256話 幼なじみの公爵令嬢
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皇宮でのパーティから屋敷に戻ってきた翌日の昼下がり、俺は唖然としていた。
眼の前のフィリアは、書斎の入り口に立って、にこにことしている。
「どう? ソロン? 似合ってる?」
「ええと、似合っていたらまずいと言いますか……フィリア様は皇女殿下ですし……」
フィリアはメイド服姿に着替えていた。クラリスの普段着ているもので、緑色を基調としたおしゃれなお仕着せだ。
フィリアは頬をふくらませる。
「可愛いって言ってほしいのに」
「ど、どうしてメイド服に……?」
「ソロンがメイド服姿のアルテさんにデレデレしているから、真似してみたくなったの」
「で、デレデレなんてしてませんよ……」
俺が反論しようとすると、フィリアがじっと俺を見つめる。
「なら、わたしにはデレデレする?」
「で、弟子にデレデレなんてしませんよ……。まあ、でも、メイド服姿は可愛いと
は思いますが」
「あ、可愛いって言ってくれた!」
フィリアが満面の笑みで言うので、俺はつい微笑ましくなってくすっと笑ってしまう。
とはいえ、いくらなんでも皇女様をメイド服姿のままにしておくのはまずい気がする。
クラリスに頼んで、早いところフィリアには着替えてもらおう。
そう思っていたら、フィリアがとんでもないことを言い出した。
「せっかくメイド服を着たから、なにかメイドらしいことをしてみよっか?」
「そ、それは恐れ多いですから……」
「ソロンが喜ぶようなご奉仕をするよ?」
フィリアがいたずらっぽく言う。
ご奉仕、という言い方が、いかがわしいな……と思ってしまい、それから心のなかでそんな考えを否定する。
「皇女のフィリア様にそんなことをさせるわけにはいきません」
「べつに気にしなくていいのに。それに、わたしはソロンの弟子だもの。師匠に日頃の恩返しをするのも悪くないと思うの」
「フィリア様は良い弟子ですから、そんな気遣いをする必要はありませんよ。フィリア様が俺の弟子でいてくれることこそが、俺にとっての最大の恩返しです」
俺がそう言うと、フィリアはぱっと顔を輝かせて、嬉しそうな顔をした。
これで納得してくれるかと思ったけれど、そうではなかったらしい。
フィリアが俺に一歩近づく。メイド服のスカートの裾がひらひらと揺れた。
こうしていると、可愛らしい少女メイドにしか見えない。
そして、フィリアは俺の後ろに回り込んだ。
「ソロンの肩を揉んであげる!」
「ええ!?」
「だって、ソロン、このところお疲れみたいだもの。……わたしのせいでもあるよね」
フィリアが最後の言葉だけ、小さな声で言う。
俺は慌てて首を横に振った。
「そんなことないですよ」
「そう?」
フィリアは問い返しながら、俺の肩にそっと触れた。
その小さな手の感触が少しくすぐったく、でも、温かかった。
しばらく黙ったまま、フィリアは俺に奉仕……肩揉みをしていた。
慣れない手つきだけれど、フィリアが俺のことを思ってくれているのが伝わってくる。
「ソロン……わたしね……」
フィリアがなにか言いかけたとき、書斎がノックされた。俺もフィリアもびっくりして固まっていると、次の瞬間には扉が開く。
「そ、ソロンくん……大変なことが……」
修道服姿のソフィアが飛び込んできて、そして、俺たちを見て凍りついた。
「フィリア殿下……それに、ソロンくん……」
「な、なにもやましいことはないから!」
「こ、皇女様にメイド服を着せて何をしていたの……?」
俺がぶんぶんと首を横にふると、フィリアが後ろから楽しそうに声をはずませる。
「あ、ソフィアさん、変なことを想像したんだ?」
「な、何も想像していません! そ、それに……」
ソフィアはフィリアに反論しかけたけれど、本題を思い出したのか、そこで言葉を切った。
ソフィアは金色の髪を小さく指ですくい、不安そうに俺を翡翠色の瞳で見つめる。
「タルーサ公爵家の令嬢、リディアさんが玄関に来ているの」
俺は驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになった。
リディアという女性のことを俺はとてもとても良く知っている。
彼女は、俺の主家にあたる貴族の令嬢で、そして、俺の幼なじみだった。
幼なじみが登場する番外編もよろしくです
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