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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる  作者: 軽井広@北欧美少女ノベル5巻が8/25から発売!
第四章

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59話 皇帝官房第三部の代理人

 耳元で優しい声がした気がした。

 いや、気のせいじゃない。


 俺はうつらうつらしながら、その声を聞いていた。


「わたしは、ソロンのこと、大好きだよ。でも……」


 その続きは聞き取れなかった。

 夢か、現実か、はっきりしない。


 とんとんと、軽く肩を叩かれた。

 それから、頬を引っ張られる。


「ねえ、起きて。ソロン」


 目を開けると、すぐ近くに寝間着姿のフィリアがいた。

 フィリアは微笑み、俺の瞳をのぞき込んでいた。


 書斎で椅子に座り、フィリアが遺跡のことを調べる姿を眺めていたら、いつのまにか寝てしまったらしい。

 窓の外はもう、明るくなりはじめていた。

 慌てて俺は椅子から立ち上がった。


「ふぃ、フィリア様! 申し訳ありません!」


「ソロンが謝ることないよ。わたしが無理を言って、この部屋にやってきたんだし。眠かったのに、ごめんね?」


「いえ、せっかくフィリア様に授業をしてさしあげたかったのに、寝てしまうなど、情けないかぎりです……」


「いいよ。ソロン。わたしも一緒に寝ちゃってたし。代わりに、おはようのキス、してもいい?」


「え?」


「前はソロンがわたしを起こしてくれて、おはようのキスをしてくれたよね?」


「あー、そうでしたね」


 俺が父の役で、フィリアが娘の役という設定で演技していたとき、父は娘におはようのキスをしてくれるものだと、フィリアに迫られた。

 そして、俺はフィリアの頬にキスしたのだ。


 でも、今はそうじゃない。


 フィリアが楽しそうに言う。


「もういっぺん、『父と娘ごっこ』する?」


「あれは疲れますから勘弁してください」


「残念。でも、おはようのキスはするからね? クラリスやソフィアさんと一緒の部屋でするわけにはいかないし、だから、いましかできないもの」


「いや、別にする必要があるというものでもないのでは……?」


「わたしがそうしたいの。今度はわたしからソロンにする番だから」


「ええと。前も言いましたけど、そういうのは、父と娘か、恋人同士でするものですよ」


「うん。わたしたちはどっちでもないよね。でも、大事な師匠に、感謝の気持ちを込めてするのは、そんなにおかしいことかな?」


「俺がルーシィ先生の頬にキスをしたりしてたら、変だと思いません?」


 俺の師匠のルーシィは、年齢がそれほど離れていないせいか、俺との距離感が近かった。

 けど、頬にキスをしたりなんてしたことはない。

 フィリアが首をかしげた。


「うーん。ソロンがルーシィとそういうことをしてたら、ちょっと嫌な気分になるかな」


「そうでしょう?」


「でも、ソロンがわたしとそういうことをしてくれるのは、大歓迎なの。わかる?」


 フィリアが上目遣いに俺を見つめた。

 俺が戸惑っていると、フィリアは微笑んだ。


「ソロンは何もしなくていいんだよ。ただ、わたしがキスをするのを受け入れてくれればいいだけ。簡単でしょ?」

 

「いや、でも、ですね……」


「ソロンが立ったままだと、キスできないよ。わたしのほうが背が低いから。ね、座って?」


 俺はためらった。

 ここでフィリアの言うとおりにしていいんだろうか。


 でも、フィリアをほったらかして寝てしまった負い目もあるし、断りづらい。

 それに頬にキスされるだけだ。


 俺は観念して椅子に腰掛けた。

 フィリアは真正面から俺を見つめ、少し顔を赤くした。


「自分からするのって、恥ずかしいね」


「俺も恥ずかしくなりますから、そういうこと言うのはやめてくださいよ」


「だって、前は頬にキスしたときも、甲にキスをしてくれたときも、ソロンからしてくれたもの」


「まあ、そうでしたが」


 どちらもフィリアのお願いを聞いて、キスしたのではあるけれど。

 フィリアの視線はじっと俺に注がれいて、たぶん、俺の唇のあたりを見ていた。


 フィリアがそっと俺に顔を近づけてきた

 慌てて俺は口の前に人差し指を立てた。

 

 ちょんと人差し指に、フィリアの唇が触れる。

 

「フィリア様……キスするのは頬のはずですよね?」


「そ、そうだよ?」


「いま、俺の唇にキスしようとしていませんでしたか?」


「き、気のせいだよ」


 そう言って、フィリアは顔を真赤にした。

 口の前に立てた人差し指に、フィリアの唇が触れたのだから、フィリアは嘘をついている。

 きっと唇同士でキスをするつもりだったのだ。


 でも、それはさすがにまずい。

 俺は立ち上がり、微笑んだ。


「嘘つきの悪い子には、おはようのキスをしてもらう必要はありませんからね」


「そ、ソロン。ごめん、嫌だった?」


「嫌ってわけではないですけどね」


 こんな可愛い子にキスされて嫌な男はいないと思うけど。

 でも、そういう問題じゃない。

 俺は続けた。


「そういうのは、フィリア様が本当に好きになった、大事な人にしてあげてください。師匠をからかうためにするものではありませんよ」


「ソロンはわたしのこと、大事じゃないの?」


「大事ですよ。大事な俺の弟子です。だから、フィリア様と普通の意味でのキスをするわけにはいきません。代わりに俺にできるのは……」


 ぽんぽんと俺は机の上の事典を叩いた。

 俺の役目はフィリアの師匠だ。

 だから、フィリアには、魔術でも、それ以外の面でも一人前になってほしい。


「さあ、勉強の続きをやってください!」


「ええっ」


「とりあえず俺は軽食と飲み物を持ってきますから。頑張れますか?」


「……うん。頑張るよ。ソロンが教えてくれるんだもの」


「ありがとうございます」


 俺は微笑み、フィリアが作業にとりかかったのを確認して、部屋の扉を開けて厨房へと向かった。


 フィリアに言ったとおり、フィリアは俺を慕ってくれる大事な弟子だ。

 俺にできるのは、フィリアを教え導き、そして守ることだ、

 

 それはネクロポリス攻略阻止よりも重要なことだと思う。


 俺は厨房へ向かう途中で、ふと新聞を読みたいなと思い、屋敷の入口に行って、日刊紙『言論』の朝刊を回収した。


 新聞には、悪魔や混血者の虐殺が帝国辺境で起きたことや、アレマニア・ファーレン共和国との戦況がさらに悪化していることが書かれていた。


 それに、七月党幹部のポロスたちの公開処刑が今日、予定されていることも報じられている。

 反政府組織の七月党はまだ壊滅したわけではなく、幹部の一部が逮捕されたに過ぎない。

 その勢力は帝国政府にとって大きな脅威となっていた。


 処刑実行の予定地を見て、俺は驚いた。

 この屋敷のすぐそばだ。


 そのとき、朝靄のなかから一人の男が現れ、屋敷の入口に立った。

 黒服の長身の男は、胸に金色の十字架をかけていた。

 その十字架は、彼が帝国教会の聖職者であることを示していた。


 男は死んだような虚ろな目で俺を見つめ、そして告げた。


「私は皇帝官房第三部の代理人・神父ガポンだ。君は魔法剣士ソロンで間違いないね?」


「そうですが……」


「皇女フィリア殿下にお越し願いたい。七月党の反逆者の処刑だが、殿下に立ち会っていただきたいのだよ」


 ガポン神父は淀んだ声でそう言った。

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[一言] 読み始めました。アルテがキモすぎてヤヴァイ
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