴様の話題で持ちきりとなった…あのメルフェンティスの息子、シルヴァネスが突然姿を現したと。それまでの間、炎のICE使いとして私は揺らぎようのない地位に就いていた。私は地球を支配する為、前線に立ち地球人、WONKどもを一掃しようと尽力した。それまでは順調に推移していたのだ…だが貴様が来てからはどうだ?皆貴様の言葉を神の言葉のごとく信頼し、服従した。地球を守るために戦えだと?ふざけるな!我々ICEの真の存在意義は全宇宙の統治。父の念願、夢でもあった…それを貴様の一言でひっくり返されたのだ!それ以降は誰も私の声に耳を傾けなくなり、私は孤立した」
ベルモンテの口調が徐々に弱々しくなっていく。それ程孤立した状況が苦痛でだったのだろう。
ベルモンテは続けた。
「反乱の意思を持つものは私のほかにはおらず、私はついにWONKに寝返った。そうだとも!貴様らの奇襲をあらかじめ報告したのは私だ!私がすべてやったのだ!父の夢、宇宙の統治が叶うならWONKとして戦うのも厭わない。いざWONKに来てみたらどうだ?オッドクックは素晴らしい研究をしているではないか!その研究の力にて私はさらなる力を得た。」
徐々に部屋の温度が高くなる。
ベルモンテはその得た力を正志。シルヴァネスに見せつけるつもりだ。
みるみる姿かたちが変化していき、その姿は正志とは違った形をしているが同種と言っても差し支えなかった。
大きな一本の角に炎の翼。目や鼻の形はわからないが人型の魔人。
今この場には炎の魔人が2体並んでいる状態である。
「さぁ、これが私の。。。いや、父と私の力だ。父、メルフェンティスの炎の力と私の炎が合わさり、ここに最強の炎魔人が誕生したのだ!貴様にはもう負ける気がせん!」
そういってベルモンテは高笑いをした。
正志はその話を聞いているのか、何かを感じているのかも分からないままその場に佇んでいた。
何かを感じているのか。