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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女コミカライズ連載開始!
第五章

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91話 陥穽

 犠牲を出しながらも、俺たちはなんとか第七層の攻略を終えた。

 

 一人の剣士の男が大理石の床をじっと見つめていた。

 そこには人型の黒い影があった。

 

 翼虎の放った業火によって、命を落とした冒険者の痕跡だった。

 その剣士は涙ひとつ見せなかったが、冒険者の死を悲しんでいるのは明らかだった。


 おそらく仲間だったのだろう。

 彼は恨みのこもった目で、クレオンたちを見ていた。


 もう一人の犠牲となった魔術師の死体のそばでは、その仲間と思われる少女たちが嗚咽をもらしていた。

 

 そうした声を聞くだけで、他の冒険者たちの戦意は下がる。

 次は自分の番かもしれない。


 クレオンは魔術師の死体のそばに近寄ると、「手厚く埋葬しよう」と言って、泣いている仲間たちを慰めようとしていた。


 彼女たちは死体を地上に連れて帰りたいと訴えていたが、クレオンの立場を想像すれば、そういうわけにはいかないと思う。

 まだ攻略の前途は長く、遺骸を持っていけるほどの余裕はないのだった。


 ともかく、翼虎の死により、第七層の最奥にあった巨大な扉が開いた。

 いろいろな準備を終えた後、さらに深い層へと俺たちは進むことになる。


 休息をとるあいだ、フィリアが全体に対して労いの言葉をかけていた。

 形だけとはいえ、攻略隊の総指揮官らしい雰囲気が出ている。


 リサが俺のそばに寄ってきて、ささやく。


「ソロンさん! 無事で良かったです」


「ありがとう。危ないところだったよ」


「でも、カッコ良かったですよ! 賢者様をたった一人で命がけでかばって、成功させちゃったんですから!」


 聖ソフィア騎士団に憧れのあるリサにとっては、賢者アルテも尊敬の対象なのかもしれない。

 リサは目をきらきらさせながら、俺を上目遣いに見つめた。


 ちょっと苦笑してしまう。


 それに、俺はそんなにすごいことをしたわけじゃない。


「あれはフローラが助けてくれたおかげだよ」


 そういえば、フローラに礼を言っていない。

 俺はフローラを探したが、見当たらなかった。


 どこへ行ったんだろう?

 

 クレオンがいよいよ再度の出発を宣言しようとしたとき。 

 床の下、側面の壁から、遥かに高い天井から、激しく響く音がした。


「なんですか、この音?」


 リサが不思議そうに天井を見上げた。

 嫌な予感がする。


 次の瞬間、大理石の床にひびが走り、間をおかず崩れ始めた。


「崩落するぞ! 第八層の扉へ走れ!」


 クレオンが叫んだが、その声が他の冒険者たちの悲鳴でかき消された。

 七層の地盤が崩れ、下の階層へと落ちかけている。


 クレオンの言うとおり、第八層への階段を先に降りてしまうことが必要だ。

  

 ラスカロスとナーシャがフィリアを連れて、第八層へと走り出す。

 俺も駆け出そうとしたが、その前に俺の隣のリサがぐらりと揺れた。


 リサの立っていた床が崩れたのだった。


「きゃあっっっっ!」


 悲鳴を挙げるリサの手を間一髪のところでつかむ。

 リサの身体は床の下にあり、その下には真っ暗な闇が広がっていた。

 

 俺の腕のみを頼りにぶら下がっているリサを、俺は力を入れて引き上げる。 

 涙目のリサが俺を見つめる。


「あ、ありがとうございました」


「どういたしまして。ともかく、早くここを離れないと……」


 大多数の冒険者は難を逃れ、安全な第八層への階段へと移ったようだった。

 あと広間に残っているのは、俺たちと、クレオン、カレリアの二人のようだった。


 カレリアも同様に崩落に巻き込まれかけ、そこをクレオンに助けてもらっていたのか、赤い顔でクレオンにお礼を言っていた。


 俺たちは立ち上がり、穴だらけの床を歩きはじめようとした。

 遺跡の崩落はたまにあるけど、ここまで大規模なのは珍しい。


 もしかすると、これも遺跡に仕掛けられた罠なのかもしれない。

 古代王国の末裔がその過去の宮殿を守るために、ネクロポリスに罠を仕掛けたという話は事前に調べていた。

 そうだとすれば、もっと凝った仕組みがあってもおかしくないな、と考え、俺は上を見上げた。


 天井からなにか降ってくる。

 とっさに俺はリサを突き飛ばした。


 リサが悲鳴を上げて、尻もちをついていたが、俺の判断は正解だった。

 上から落ちてきたのは泥状の魔族だった。

 

 俺は宝剣テトラコルドを抜いて一閃させた。

 魔族は一刀両断され死んだが、問題はその次だった。

 

 泥状の魔族の死体はかなりの質量があるようだった。

 同じ床に俺も乗っている。


 そして、この層の床は崩壊しかけだ。

 大理石の床はあっさりと崩れた。 


「ソロン!」


 広間の端からフィリアの悲痛な叫び声が聞こえる。

 リサも大きく目を見開き、落ちていく俺を見つめていた。


 暗闇のなかへと背中から吸い込まれていき、俺は遠ざかっていく光を見ながら思った。

 これは死んだな、と。


 死を目前にしたわりには意外と冷静なものだな、と自分のことながら思ったけれど、残されたフィリアたちのことを思うと後悔の念に駆られた。


 フィリアを守るのは、ラスカロスたちに期待するしかない。

 それに、師匠としてフィリアにもうなにか教えてあげることもできない。ソフィア、クラリス、ルーシィといった人たちの顔が浮かぶ。


 俺は固く目をつぶった。

 強い衝撃とともに、俺は地面に叩きつけられた。


 おそるおそる俺は起き上がった。

 真っ暗だ。

 けれど、死んではいない。


 泥状の魔族の死体に包まれて、それがクッションになったのだと思う。

 それと、床の下の次の層が、意外と離れていなかったためでもある。

 

 第七層と第八層の中間の空間に俺は落ちたのだった。

 

「光を」


 俺は宝剣で軽く床を叩いた。

 そうすると、ぼうっとした薄く白い明かりがあたりを包む。

 

 あたりは狭い洞穴のようになっていて、その隅に俺は意外な人物がいるのを認めた。


「クレオン?」


「ああ。どうやら、ここに落ちたのは、僕と君だけみたいだな」


 聖騎士の純白の衣服に、紫色の魔族の泥をかぶり、クレオンは不機嫌そうな顔で俺にうなずいてみせた。


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