257話 魔法剣士リディア
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いつもどおり応接室で、俺は客人を迎えた。
といっても、今回はとても緊張する相手だ。
召喚士ノタラスや聖騎士クレオンといったかつての仲間が俺の屋敷にやってきたときも、俺は緊張したけれど、今回は方向性が違う。
相手は俺の一つ年下の幼なじみ。しかも、主家である公爵家の娘リディアだった。
病弱な女の子で、俺を頼りにしてくれていた。俺は公爵家の執事の息子で、一時は執事見習いをしていたし、俺は一生、彼女と彼女の家に仕えるものだと思っていた。
そうならなかったのは、リディアとその父の公爵が、俺の才能を評価して魔法学校に入れてくれたからだ。
そういう意味では、俺はタルーサ公爵家に感謝しても感謝しきれない。俺は冒険者としての活動と出資している商会を通して、学費の何倍にもわたる利益を公爵家にもたらしたと自負している。
それでも、俺は公爵家に頭が上がらないし、今でも、何かあれば公爵家のために働くつもりでいる。
リディアとはもう長らく会っていない。とはいえ、彼女が尋ねてきた理由が何であれ、歓迎するし、必要なら力になるつもりだった。
部屋の扉が開けられる。メイドのクラリスが興味津々といった様子で、リディアを案内してきた。
俺は立ち上がる。
入り口には長身のすらりとした女性が立っていた。
茶色の髪を肩までふわりと伸ばしている。そして、同じく茶色の瞳が明るく輝いていた。
「久しぶり、ソロン」
穏やかにリディアは言った。昔とは違って、今のリディアは健康そうだった。病気も落ち着いているらしい。
ただ、それより驚いたのは、その冒険者風の黒い服だった。コートのようなものを着ている。
そして、腰には剣を下げている。
俺はぺこりと頭を下げる。
「ご無沙汰しております、リディアお嬢様」
リディアはふわりと微笑む。しばらく見ないうちに、大人な雰囲気の美人女性になったな、と思う。
「今、ソロン、わたしに見とれていた?」
「い、いえ……そんなことは……」
「隠しても、ソロンのことはお見通しだよ? わたし、ソロンの幼なじみだもの」
「は、ははは。ご明察のとおりです」
俺はリディアに席を勧めながら、汗をかいた。リディアは昔は四六時中一緒にいたから、思考が手に取るようにわかるのかもしれない。
リディアは席に座ると、にやりと笑う。
「もう一つ。この格好に驚いているでしょう?」
「そうですね、それは冒険者の服では……?」
「覚えている? わたし、ソロンと約束したよね? いつか二人で一緒に冒険者になろうって」
「はい、もちろんです」
俺が魔法学校へと行くとき、リディアは「いつかわたしと一緒に遺跡を冒険しようね?」なんて、笑顔で言ってくれた。
本当は俺と離れるのが寂しくて、影で大泣きしていたと公爵から聞いて、俺も彼女と離れるのが辛かった。
その頃のリディアは、病気で明日にも死ぬかもしれなかったし、できれば俺もそばにいたかった。ただ、「わたしのためにソロンの活躍の機会を奪うのは絶対にダメ」と強く言われ、俺は魔法学校に行くことになったのだ。
その後、今はかなり健康になったみたいだけれど……本当に冒険者になっているとは思わなかった。
ふふっとリディアは笑う。
「恥ずかしいからソロンには内緒にしていたけれど、『魔法剣士リディア』といえば西方の辺境では有名なんだよ?」
「ま、魔法剣士!?」
「そうそう。ソロンに憧れて、わたしも魔法剣士になったの」
弾むような声でリディアは言う。
し、知らなかった……。クラリスが紅茶を持ってきて、カップに注いでリディアの目の前に置く。
「ありがとう。可愛いメイドさんね」
「い、いえ……あたしなんて……」
慌てふためくクラリスに、リディアはくすっと笑う。
クラリスと公爵令嬢のリディアでは、かなりの身分差がある。
まあ、それを言えば、俺も平民だから同じだ。もともとタルーサのあたりでは貴族の特権意識は薄いけれど、リディアは病弱だったからか、特にその傾向が強い。
リディアはひとしきりクラリスをねぎらうと、紅茶に口をつける。
「美味しい……。さすがソロン、凝っているね」
「お口にあったようなら、何よりです」
「わたしは昔みたいに、ソロンに紅茶を毎日淹れてもらえる生活を送りたいな」
リディアはちょっと顔を赤くしてそんなことを言う。一方のクラリスは、リディアを警戒するように見ていた。
クラリス――フィリアやソフィアも――の立場からすれば、リディアは俺たちの屋敷での生活の乱入者とうつるのかもしれない。
実際、クラリスの警戒は、的を射たものだった。
「ソロンにね、提案があるの」
リディアが静かに言う。
「俺に提案、ですか?」
「タルーサの……わたしたちの故郷に一緒に帰らない?」
リディアはにっこりと笑い、そんなことを言った。
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