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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第四章

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65話 泣き出す皇女

 イリスはさっと顔色を変えた。

 自分に異を唱えたガポンを、イリスは憎悪のこもった目で睨みつけていた。


「この私を愚か者だというのですか?」


「そのとおり。今の殿下には、愚か者という言葉こそがふさわしい。陛下がこのようなところをご覧になれば、イリス殿下にどのような罰をくだされるか……」


「ガポン! ちょっと陛下に気に入られているからって、皇女である私に対して、無礼です!」


「殿下。わかっておられますかな? 私が陛下にこの醜態をお伝えしてもよいのですぞ?」


 カポンが低い声で言うと、イリスはびくっと震えた。

 そして、イリスは悔しそうに黙った。

 

 ガポンは皇帝に対して強い影響力を持っているらしい。

 この傲岸な皇女イリスを黙らせることができるほどなのだから、ガポンの意見はよほど重要視されているんだろう。


 イリスは不機嫌そうにガポンから目をそらし、つかつかと俺のほうへ向かって歩いてきた。

 俺は警戒したが、イリスが用があったのは俺ではないらしい。


 さっきまで俺と戦っていた少女の前にイリスは立った。

 少尉の階級章をつけた少女は、善戦したけれど俺に敗れ、いまは地面に膝をついて両手を上げて無抵抗な状態になっていた。


 軍服の少女はイリスを訝しげに見上げた。

 次の瞬間、イリスは少女の腹を蹴り上げた。


「この役立たず! あなた、軍人なんでしょう!」


 少女はその場に崩れ、痛みに顔を歪めた。

 けれど、悲鳴は上げなかった。

 軍人だからだろう。


 イリスは今度は少女の背中を踏みつけた。


「仮にも帝国軍の将校でありながら、私に恥をかかせるなど……恥ずかしいとは思わないのですか!?」


「そんなに言うなら殿下がソロン殿を倒せばいいでしょう? できないんですか?」


 少女は痛めつけられながらもにやりと笑った。

 イリスは顔を赤くし、剣を抜いた。


 まずい。

 イリスは癇癪を起こして、この少女軍人を殺すつもりらしい。

 少女の上に振りかざされた剣は弾き返された。


 俺が宝剣を使って、少女をかばったからだ。


「イリス殿下……ご自身のために戦った臣下の命を奪うつもりですか?」


「それのなにが悪いっていうの!?」


 イリスは剣を構え、そして、俺へ向かって踏み込んだ。

 

 甘い。

 

 俺は剣をまっすぐに振り下ろし、皇女イリスの剣をとらえる。

 イリスの剣は、宝剣テトラコルドの剣撃に耐えきれず、あっさりと砕けちった。


 愕然とした表情のイリスに、俺は剣を突きつけた。


「人に対して剣を振るう資格があるのは、自身もまた剣によって命を奪われる覚悟のある者だけです。殿下はその覚悟があるのですか!」


「私は……」


「今、俺の剣は、すぐにでも殿下の命を奪える位置にあります」


 自分の首に突きつけられた剣を見て、イリスは弱々しくなにかをつぶやこうとした。

 けれど、イリスは言葉を声にする前に、その場に膝をついて、幼い子どものように泣き出してしまった。


「嫌だ……ごめんなさい……殺さないで」


 俺は宝剣を鞘にしまった。

 そして、俺は身をかがめて、イリスの瞳をのぞき込んだ。


「殿下に怖い想いをさせてしまい、申し訳ありません。俺は殿下を殺したりしませんよ。ですから、殿下も人を軽々しく殺したりなど、しないようにしてくださいね? 誓ってくれますか?」


「……うん」


 イリスはこくこくとうなずいた。

 別にイリスが悪いわけじゃない。

 イリスはフィリアよりも一つ年上なだけの少女なのだ。

 一番悪いのは、イリスをこういうふうに非常識に教育してきた帝国のはずだ。


 俺は微笑して、イリスの頭を撫でた。

 びっくりした様子で、イリスが顔を赤くした。

 

「約束を守ってください、イリス殿下」


 イリスは素直に、もう一度うなずいた。


 俺は立ち上がると、周りを見回した。

 なぜかフィリアが頬を膨らませて、俺を不満そうに睨んでいた。

 どうしたんだろう?


 それはともかく、さすがにイリスに剣を突きつけたのはまずかったか。

 イリスがしようとしていたことを考えれば、反逆罪には問われないとは思う。

 役人たちも、泣き出したイリスを見て、溜飲を下げた様子だった。


 ただ、安心はできない。


 けれど、ガポン神父がにっこりと微笑んだ。

 

「素晴らしい。さすが魔法剣士ソロン。君は教育者としても優秀なのかもしれんな。一部始終を見させてもらっていたが、皇女フィリア殿下は優れた資質をもつ方のようだ。皇帝の名代にふさわしいのは誰かは明らかだと思わないかね?」


「名代はイリス殿下でしょう?」


「いや。このような愚かな娘を皇帝の名代にしておけると思うかね? 殺すべき相手と殺してはならない者の区別もつかないのだぞ? それに、この様子ではとてもイリス殿下には務まらないだろう」


 イリスは放心状態でその場に座りこんでいた。

 たしかにガポンの言う通り、イリスはしばらくは再起不能だろう。


 とすれば、この場の皇帝の代理人が誰かになるか。

 当然、別の皇族だ。


「この場の皇帝の代理は聡明なフィリア殿下だ」


 そう言うと、ガポンは七月党の罪人たちを指さした。

 彼らはやや離れた位置に縛られている。

 その数はおよそ数十名。


 処刑対象のなかには七月党の幹部本人だけでなく、その家族も含まれている。

 年老いた父親。美しく若い妻。学生らしい少年の息子。

 そういった幹部の家族たちが怯えた目でこちらを見つめていた。


 ガポンは宣言した。


「さあ。罪人たちの処刑を始めよう! まずは、皇帝の代理人たるフィリア殿下自らに、この者を処断していただく!」


 そして、ガポンは、十歳ほどの幼い女の子を指さした。

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