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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第五章

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93話 裏切り者

 クレオンはシアに会いたいと言った。

 けれど、それは絶対に叶わない願いだ。


 死んだ人間は蘇らない。

 それは万古不易の真理だ。


「ああ。そのとおりだ。だから、僕が言っているのはただの願望だよ。ただ、どうしてシアが死ななければならなかったのか、僕は今でも疑問に思うんだ」


「それは……」


 俺が言葉に詰まると、クレオンは俺の肩に寄りかかったまま言う。


「僕たちにシアを魔族から守り切る力がなかったからだ。たしかにそれは間違いない。けれど、問題はそこじゃない」


「つまり?」


「神はどうして一人の少女を死なせたもうたのか、ということさ」


「べつにシアは神様に殺されたわけじゃないよ。遺跡で魔族の手にかかって命を落としたんだ」


「帝国教会に言わせれば、全知全能の神はその分身たる聖霊を遣わしてこの世界を作り、正しい姿へ導いている。人も草木も獣もひとしく神によって作られた被造物だ。そして、形あるものはすべて滅んだ後、霊魂となり神と聖霊のもとへ、死後の世界へと帰っていく」


「何が言いたいんだ?」


 俺たちはとぼとぼと遺跡の隙間を歩いていて、互いの声が壁で跳ね返り、道に響いた。


 帝国教会の教義なんて、この国に住んでいれば子どもでも知っている。

 なにせこの国の臣民の九割以上が帝国教会の信者だからだ。


「僕が言いたいのは、こういうことだ。もし神が万能で、この世のありとあらゆるを作ったというのなら、どうして何の罪もない女の子の死を許したんだ? シアが死ななければならない理由はなかった。もし神がいるのなら、どうしてあんな優しい子を見捨てたんだ?」


 俺は言葉を失った

 クレオンが言っているのは帝国教会の教義に対して、歴史的にもよく繰り返されてきたものだった。


 万能の正義の神がいるなら、どうして悪が、理不尽が許されるのか。

 帝国教会の聖職者たちはこの問題に答えるために、ずっと頭をひねってきた。


 同時にそのような疑問を持つ者を徹底的に弾圧し、信仰への疑いを抑えてきたのだった。

 今はもう、帝国教会に異議を唱えただけで処刑されるような時代ではない。


 けれど、仮にも帝国中枢にいる大貴族の言葉としては穏やかなものではなかった。


「神様に文句を言っても、シアが帰ってくるわけじゃないよ」


「わかっているさ。だが、君だって、もしソフィアが、あの皇女フィリア殿下が無惨な殺され方をしたら、同じように神を呪いたくなるはずだ。そして、天秤を正しい位置へと直したくなるに違いない」


「天秤を直す?」


「昔は弱かった冒険者の世迷い言さ。忘れてくれ」


 クレオンは落ち着いた口調で言った。

 天秤を正しい位置に直す、ということは、今は誤った位置に天秤があるということだ。

 それが何を意味しているかはわからない。


 クレオンに尋ねようとしたとき、通路の隅の洞穴から犬型の魔族が飛び出した。

 犬といっても獰猛な大型犬の形をしており、その秘めている魔力量からしても、普通の冒険者にとっては大きな脅威になるだろう。


 鋭い牙が俺たちに向けられている。


 俺はクレオンをその場の壁へと下ろすと、にやりと笑った。


「まだ毒から治っていないだろうから、クレオンはそこで待っていてよ」


「不満だが、そうさせてもらおう」


 クレオンがそう応じたのを確認し、俺は宝剣テトラコルドを抜いた。

 そして、剣を一振りする。


 宝剣の引き起こした風魔法で、魔族の犬は壁に叩きつけられる。

 さらに俺は剣を一閃させた。


 次の瞬間、魔族は大きな唸り声を上げ、そしてそのまま倒れた。

 いくら普通の冒険者にとって脅威でも、仮にも聖ソフィア騎士団の幹部だった俺にとっては大した敵ではない。


 当然、クレオンにとっても微弱な敵のはずだが、神経毒にやられたクレオンはそんな魔族すら倒すことができない。

 だから、俺がいなければクレオンは生還できなかっただろう。


「こういう形でクレオンを助ける日がまた来るとは思わなかったよ」


「僕もさ。もう君に頼るのは二度としたくないが、今回は礼を言っておこう」


 クレオンはゆっくりと立ち上がった。

 なんだかクレオンは俺に助けられるのが、嫌なようだった。


 まあ、自分が追放した相手だからかもしれない。

 

 クレオンは忌々しそうに吐き捨てた。


「僕らのなかに裏切り者がいなければ、こんな失態は犯さなかったんだが」

 

「俺のこと? さっきも言ったけど、俺はクレオンを殺そうとなんてしていないよ」


「君のことじゃない。僕の命を奪おうとした本物の裏切り者が別にいるのさ」

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