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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女コミカライズ連載開始!
第五章

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74話 攻撃魔法のお勉強

 大図書館へはフィリアも連れて行こう。

 きっといい経験になる。


 でも、今日のところは基礎的な魔術の訓練だ。


 そう思っていたら、フィリアが着替えを終えて、部屋から出てきた。


 俺は意外に感じた。

 

 いつもみたいにワンピース姿かと思ったら、動きやすそうな軽装だったのだ。


 フィリアは青色のズボンを履いていて、前つばのある帽子を銀色の髪にふわりとかけている。

 そして、俺が贈ったサクラの杖を大事そうに両手で抱えていた。


「どうしたんですか? いつもと格好が違うような……」


「魔法を教えてもらうなら、動きやすい服装のほうが便利かなって思ったの。ね、似合ってる?」


「とても似合ってると思いますよ」


 いつものワンピース姿だとお姫様って印象が強いが、今のフィリアは元気で天真爛漫な町の美少女といった感じだ


 これはこれで、けっこう可愛いと思う。

 廊下の壁を背に、フィリアもくすりと笑った。


「それにしても、気合が入ってますね。授業のために服装に気を使うなんて」


「だって、ソロンが魔法を教えてくれるんだもの」


 期待されているんだな、と俺は思った。

 短期的にはネクロポリス攻略作戦で身を守る術をフィリアに教える必要がある。


 けれど、本当の目標はフィリアを偉大な魔術師にすることだった。

 俺は魔術師としては平凡だけれど、フィリアには俺よりも遥かに高い魔法への適性がある。


 俺たちは二人で屋敷の庭に出た。

 芝生の敷かれた広い空間に、俺とフィリアは向かい合って立った。


 屋敷の建物からは距離をとっている。

 

 なぜここを選んだかといえば、書斎で授業をすると部屋を壊しかねないからだ。

 これからフィリアに教えるのは、攻撃・防御魔法だった。


「フィリア様。攻撃魔法と防御魔法だったら、どちらから習得したいですか?」


「攻撃!」


 即答だった。

 まあ派手なのは攻撃魔法だし、フィリアの積極的な性格からしても、その方が性に合うかもしれない。


 俺は宝剣テトラコルドを鞘から抜くと、一振りした。

 木でできた杭のようなものが、その場に三本立つ。


 俺はそれを指し示した。


「とりあえず、この杭を敵だと思ってください」


「うん。それで?」


「杖を構えて、『燃えよ』と唱えて、この杭を燃やしてみてください」


 フィリアは炎魔法をまったく使えないわけじゃなく、紅茶のためにお湯をわかすために利用していた。

 でも、それと攻撃魔法とは別だ。


 フィリアはサクラの杖をかまえ、綺麗な声で詠唱した。

 

「燃えよ!」


 しかし何も起こらない。

 フィリアはずっと杖なしで簡単な魔法を使ってきたから、杖の力を借りることにまだ慣れていないのだと思う。


 俺は「失礼します」と言って、フィリアの手をそっと握った。

 フィリアがちょっと赤面したが、気にしないことにする。


「こないだみたいに、魔力を杖に通すのを手伝います」


 俺の言葉にフィリアはうなずき、もう一度「燃えよ!」とつぶやいた。

 そうすると、木の杭に火がつき、ちょろちょろと煙を上げ始めた。


「できたのかな?」


「成功ですよ」


 俺は微笑んだ。

 けれど、フィリアは自分の杖を、わずかに燃えている杭を見比べ、不満そうにした。


 まあ、残念だけど「攻撃魔法」というレベルには達していない。

 これでは魔族を倒したりはできないだろう。


「攻撃魔法って、アルテさんが使ってたやつみたいな、どーんとやって、ばーんみたいな、派手なのを想像していたのに」

 

「アルテは別格ですよ。人格はともかく、あれでも帝国で最も優秀な賢者の一人ですからね。あれだけの力を使おうと思えば、フィリア様も賢者になるしかありません」


「わたしが賢者?」


「なれるとは思いますよ」


 今はまだまだフィリアは未熟だけれど、その高い魔法適性からすれば、アルテのような賢者になることも不可能じゃないと思う。

 

 賢者フィリア。

 俺の弟子がそういうふうに名乗ることができれば、悪くない気分がすると思う。


 でも。

 俺は賢者となったフィリアがどんな格好なのか考えてみた。


 フィリアが黒いローブと三角帽子を身に着けて、しかめっ面をしているところを想像して、俺は微笑ましくなった。


 あんまり似合わない。

 フィリアが頬を膨らませる。

 

「ソロン。なにか失礼なことを考えてない?」


「なにも考えていませんよ」


「ふうん。べつにいいもの。わたしは賢者じゃなくて、ソロンみたいな魔法剣士になるんだから。ね?」


「フィリア様が魔法剣士になりたいって言ってくれるのは嬉しいです。でも、選択肢はたくさんあるんですから、じっくり考えたほうがいいですよ。まあ、でも」


「でも?」


「賢者でも魔法剣士でも、まずは簡単な攻撃魔法ぐらい使えないといけませんからね」


「はーい」


 フィリアはもう一度、杖を構えた。

 俺は後ろからフィリアに語りかける。


「コツは、その杭がうまく燃えている姿を強くイメージすることです。何が目的で魔法を使っているかをしっかり把握できていることが重要ですからね」


「うん」


 フィリアはサクラの杖をふたたび杭に向けて、詠唱をした。

 すると杭にぱっと火がつき、綺麗に燃え始めた。

 そして、ほとんど間を置かず、そのすべてを炭にした。


「やった!」


「よくできました」


 俺はそう言ってフィリアの頭を撫でた。

 フィリアは嬉しそうに微笑む。


 やっぱり、フィリアは要領がいい。

 あっさりと第一のステップを乗り越えた。


 要領の良さというのは人それぞれで、魔法学校の一年生だったときのクレオンなんて、このぐらいの魔法を習得することがなかなかできずに苦しんでいた。

 まあ、その後、クレオンは急激に成長し、今では帝国最強の騎士なのだけれど。


 俺はフィリアに言う。


「では、次の杭を燃やしてみましょう。簡単な防御魔法がかけてありますから。これを超えるぐらいの強さの魔術をかけようと頑張ってみてください」


「わかったよ。強い魔法だよね」


 フィリアは得意げに杖を構え、そしてさっきと同じように魔法の呪文を詠唱した。

 さっきの成功で、フィリアはだいぶ自信を持ったらしい。


 フィリアはとびきりの笑顔だった。


 けれど次の瞬間、フィリアの魔法は暴発した。


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